三浦孝太はブアカーオの「愛のムチ」に教訓を得た。自身のタイでの人気ぶりには「すべての人に声をかけられる感覚」
三浦孝太選手インタビュー 前編
2021年大晦日の『RIZIN.33』で、衝撃の"サッカーボールキック"によるTKO勝利でプロ格闘家デビューを飾った三浦孝太。「日本サッカー界のキング・三浦知良の次男」という話題性だけでなく、格闘家としての活躍がSNSなどで拡散され、その人気は日本にとどまらず海外にも広まっている。
メディアの露出も増え、第2戦の行方が大きく注目されていたが......ケガやコロナ禍の影響で2試合の欠場。華々しいデビュー戦から一転、プロ格闘家として逆風の日々にさらされる。そんな中でタイに渡り、伝説のムエタイ・K-1王者であるブアカーオ・ポー.プラムックと試合を行なって新たなスタートを切った。
デビュー2連勝を飾った三浦孝太
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――1度目のインタビューは今年1月のことでした。それから、三浦選手の注目度はかなり上がりましたが、どんな気持ちで日々を過ごしていましたか?
「今では、自分を見つけただけで喜んでくれる人もいます。ある日、SNSで『サッカーを見に行く』とつぶやいたら、会場にファンの人が来てくれたり、ありえないことが起きてますね。以前と変わらずに過ごしていたつもりですが、デビューする前とは違う緊張感やプレッシャーはありました。私生活、周囲からの見られ方とかを気にするようになったり。理想は、自分らしく楽しく成長できたらいいんですが、そこはプロですから甘くないですね」
――RIZINでの2戦目も注目されましたが、今年の5月、7月と2回連続での欠場となりました。
「2回も試合が流れちゃったことは、やっぱり選手として未熟だったなと思います。プロとしての自己管理ができてなかった。特に7月にコロナで欠場になった時は、自分が情けなくてけっこう落ち込みました」
――逆境の時、どのように気持ちを切り替えたんですか?
「けっこう悔しさは残っていたんですが、そんな時にお父さんが『コロナで夢や努力してきたものを潰された人は、孝太以外にもたくさんいる。そんな人たちも、今は止まらずに動いている。孝太も同じように、負けずに前を向いてやっていくしかない』というアドバイスをしてくれて、心に響きました。そういうサポートが大きかったですね。プロは予期せぬトラブルも受け入れていかなければいけない。切り替えて、次に向けて進もうと思いました」
――ある意味、格闘家として初めてのプレッシャーだったかもしれませんね。
「2回試合を欠場したことで、ちょっとナーバスになりましたね。ファイターとしてスタートを切ったばかりの時は、そこまで大きなプレッシャーを感じることはありませんでしたから」
――そんな中、8月にタイのラジャダムナンスタジアムでブアカーオ選手とエキシビションマッチを行ないます。所属するBRAVE GYMのYouTubeチャンネル「BRAVE GYM OFFICIAL ヘラクレスチャンネル」では、タイの空港でものすごい歓迎を受けている様子が流れていました。
「そうですね。タイや東南アジアでは、想像以上に自分のことを知っている人が多くてビックリしました。それも、男女関係なく。どこを歩いてもすべての人に声をかけられるような感覚です。日本だと5人にひとりくらいは気づくかなという感じなのが、向こうでは全員集まってきちゃう。
うれしかったですけど、少し歩きづらかったので基本は車で移動していました。タイの熱狂度は日本とはまた違う。それをまた肌で感じたいので、また海外で試合もしたいです。その熱狂をRIZIN、日本の格闘技界に持ち込めたらいいですね」
――タイ遠征の動画はファンによってTikTokで流され、東南アジアですごく"バズった"そうですね。
「自分はTikTokをやってないのでわからないんですけど、友達から『バズってるよ』とよく聞きます。TikTokをやるのもありかな、と少し考えています」
――三浦選手のInstagramのフォロワーは約73万いますが、海外の方の割合はどのくらいですか?
「日本が一番多いんですけど、その次にタイ、ベトナムと東南アジアが多いですね」
――海外も含めてそこまで人気が出ている理由を、どう自己分析していますか?
「自分で言うのもなんですが......Instagramでは普段の自分というか、ルックス以外出しているものがないので、そこが評価されてるんですかね。音楽活動もしてないですし、格闘技の試合もまだ1戦しかやってないので、外見だけで食いついてもらえたんだと思います。だからこそ、それ以外の魅力にも気づいてもらえるようにしないといけないですね」
――ブアカーオ選手とエキシビションマッチはすごい挑戦だなと思いましたが、実際にオファーが来た時はどう思いましたか?
「ブアカーオ選手と試合することはもちろん恐怖もあったんですが、K-1で見ていた選手なので『同じリングに立って挑んでみたい』という気持ちになりました。でも、タイでの試合は初めてだったので、それを受け入れるにはちょっと時間がかかりましたね」
――ご家族はどういう反応でしたか?
「初めての"アウェー"での試合だったので、『大丈夫?どういうルールなの?』と心配してました」
――実際に、憧れのブアカーオ選手と試合をしてみて何を感じましたか?
「いつもやっている総合ルールではなくキックボクシングだったんですが、すごいプレッシャー、圧力を感じましたね。MMAで同じような圧力をかけてくる選手と試合をする時も、『気後れしないようにしないといけない』と思いました。そういったものに慣れていきたいですし、やはり実戦の大事さを感じたので、どんどん試合を重ねていきたいです」
――3ラウンドではコーナーに詰められ、飛び膝蹴りや左右の拳での猛ラッシュを受けました。プロデビュー後、あれだけ打ち込まれたのは初めての経験だと思いますが、ダメージはどうでしたか?
「最後のラッシュは『予想していたより"来る"な』と思いましたが、"愛のムチ"だったんでしょう。もちろん痛くてダメージはあったんですけど、試合中はアドレナリンが出ていたからか大丈夫で、それを実感したのはしばらく後でした。同じようなラッシュの対応を考える意味でも、あれはいい教訓になりましたね」
――満員の約8000人が集まったというムエタイの聖地、ラジャダムナンスタジアムはどんな雰囲気でしたか?
「リニューアルされたようで、すごくかっこよかったです。自分を見に来てくれた女性のファンもいたようですが、普段の大会ではほとんど男しかいないらしいですね。観客席にゴミがたくさん落ちている感じや、あの殺伐とした、殺気さえも感じられる雰囲気は日本では味わえないと思います」
―― ただ、三浦選手も2回目の試合ということもあり、登場シーンがとてもかっこよくなっていましたね。
「声援が今まで聞いたことがないくらいすごかったので、興奮しちゃってあんまり覚えていないんです(笑)。あらためて動画を見た時には、観客の煽り方とかもすごくて、『テンション上がってんな』と」
――三浦知良選手もそうですが、"プロとしての魅せ方"を大事にしているように感じます。そこはどう意識していますか?
「特別なことをやってるわけではありませんが、どこでファンに出会っても、かっこよく思ってもらえるように頑張りたいと常に意識しています。堂々とした振る舞いとか、『こういう感じで歩いたらかっこいいかな』とか。徐々に自分のスタイルを築き上げられたらと思っています」