セ・リーグのペナントレースは、ヤクルトの独走かと思われていたが、8月に入りDeNAが猛追。驚異的なペースで勝利を積み重ねると、最大17.5ゲーム差あった両チームの差は4ゲームとなった。そして8月26日から横浜スタジアムで天王山第1ラウンドが始まる。DeNAは本拠地での連勝記録をさらに更新するのか。それとも昨年の覇者・ヤクルトが意地を見せるのか。かつてヤクルトのエースとして黄金期を支えた川崎憲次郎氏に、ヤクルト×DeNAの終盤戦を占ってもらった。(成績はすべて8月24日現在)


史上最年少での三冠王を目指すヤクルト・村上宗隆

打線の破壊力は互角

── ヤクルトは史上最速となる7月2日に優勝マジック(53)を点灯させましたが、8月に7連敗を喫するなど失速。一方のDeNAは本拠地17連勝(現在も継続中)をはじめ、8月は24日まで8連勝を含む16勝2敗。最大17.5ゲーム差が4ゲーム差まで縮まりました。両チームの戦いぶりをどう見られていますか?

「ヤクルトがマジックを点灯させた時も、まだひと波乱あると思っていました。なぜなら、同じプロ同士の戦いですから、実力に大差はなく、毎シーズン勝率6割くらいで優勝が決まります。私が現役時代の1990年に、巨人が2位の広島に22ゲーム差をつけて優勝したのが過去最大。比較的最近では、2011年にソフトバンクが2位に17.5ゲーム差をつけて優勝しました。しかしクライマックス・シリーズ(CS)の導入により、シーズン3位以内に入れば日本一の可能性は残る。下位チームもあきらめずに戦いますので、最後まで熾烈な戦いになると思います」

── それにしてもDeNAの本拠地17連勝は驚異的です。

「現状DeNAは、1998年の優勝以来12球団で最も優勝から遠ざかっているチームです。一方で、DeNA戦のチケットは最も手に入りにくいとも言われています。優勝を渇望するファンの熱い応援がナインを鼓舞し、本拠地17連勝をあと押ししたのではないかと思っています。とはいえ、この快進撃が最後まで続くとは限りません。どこかで疲れが出てくるはずです。先述したように『このまま簡単には終わらない』と覚悟している選手は多いのではないでしょうか」

── ヤクルトは村上宗隆選手を筆頭に「長打力」がある打線、DeNAは1998年の"マシンガン打線"を彷彿とさせる「つなぐ」打線と対照的です。

「ヤクルトは1番・塩見泰隆、3番・山田哲人、4番・村上宗隆、そこに勝負強いドミンゴ・サンタナ、ホセ・オスナが続きます。この打線はなんといっても、三冠王を視野に入れる村上です。私も彼への攻め方についてよく聞かれます。打者の8割は内角高めを苦手にします。また打者への基本的な攻めは外角低めです。この対角線をうまく使って攻めるのですが、現時点で村上の死球は5つ。スラッガーとしては少ない。ぶつけるというのではなく、体に近い内角へのボールを投じるというのが、村上を封じるうえで避けて通れません。DeNAの投手陣がそのコースへ投げ込めるか。そこがポイントになるでしょうね。

 村上の驚異的な活躍でそこまで目立っていませんが、過去にトリプルスリー(3割、30本塁打、30盗塁)を3度達成している山田が打率.238とリーグ最下位に沈んでいるのが心配です。今はいろんな打順を打っていますが復調が待たれます。山田がそのような状態にかかわらず、チーム自体の得点力は凄まじいものがあります」

── DeNA打線はいかがでしょうか。

「DeNAは首位打者経験のある宮?敏郎と佐野恵太が、入団から2年連続"3割、20本塁打"を狙う4番・牧秀悟を挟みます。さらに、ネフタリ・ソト、タイラー・オースティンという勝負強い打者が並ぶ。1番に桑原将志が固定され、下位からでも打線が循環するようになりました。上位、下位関係なく得点できるのが大きな強みです」

終盤のポイントは中日戦

── 投手陣についてはどのような印象を持たれていますか。

「ヤクルト先発陣は小川泰弘(5勝7敗)を筆頭に、高橋奎二(8勝2敗)、サイスニード(6勝5敗)原樹理(7勝4敗)、高梨裕稔(7勝6敗)、石川雅規(5勝3敗)。昨年チーム勝ち頭である奥川恭伸が不在で、ホールド日本記録を樹立した中継ぎエースの清水昇が本調子ではありません。それでも木澤尚文、田口麗斗が好調で、今野龍太、梅野雄吾もそれなりに数字を残しており、スコット・マクガフは2年連続30セーブをクリア。高津臣吾監督のブルペンのやりくりのうまさがうかがえます」


今年6月7日の日本ハム戦でノーヒット・ノーランを達成したDeNA今永昇太

── DeNAもブルペンが充実しています。

「DeNAの先発陣は、初の2ケタ勝利を達成した大貫晋一(10勝4敗)に続き、今永昇太(8勝3敗)、浜口遥大(6勝4敗)、石田健大(4勝2敗)、フェルナンド・ロメロ(4勝6敗)、京山将弥(2勝1敗)と経験豊富な投手が揃っています。ただ今年のDeNAで言えば、クローザーの山?康晃の復活が大きい。エドウィン・エスコバー、伊勢大夢との"勝利の方程式"が確立したことで、戦いが安定してきました。さらに田中健二朗、入江大生も控えており、リーグ屈指のリリーフ陣が完成しました。もともとDeNAは打線がよく、投手陣が課題でしたがチーム防御率3.32はリーグ2位。投手陣さえ整備されれば優勝争いに食い込めると思っていましたが、そのとおりになりました」

── 投手陣でそれぞれのキーマンを挙げるとすれば誰になりますか。

「ヤクルトは高橋奎二、DeNAは今永昇太の両左腕です。高橋は昨年オリックスとの日本シリーズで圧巻のピッチングを見せましたが、今シーズンも好調を維持しています。一方、今永はノーヒット・ノーランを達成しましたが、球の質のよさは以前から注目していました。現時点でふたりとも同じような成績を残していますが、勝負どころで彼らのピッチングがペナントの行方を左右するのではないかと思っています」

── 昨年はヤクルトと阪神が最後まで優勝争いを演じ、ゲーム差0ながら、わずかな勝率の差でヤクルトが制しました。今年の最終盤の展開をどう予想しますか。

「ヤクルトは残り31試合、DeNAは残り36試合で、ゲーム差は4。ヤクルトが8勝10敗と唯一負け越している中日に、DeNAは12勝3敗1分と得意にしています。中日戦が両チームに大きな影響を与えると思います。ヤクルトとDeNAの直接対決は、ヤクルトが9勝7敗と勝ち越していますが、まだ9試合残しています。昨年、日本シリーズの死闘を制し、日本一をつかみとったヤクルトに一日の長があると思いますが、勝負は本当に何があるかわかりません。最後まで目が離せない戦いになることは間違いないでしょう」