「オリックス・山本由伸の異変」を建山義紀が解説。ヤクルトはなぜ投手四冠の絶対エースから4点も奪えたのか
神宮球場で行なわれた日本シリーズ初戦は、ヤクルトが5対3で先勝。1回表にホセ・オスナの2点タイムリー二塁打で先制すると、同点に追いつかれたあと、塩見泰隆、オスナのソロ本塁打で勝ち越し。8回には村上宗隆がリードを2点差に広げる一発を放った。
守っては先発の小川泰弘が5回2失点に抑えると、得意の継投で逃げきった。対してオリックスは先発の山本由伸が4回までに4失点を喫すると、5回途中に左脇腹のアクシデントで降板。攻撃もチャンスを生かしきることができなかった。勝敗を分けたポイントはどこにあったのか。日本ハム時代の2006年にリリーフ投手として日本一に貢献した建山義紀氏に聞いた。
3回裏、塩見泰隆に勝ち越しの本塁打を浴びたオリックス・山本由伸
山本投手は結果的に左脇腹のアクシデントで早期降板になりましたが、立ち上がりから制球が少し乱れていて、神宮のマウンドにアジャストできなかったように見えました。それをスワローズ打線に仕留められたことが、4回までに4失点という結果につながったと思います。
初回、先頭打者の塩見選手がレフト前ヒットで出たあと、2番の山崎晃大朗選手には2ボール2ストライクからヒットエンドランを仕掛けられ、空振り三振に打ちとりましたが、投じたのはワンバウンドになる真っすぐで、シーズン中はほとんどなかったボールでした。結果的に三振になったものの、この球を見て「ん?」と思いました。
3回の塩見選手、4回のオスナ選手に打たれた2本のホームランはそれぞれ真っすぐとカットボールですが、いずれも高さを制御できなかった球です。いつもの山本投手ならコースミスのない投球をするのですが、この日はそれができていなかった。フォークも抜けるボールが多かったですし、明らかにいつもの山本投手ではなかったと思います。
たしかにスワローズ打線は強力ですが、それよりも山本投手が自分自身のボールを投げきれなかったことが4失点につながったように感じました。
投球フォームについて言うと、トップが間に合っていなかった。いつもなら体重移動をしっかりしながら、頭のうしろに右手がきて、トップの形ができるまで投げずに待てるのが山本投手のフォームの特徴です。
しかし、おそらく神宮のマウンドの形状による影響だと思いますが、左足が早く着いてしまい、トップが間に合わない状態で投げていました。そのため腕が横ぶりになり、シュート回転や抜けるボールが増えてしまう。そういう状態が降板するまで続いていました。
ピッチャーからすると、神宮のマウンドは傾斜がなく、平地で投げているように感じます。ほかの球場だと「マウンドの傾斜はピッチャーが低めに投げるためのもの」と思うくらいの感覚があって、傾斜に沿って投げれば低めにいくんです。でも、神宮のマウンドはそれがない。
ふだんから投げているピッチャーなら対応できると思うのですが、山本投手にとって4年ぶりの神宮での登板でした。とはいえ、山本投手が持っている力を考えると、そういう環境面もアジャストしてくると思っていましたが、鬼門になりましたね。
オリックスのカギは5番打者スワローズ打線では塩見選手、オスナ選手がホームランを含む3安打。バファローズからすると2戦目以降、単純に抑えるというより、"崩しにいく作業"が絶対必要になってきます。"崩す投球"というのは、インコースを意識させるのがひとつの手です。
そういった意味では、塩見選手はインコース甘めのストレートをホームランにしました。オスナ選手はいずれも外寄りのカーブとカットボールを打っています。2戦目以降、いかにバファローズ投手陣が厳しくインコースを攻められるかがポイントになります。
またスワローズにとって大きかったのは、2番手以降の木澤尚文、田口麗斗、清水昇、スコット・マクガフの4投手が初戦で登板できたことです。
木澤投手は先頭打者をストレートの四球で歩かせましたが、ゼロに抑えたことで次の登板は落ち着いて挑めるはずです。先発投手陣がやや不安なスワローズにとって、救援陣の働きはものすごく重要になってきます。
打つべき選手が打って、相手の絶対エースを打ち崩し、投手陣もふだんどおりのピッチングを披露した。スワローズにとってこの勝利は、ただの1勝以上の価値があると思います。
一方、バファローズ打線は「さすが中村悠平」というリードにやられました。うまく裏を突かれましたね。中村捕手は執拗なインコース攻めではなく、球数自体は少ないけれど効果的にインコースを意識させていました。
そうしてバファローズはチャンスをなかなかモノにできませんでしたが、とくに4打数無安打に終わった杉本裕太郎選手は引きずらないことですね。2戦目からはしっかり打席ごとに対策を持って、「見逃し三振もやむを得ない」というくらい狙い球を絞る。そういう覚悟を持っていかないと、ズルズルいってしまう可能性がある。
バファローズのラインナップで考えると、3番の中川圭太選手は好調で、4番の吉田正尚選手は冷静にボールを見極められます。となれば、5番の働きはものすごく大事になってきます。おそらく杉本選手はクライマックスシリーズで復調し、5番に抜擢されたと思います。
杉本選手の調子が上がってくればいいですが、対応力のある西野真弘選手を5番に抜擢するのもひとつの策かなと思います。1戦目を見ると、5番が大きなポイントになりそうな気がします。2戦目のラインナップが非常に楽しみですね。