日本シリーズ、オリックスの初勝利で「ガラリと変わるはず」。鈴木尚広が語る杉本裕太郎の迷いとヤクルトの徹底力のすごさ
日本シリーズ第4戦が京セラドームで行われ、オリックスが1対0で勝利。通算1勝2敗1分けとした。オリックス・山岡泰輔、ヤクルト・石川雅規の両先発で始まった一戦は、オリックスが3回、6番・杉本裕太郎のレフト前タイムリーで先制。
守っては5回に一死3塁のピンチを迎えたが、山岡から宇田川優希につないで無失点で凌いだ。3番手の山?颯一郎が7、8回を完璧に抑えると、最終回はジェイコブ・ワゲスパックが締めて逃げきり。ロースコアの一戦を分けたポイントはどこにあったのか。巨人時代に2008年の日本シリーズで優秀選手賞に輝いた鈴木尚広氏に聞いた。
ピンチを切り抜け、捕手の若月健矢とハイタッチを交わすオリックス・宇田川優希
1点差でどちらが勝ってもおかしくないような展開のなか、勝敗を分けたのは継投でした。5回表一死から1番・塩見泰隆選手に三塁打を打たれた直後、1点リードしているオリックスの中嶋聡監督はプロ2年目の宇田川投手をマウンドに送りました。
先発の山岡投手は立ち上がりから粘り強く投げていたものの、決め球のスライダーを操りきれず、狙って三振をとりにいくのは難しい状況でした。そこで角度があり、真っすぐも速くてフォークを投げられる宇田川投手に思いきってスイッチします。
宇田川投手は一人目の山崎晃大朗選手にフォークを連投し、空振り三振をとれたのが大きかったですね。続く山田哲人選手にはストレートを続けて追い込むと、最後はフォークで見逃し三振に。6回も宇多川投手が無失点に抑えると、7、8回は山粼颯一郎投手、9回はワゲスパック投手で1点を守りきりました。オリックスの強みである中継ぎ投手陣が力を発揮しました。
一方、攻撃陣は序盤からチャンスをつくったものの、得点につなげられたのは3回に杉本選手がタイムリーを放った場面のみでした。第1戦から先発で出続けている選手たちに「打ちたい」という焦りのようなものが見えなえ、石川投手の投球術に対応できていないところがありました。このシリーズ、同じような状況が続いているのは心配なところです。
そのオリックスですが、4戦目は打線を組み替え、1番に佐野皓大選手、9番に太田椋選手がこのシリーズ初めてスタメンとして出場しました。
佐野選手は初回の1打席目でいきなり二塁打を放ち、太田選手も2回の1打席目で四球を選ぶなど石川投手に対してボールが見えていました。状態のいい若手を積極的に使っていくことも、今後のポイントになると思います。
オリックスに唯一の得点を呼び込んだ杉本選手ですが、初回は二死満塁の好機で空振り三振。8回にも一死1、2塁からセンターフライに打ちとられました。このシリーズ、何度もチャンスで打席が回ってきているなか、インコースを徹底的に攻められ、まだ対応しきれていない状況です。
3回のタイムリーのシーンは石川投手のチェンジアップをうまく拾えましたが、そのほかの打席ではボールを追いかけてしまい、いずれも同じ形でスイングしている印象です。ヤクルトの中村悠平捕手が杉本選手の弱点をうまく攻めてスイングの形を崩し、インコースを意識させながらアウトコースの落ちる球を振らせる。そうした配球に杉本選手は翻弄されていました。
短期決戦で大事なのは開き直りです。ここまでの杉本選手を見ていると、迷っているような印象を受けますが、もう少し狙い球を絞り「この球が来たら見逃し三振でも仕方がない」と割り切って臨んだほうがいいと思います。
昨年の本塁打王ですので、当然ヤクルトバッテリーは徹底マークしてきます。そのなかで全打席結果を残そうとするのではなく、「4打数1安打でいい」というくらいの気持ちで臨んだほうがいいと思います。
4戦目がそうだったように、ヒット1本でも勝利を呼び込めるわけです。なので、すべて同じアプローチをするのではなく、ある打席ではインコースだけを絞ってみるとか、ヤクルトバッテリーに考えさせることもひとつの策ではないでしょうか。とにかくどっしり構えてもらいたいところです。
役割が徹底しているヤクルトの強みヤクルトは4戦目で初めて落としましたが、各選手が自身の役割に徹することができています。外国人選手も右打ちでランナーを進めるなど、高津臣吾監督やチームの意図を汲みながら、日本一になるためにはどうしたらいいかを念頭に置いている。
たとえばスライダーの制球に苦しんだ山岡投手に対し、基本的には真っすぐに絞って狙いにいきました。そうした狙いをチーム全体で決断し、個々が徹底できています。そうした姿勢が積極性を生んでいるように思えます。
守備でも同じことが言えて、バッテリーを含めてチームの狙いが徹底できています。ベンチも含めた全員で勝ちにいく姿勢が、オリックスより際立っているように感じますね。
ただし、オリックスにとって何より大きいのは"ゼロ"から"イチ"になったことです。1点差ですごく疲労が残る試合だったと思いますが、この1勝でチームの雰囲気がガラリと変わるはずです。
ヤクルトの山田選手が3戦目の第2打席でシリーズ初安打を放った直後、第3打席でホームランを放ったように、バッターは1本出ると変わるものです。とくに短期決戦では、プロの選手はメンタリティでものすごく変わります。
ここまではヤクルトのほうがチームの狙いを徹底できていますが、明らかに強さや勢いが違うということではなく、あくまで均衡しているなかでの差です。
オリックスが1勝をつかんだ翌日の5戦目、どんな雰囲気で臨み、チームとしてよさを出していけるか。本拠地の京セラドームで迎える3連戦の最後は、そこが見どころになると思いますね。