坂本花織、GPシリーズ初戦優勝も演技後には不満げ。新プログラムは「完成させられたらすごくカッコよくなる」
スケートアメリカを優勝した坂本花織
現地時間10月23日、グランプリ(GP)シリーズ・スケートアメリカの女子フリー。演技を終えた直後は悔しそうな顔をしていた坂本花織(22歳、シスメックス)だが、キス&クライで得点を知ると一気にその表情は笑顔に変わった。そして、表彰式後の記者会見でこう話した。
「スケートアメリカは今回で5回目の出場になりますが、初めて金メダルを獲れてうれしい気持ちでいっぱいです。ショートプログラム(SP)でミスをした分もあったので、(フリーでは)3回転+3回転を絶対に決めたいと思っていました。それができたのでよかったです」
だが前日のSPは、1位通過はしたものの不満そうな表情を見せる出だしだった。
今季は、これまで4シーズンの振り付けを担当し一緒に坂本のスタイルをつくってきたブノワ・リショー氏から、新たな挑戦としてSP・フリーともに振付師を変更。SPはロヒーン・ワード氏、フリーはマリー=フランス・デュブレイユ氏。坂本はもともと、試合を数多くこなしながらプログラムを仕上げていくタイプだと自認しているだけに、リショー氏の時に比べて振り付けの修正作業を頻繁にできない状況も加え、仕上がりにまだ不安を感じていたのだろう。
SPはそうした不安を感じさせるような、彼女らしい豊かなスピード感に乗りきれていない、硬さもある抑え気味の滑りだった。
そのなかでも最初のダブルアクセルと3回転ルッツはしっかり決めて安定感を見せ、続くフライングキャメルスピンとチェンジフットコンビネーションスピンはきっちり最高難度のレベル4とした。だが、その次に予定していた3回転フリップ+3回転トーループの連続ジャンプは、3回転+2回転になってしまった。
そのあとのステップシークエンスとレイバックスピンはレベル4。条件が厳しくなった新ルールへの対応力の高さを見せていた。だが演技構成点は、昨季世界ジュニアを優勝し今季からシニアに上がったイザボー・レヴィト(アメリカ)を1.20点上回るだけと伸びきらず、得点71.72点でシーズン初戦のロンバルディアトロフィーを下回る結果になった。
「ミスを最低限に抑えただけという感じで、あまり納得のいくショートではなかったなと思います。練習でもノーミスの滑りを続けられていれば、自信も持ってどんなに緊張していてもしっかり滑れますが、今季はまだ練習でもノーミスを続けられる状態になっていなかったので、それが出てしまった。
ロヒーン・ワードさんの振り付けで今までにはない私が出せる感じがするし、これをつくり上げるにはすごく時間がかかると思うけど、完成させられたらすごくカッコいいプログラムになるだろうなと思いながら練習をしています」
こう話す坂本に、いつものような弾ける笑顔はなかった。
そんな状況で臨んだフリー『Elastic Heart』。10月8日のジャパンオープンではノーミスで滑っていただけに、デュブレイル氏もいる場でいい演技を見せたいという思いは強かった。
その思いを前面に出すように丁寧な滑り出しをして、最初のダブルアクセル、3回転ルッツ、3回転サルコウはGOE(でき栄え点)加点をもらう安定したジャンプに。次のコンビネーションスピンもレベル4で、3回転フリップ+2回転トーループもきれいに跳んだ。
大きい動きで滑ったステップシークエンスはレベル3になったが、SPではミスをした3回転フリップ+3回転トーループをしっかりと決め、最後までノーミスで乗りきるかに見えた。
しかし、フライングシットスピンのあとのダブルアクセルで、着氷にタイミングを崩してしまい、間をあけてから3回転トーループをつけたが、次の2回転トーループをつけられずに3連続ジャンプにできなかった。さらに2本目の3回転トーループは回転不足と判定され、0.91点の減点をされる結果に。
そのあとのコレオシークエンスから盛り返して3回転ループも流れのなかで不安なく決めたが、演技終了直後、自分自身に「やってしまった」と言っているような表情になっていたのだ。
それでも結果は、演技構成点の3項目では全選手中ただひとりの9点台を並べ、貫禄を見せてシーズンベストの145.89点を獲得。SPとの合計は217.61点。2位に10点以上の差をつけて優勝した。昨季のスケートアメリカの215.93点を上回った結果だ。
「シニアに上がってからの5シーズンで、練習より試合のほうがよかったのは1、2試合だけで、ほとんどの試合は練習よりうまくいっていません。練習で120%以上にしないと、試合で100%を出すのは無理だと思っています」
坂本はまだ新しいプログラムを思ったほど滑り込みきれていない。自分のものにはしきれてない状態だが、このスケートアメリカからシーズン本番が始まった。今季のGPシリーズ初勝利は、さらなる加速を期待させるものになった。