37歳の大ベテラン・モドリッチを中心にカタールW杯に臨むクロアチア。選手寿命が延びた時代に起きた先駆的ケース
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第8回:クロアチア
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W杯では過去に日本と2度対戦2018年ロシアW杯では準優勝。1998年フランスW杯では3位。クロアチアは、強豪国ないし準強豪国という位置づけだろうか。
大ベテラン・モドリッチを中心にカタールW杯に臨むクロアチア代表
ワールドカップ初参戦は日本と同じ1998年だった。ただ、それ以前にユーゴスラビア代表として活躍していた選手がほとんどだったので、当時の日本と同列に扱うことはできない。
ユーゴスラビアは第1回大会に参加していて、1990年イタリアW杯では日本でもお馴染みのイビチャ・オシム監督が率いてベスト8に進出している。
クロアチアは初参戦の1998年でいきなりの3位。ユーゴスラビア時代の戦績をあっさり塗り替えた。グループリーグの2戦目では日本と対戦し、ダボール・シュケルの決勝点で勝利している(1−0)。
ただ、この試合のクロアチアは危うく負けそうになっていて、後半に作戦を変更したことで勝利をつかみ、それがその後の戦い方を決めた。当日の暑さもあって、前半のクロアチアは運動量をセーブしてカウンターを狙っていた。しかし、日本の機敏さと運動量に振り回されてしまった。
そこで後半からは全体を少し前へ移動させてプレスを強め、カウンターの距離を短くする修正を行なった。ミロスラフ・ブラジェビッチ監督は「ハーフカウンターに修正したのがうまくいき、その後の戦い方のベースになった」と話していて、日本戦はベスト4へのカギになる試合だったそうだ。
2006年ドイツW杯でも日本と同グループとなり、この時も2戦目で対戦。GK川口能活のPKストップもあり0−0のドローだった。さらにカタールW杯でもクロアチアと日本は対戦する可能性がある。日本はグループE、クロアチアはFなので、どちらもグループリーグを勝ち抜いた場合はラウンド16で3度目の対戦となるかもしれない。
つぶしの効く個人とチームユーゴスラビア時代から、「東欧のブラジル」と呼ばれるほど優れた選手を輩出してきた。独立してクロアチア代表になってからも1998年フランスW杯の得点王になったシュケルやロベルト・プロシネツキ、アリョーシャ・アサノビッチ、ズボニミール・ボバン、アレン・ボクシッチなど、ヨーロッパのビッグクラブで活躍した選手は数多い。
前回ロシアW杯で決勝まで進んだメンバーも、ルカ・モドリッチはレアル・マドリード、イバン・ラキティッチはバルセロナ(当時)に所属していて、各ポジションに強豪クラブでプレーする選手たちを配していた。ほとんどの代表選手が外国のクラブに所属していること自体は珍しくないが、クロアチアはそのなかでも成功しているケースと言える。
外国への選手、コーチの流出は、ボスマン判決でサッカー界の民族大移動が起こる以前からで、ポジションの偏りもない。ただ、移籍先で必ずしもエース格待遇というわけではなく、モドリッチのレアルにはクリスティアーノ・ロナウドがいて、ラキティッチがかつてプレーしていたバルサにはリオネル・メッシがいた。そうした境遇が選手を鍛え、代表チームを編成した時の強さにつながっている。
チェルシーで活躍しているマテオ・コバチッチは、「モドリッチの後継者」と呼ばれた若手時代にレアルに所属していたが、バルサ戦でメッシをマンマークで封じたことがある。攻撃型のテクニカルなMFだが、こうした守備専門の仕事もこなす能力を持っているわけだ。また、時にはこうしたオーダーにも応えていなかければいけない立場でもあった。
クロアチアには、こうしたつぶしの効くタイプが多い。イバン・ペリシッチは左右のウイングをこなせて、ウイングバックやサイドバックでもプレーできる。ロシアW杯で活躍したマリオ・マンジュキッチはバイエルンではCFだったが、ユベントスではサイドハーフもこなしていた。
戦術的に最先端ではないが、各ポジションにつぶしの効くタイプを揃えているので、状況に応じて臨機応変に対応する力があり、ロシアW杯ではそれで際どい勝負を勝ち抜けることができていた。
計画的というより即興的に4バックが5バックになったり6バックになったりしている。相手のシステムに応じて、つぶしの効く選手たちがシステムを変えて順応できる。古典的な4−3−3システムを基調としながら、システム自体もつぶしが効くのが特徴だった。
大ベテランがエースというレアなケースカタールW杯に臨むクロアチアのエンジンルームは、前回同様にMFだ。モドリッチ、コバチッチ、マルセロ・ブロゾビッチのトリオは世界でも屈指である。
FWでは左利きの右サイド、ロブロ・マイェルが注目される。まだ経験は浅いがフランスのレンヌで活躍し、エレガントで頭脳的なプレーぶりはクロアチアの選手らしい。
ただ、クロアチアにはいろいろなタイプの選手がいて、人種的な多様性はないのに選手には多様性がある。巧い、高い、強い、速い、ひととおり揃っている感じだ。ユーゴスラビア時代からフットボール・ネイションだった伝統の厚みだろう。
クロアチア代表の主要メンバー
ズラトコ・ダリッチ監督は戦術家というタイプではないようで、激しやすい性格もあってメディアとの関係も必ずしもうまくいっていない。実質的な監督は、おそらくモドリッチなのだろう。37歳のモドリッチは例外的な存在になっている。
この年齢で衰えを知らないプレーぶりなのも驚異的だが、37歳の選手が代表チームの中心にいることも過去にはなかった。カメルーンのロジェ・ミラが42歳でアメリカW杯に出場した例はあるが、この時はすでに第一線からは4年前に退いていて、実質的には引退していた選手を大統領の要請で呼び戻したにすぎない。
まだ現役バリバリの40歳近い大ベテランが代表チームの中心というモドリッチのケースは珍しい。これだけ長期間活躍した選手になると、フィールド内だけでなくフィールドの外においても影響力は絶大になる。ある意味、監督よりも偉い存在であっても不思議ではない。アルゼンチンのメッシ、ポルトガルのロナウドも似た立場だろう。
1人の選手ではあるけれども、エースとかキャプテンという領域を超えた存在にならざるをえない。選手寿命が延びたことで起こった今までにない現象であり、おそらく今後もこうした例は増えていくのだろう。
ペレやディエゴ・マラドーナも別格ではあったが、ワールドカップで活躍した時、年齢的には30歳前後にすぎなかった。それより10年近い経験値を持つベテランが中心にいるチームがどう機能するかは、カタール大会の見どころのひとつだと思う。