『TOMORROW X TOGETHER』のヨンジュン

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《ヨンジュンめっちゃきゅうりパック推すやん》
《きゅうりパックしたらヨンジュンとスビンちゃんみたいな肌になれるかな》
《2人してきゅうりパックするとこも可愛いし自撮りでスビンちゃんも映したいヨンジュンもかわいい》
《ヨンジュンのきゅうりパック見たら自分で切ってたっぽいw斜めってるの可愛い》

【写真】ヨンジュンの美肌はきゅうりパックの賜物? 顔面きゅうりだらけ姿を公開

 “ヨンジュン”とは、韓国の5人組男性アイドルグループ『TOMORROW X TOGETHER(トゥモロー・バイ・トゥギャザー)』のメンバー。8月31日に日本3rdシングル『GOOD BOY GONE BAD』をリリースした。発売記念イベントには1000人規模の会場が埋まり、9月には単独公演の開催を控える世界的にも注目を集めるグループだ。

 グループ最年長であるヨンジュンはメンバーの誕生日などに、自身とメンバーが“きゅうりパック”をしている写真を投稿することが多い。彼らの人気と相まって、このきゅうりパックが流行の兆しを見せているようだ。

 きゅうりパックを勧めている一部サイトによると、薄く切ったきゅうりを顔に乗せる。20分程度その状態でパックし、水で洗い流すというもの。きゅうりのビタミンCが作用し、コラーゲンが生成され、肌を引き締めるほか保湿効果もある、というのだが……

「食べ物を使ったパックは避けるべきです」

 そう警鐘を鳴らすのは、正しい医療情報を発信するサイト『ルメディア』〈https://lumedia.jp/〉を運営する皮膚科専門医、医学博士の『やさひふ』氏。氏が指摘するのは、“きゅうり”に限った話ではない。

「食べ物は、口から摂取する分には基本的に問題ないのですが、パックなどで食べ物の成分が皮膚から入った場合、“危険”“敵”だと人間の身体は判断します。食べ物を皮膚に塗る、皮膚に貼ることは、食物アレルギーの発症リスクになることがわかっています(※1、2)」(やさひふ氏、以下同)

食べ物を肌に塗ることにメリットはない

 アレルギー発症は、まさにきゅうりパックで例がある。

「きゅうりはウリ科となります。きゅうりパックをやったところ、きゅうりや同じウリ科のスイカやメロンといったものまでアレルギーになって食べられなくなってしまった方がいます(※3、4)。“食物由来”というと優しいというか“ナチュラル”というイメージがあると思いますが、ナチュラルなのはあくまで口から入った場合。食べ物は文字通り“食べる物”です。皮膚から入るのは“アンナチュラル”と言えます。基本的に食べ物を肌に付けることは避けるべきと訴えたいです」

 何の食べ物にしても、それを肌に塗ることのメリットはない。

「一方、デメリットは明確です。食物アレルギーを引き起こすリスクがありますし、肌自体がかぶれる可能性も。また保存状態にもよりますが、基本的に菌は湿った環境や密閉された環境で繁殖しやすいので、湿っているような食べ物の場合、感染症の危険性もあります。毛穴を詰まらせてしまうとニキビになってしまうかもしれません」

 食物成分を肌に使用したことで、甚大な被害を生み出した“事件”がある。『茶のしずく石けん』。2004年から2010年までの間に、 4,650万個が467万人に販売された石けんで、数字的にいえば“大ヒット商品”だ。しかし、この石けんが、多くの被害者を生み出し、社会問題となった。『茶のしずく石けん事件』と呼ばれる。“事件”の流れを以下にまとめる(※5-8)。

 2009年頃から、不思議な小麦アレルギーの患者が急激に増えた。その特徴は、

・もともとはどの患者も小麦アレルギーではなかった。
・20-60歳代の女性で、似た症状の患者が多かった。
・「小麦を食べるとまぶたが腫れる」「顔が痒くなる」など、通常の小麦アレルギー患者よりも症状が目立って出ていた。
・患者の共通点として『茶のしずく石けん』を使い始めてから症状が出てきていた。

『茶のしずく石けん』は、保湿機能などを与える目的で『グルパール 19S (加水分解コムギ末) 』という小麦に由来するタンパク質が配合されていた。そして実際に詳しく検査したところ、『茶のしずく石けん』使用後に小麦アレルギーになった人は、普通の小麦アレルギーの人とは異なり、『グルパール 19S』に対するアレルギーを持っていることがわかった。

有名人やインフルエンサーが拡散

 厚生労働省は2010年10月、『グルパール 19S』など加水分解コムギ末という成分を含む医薬部外品や化粧品について「小麦由来成分が含まれること」の表示を義務付けた。翌2011年5月、メーカーが『茶のしずく石けん』を自主回収することを決定した。
※今現在発売されている『茶のしずく石けん』は、当時の製品とは異なり小麦由来の成分を含んでいない。

「新たな被害者の発生は止まりましたが、その後の調査で2,111人もの消費者が小麦アレルギーになってしまったことが確認されました。症状としてはアナフィラキシーショックや呼吸困難など、命に関わる重い例も発生しています。まさか小麦成分入りの石けんを使っていただけで命を落とす危険性があるアレルギーになるとは想像もしていなかったでしょう」

