AFCチャンピオンズリーグ準々決勝で、ヴィッセル神戸が全北現代(韓国)に敗れた。1−1で延長戦にもつれ込んだ末の、1−3での敗戦である。

 試合は立ち上がりからどちらにもミスが目立ち、これといった攻撃の形を作ることができないなか、後半64分、神戸はセットプレーの好機を生かし、CKの流れからMF汰木康也のゴールで先制。それまでの試合展開を考えれば、これが重い1点になるかと思われた。

 ところが、直後の66分、神戸は自らのパスミスからカウンターを受け、同点ゴールを許してしまう。

 これをきっかけに、エンジンがかかったのは全北現代だった。その後は何度も決定機を作り出し、90分間で決着をつけることこそできなかったが、延長前後半に1ゴールずつを決め、粘る神戸を振り切った。


ACL準々決勝で敗退したヴィッセル神戸

 この試合、神戸は4日前に行なわれた決勝トーナメント1回戦の横浜F・マリノス戦から、先発メンバー7人を入れ替えている。

 吉田孝行監督が、「過密日程で、今日(準々決勝)勝っても中2日で試合(準決勝)。今日のキックオフは真夏の16時。3試合全部勝つことを前提に考えたとき、スタメンを入れ替えたほうがいいという判断をした」からである。

 だが、Jリーグで下位に低迷するクラブが、Kリーグ5連覇中のクラブを相手に控え組中心のメンバーで挑んで勝てるほど、勝負の世界は甘くなかったということだろう。

 なかでも大きく響いたのは、FW大迫勇也の不在だった。

 4日前に横浜FMを下した試合では、多少アバウトなボールを前線に送っても、大迫がどうにか収めてくれる(収められないまでも、簡単には相手ボールにさせない)ことで、神戸は攻撃の時間を作り出し、相手に主導権を握らせなかった。

 日本代表でも最前線に立つストライカーが攻撃のカギを握っていることは明らかであり、全北現代のキャプテン、DFキム・ジンスも、神戸との対戦を前に「10番(大迫)を分析していた」と振り返る。

 ところが、その大迫が全北現代戦では先発どころか、ベンチ入りメンバーからも外れた。最近の大迫はコンディションの問題により、出ては休んでの繰り返しが続いていたことを考えれば、想定内の出来事とはいえ、痛い大黒柱の欠場だったことに違いはない。

 同じく、この試合でベンチからも外れたMFアンドレス・イニエスタも含め、準決勝に勝ち進めば出られる状態にあったのか? と問われた吉田監督が「明言は避けたい」と答えたように、大事をとって休ませたというより、使いたくても使えなかったというのが、実際のところだろう。

 しかしながら、前の試合からメンバーを大きく入れ替えるという判断自体は、必ずしもおかしなものではなかった。

 相手の全北現代が先発メンバーをひとりしか入れ替えなかったため、"メンバーを落とした"ことが神戸の敗因であるかのようにも映るが、それはあくまでも結果論。もし控え組中心のメンバーで勝つことができれば、チームの士気は上がるし、主力組はよりよいコンディションで次の準決勝を迎えることができる。

 むしろメンバーを大きく入れ替えるという決断には、決勝へ進めないのであれば、どこで負けても同じ。そんな潔さがうかがえる。

 ただ、それが潔い印象ばかりを与えてくれないのは、神戸が現在、J1で極めて苦しい立場に置かれているからに他ならない。

 要するに、J2降格危機にあるクラブはACLどころではないのだろう。そう見えてしまうのだ。

「アジアナンバー1という目標を掲げるうえでは、ACLは重要な大会だが、そこに余裕を持って臨めるほどリーグ戦で結果が出ていない。いい順位で臨めれば、気持ちが違うが......」

 悩ましげにそう話していたのは、MF山口蛍である。

 前の試合で横浜FMに勝ったあとも、山口をはじめ、神戸の監督や選手の口から「この勢いをリーグ戦につなげたい」という主旨の発言が聞かれたのは、ACLを戦っていても、やはりJ1での心配事から頭が離れなかったからだろう。

 そもそも、今季ACLでの神戸は「プレーオフ、グループリーグ、決勝トーナメントと全部監督が違うし、戦術も選手も変わっている」(DF槙野智章)という"惨状"のなか、試合をこなしてきた。

「チームとして何が優先順位が高いかと言ったら、もしかしたらACLよりJリーグかもしれない」

 槙野がそうも話したように、アジアの頂を本気で目指す準備が整っていたとは言いがたい。一時はJ1最下位に沈んでいたことを考えれば、むしろACLでのベスト8進出は出来すぎと言ってもいいのだろう。

 それどころか、夏の移籍で加入した新戦力が活躍し、J1首位の横浜FMを破ってのベスト8進出である。いいイメージを残してJ1再開につなげられるなら、今の神戸にとっては決して悪くない結末なのかもしれない。

 幸か不幸か、準々決勝敗退に終わったことで、神戸は次の試合(J1第28節京都サンガ戦)まで11日間のインターバルができた。吉田監督も「再開は9月3日なので時間がある。しっかりレストを与え、トレーニングを積んで切り替えていければ」と語り、すでに視線をサバイバルレースへと向けている。

 神戸は現在、J2自動降格圏と勝ち点差2の16位。J1生き残りをかけた戦いは、9試合を残すのみだ。

 アジア制覇の夢破れた神戸を待つ本当の試練は、これからが本番である。