 しかし、今でも冒頭のきゅうりなどさまざまな“食べ物パック”が有名人やインフルエンサーによって“効く”“肌に良い”と拡散され続けている。YouTubeで、“小麦粉パック”、“はちみつパック”、“緑茶パック”など「食べ物」+「パック」で検索すると多数の動画がヒットする。

「直接食べ物を肌に塗ることはもちろん、食物成分配合のスキンケア製品でも先程申し上げたデメリットがあり、怖いものです。たとえば、ピーナッツオイルを含むスキンケア製品を使っていた子供がピーナッツアレルギーを多く発症している(※9)、魚由来のコラーゲンを配合した保湿剤を使っていた30代女性がその後にコラーゲン配合のサプリメントを摂取してアナフィラキシーを起こした(※10)などの報告があります。一方、食物成分配合のスキンケア製品に美容面などで何らかのメリットがあるのかというと、実際には医学的に証明されたメリットは存在しません。

 今はSNS時代ですからYouTuberやインフルエンサーが言っていることを反射的に良いと思い、“いいね”することは気持ちとしては非常にわかります。しかし、医療情報は誤った情報を知り、試した際のデメリットは甚大になりかねない。一度冷静に“本当に大丈夫なのか”を考えてほしいです。また健康情報というのは“バズりやすい”案件かと思います。インフルエンサーの方々は何かあったときに責任を取れるわけではないですし、自分の発信がもしかしたら自分のファンを傷つけてしまうこともあるということを意識して発信してほしいです。有名人の方のスキンケア方法を信じて試した結果、悪化して病院に来るというケースは少なくありません」

“トンデモ美容法”がウケるわけ

 また、特に肌に関してはきゅうりやはちみつを使ったパックのような“トンデモ美容法”が受け入れられやすい事情もあるようだ。

「肌の悩みは、“たまたま自然に”良くなることがわりとあります。例えば軽いニキビであれば放っておいてもいつか治るわけです。そのため本当は効かない治療法や芸能人のマネをしたら“治った”と感じて感謝する人もいる。肌に関しては不正確な情報であったとしてもそれが検証しにくい面があります。これが誤解が広がってしまう理由としてあります。間違った治療法をやって治りが遅くなっていても、それを本人が気づくことはあまりありません。

 実は放っておいたらもっと早く治って、もっときれいになった可能性もあるのに、間違った認識でその治療法に感謝して終わってしまうという。また同じ理由でインフルエンサーも自分がやってみて“効いた”と間違った認識をして、紹介しているケースもあるのではないかと考えます」

 人間の免疫機能が優れているがゆえに、間違ったやり方がより拡散してしまう。“いつまでも綺麗でいたい”というのは多くの人の願いだろう。しかし、ただ“流行っている”、“あの人がやってた”などで判断することの無きよう……。

〈参考文献〉
※1. 千貫 祐子. 経皮感作と食物アレルギー. 西日皮. 2018; 80: 419-424.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nishinihonhifu/80/5/80_419/_article/-char/ja/

※2. du Toit G, et al. Prevention of food allergy. J Allergy Clin Immunol. 2016; 137: 998-1010.
https://www.jacionline.org/article/S0091-6749(16)00288-8/fulltext

※3. 猪又 直子, ら. 韓国伝統美容キュウリパックによる接触蕁麻疹の一例. J Environ Dermatol Cutan Allergol. 2008; 2: 344.
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200902242101394153

※4. Inomata N, et al. Food allergy preceded by contact urticaria due to the same food: involvement of epicutaneous sensitization in food allergy. Allergol Int. 2015; 64: 73-8.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1323893014000136

※5. 藤田医科大学 (2017). 茶のしずく石鹸等に含まれた加水分解コムギによるアレルギーに関する研究成果を発表しました. (閲覧日 2022-09-02)
https://www.fujita-hu.ac.jp/news/dubv6r0000001rc3.html

※6. Yagami A, et al. Outbreak of immediate-type hydrolyzed wheat protein allergy due to a facial soap in Japan. J Allergy Clin Immunol. 2017; 140: 879-881.e7.
https://www.jacionline.org/article/S0091-6749(17)30574-2/fulltext

※7. 国立医薬品食品衛生研究所 (2013). 食物アレルギーをめぐる最近の話題-加水分解コムギ含有石鹸の事例-. (閲覧日 2022-09-02)
https://www.nihs.go.jp/kanren/shokuhin/20131116-dnfi.pdf

※8. 厚生労働省 (2010). ○加水分解コムギ末を含有する医薬部外品・化粧品の使用上の注意事項等について. (閲覧日 2022-09-02)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb6538&dataType=1&pageNo=1

※9. Lack G, et al. Factors associated with the development of peanut allergy in childhood. N Engl J Med. 2003; 348: 977-85.
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa013536

※10. Fujimoto W, et al. Anaphylaxis provoked by ingestion of hydrolyzed fish collagen probably induced by epicutaneous sensitization. Allergol Int. 2016; 65: 474-476.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1323893016300363