久保建英、バルサに完敗もディフェンダーを翻弄。攻守に光る集中力
8月21日、久保建英が先発したレアル・ソシエダは、FCバルセロナを本拠地に迎え、1−4と敗れている。スコアだけを見れば完敗と言えるが、内容的には後半途中まで伯仲していた。
しかし64分、交代出場したバルサのアンス・ファティが一気に試合を動かした。すでに消耗していたレアル・ソシエダの守備陣を翻弄し、ウスマン・デンベレ、ロベルト・レヴァンドフスキのゴールをアシスト。ダメ押しとなる4得点目も叩き込んだ。
桁外れなセンスを見せつけたファティは、バルサの下部組織ラ・マシア時代、久保の盟友だった。久保のパスを受け、シュートを決める。歴代のラ・マシアでも最強のコンビのひとつと言われたほどだ。
では"古巣"相手に久保自身のプレーはどうだったのか?
バルセロナ戦に先発、後半24分までプレーした久保建英(レアル・ソシエダ)
開幕のカディス戦で決勝点を決め、久保は華々しいデビューを飾っている。4−3−1−2の2トップの一角、ゼロトップに近い動きで、トップ下のダビド・シルバと"分身の術"の如くポジションを入れ替わり、利き足、サイズ、テンポと、瓜ふたつのプレーで敵を撹乱。長年コンビを培ってきたようなプレーで、他の選手とのコンビネーションも含めて攻撃の旗手となった。
「大方の予想を覆した!」
地元では、久保の活躍は驚きとして伝えられた。プレシーズンの段階でも悪くないプレーを見せていたものの、あくまで実戦での貢献が必要だった。チームの周囲には不信感が消えずにあったのだ。
かつて、韓国代表のイ・チョンスも、期待を持って迎えられた。しかし実力的に足りなかっただけでなく、チーム関係者とろくにコミュニケーションもとれなかった。「使い物にならない」と2部のクラブに貸し出されたが、そこでもまるで通用しなかった悪印象が残っていた。スペイン人にとっては、日本人も韓国人も中国人もひと括りなのだろう。
久保はそんなアジア人のイメージを、ひと蹴りで覆した。
前置きが長くなったが、バルサ戦も久保はカディス戦と同じポジション、同じミッションで、高い水準のプレーを見せている。
デ・ヨング、アラウホを翻弄6分、同点弾の場面では、敵陣でフレンキー・デ・ヨングをダビド・シルバと挟み込み、ボールを奪うことに成功。そこからのパスを受けたアレクサンデル・イサクが、かつて久保とチームメイトだったエリック・ガルシアに競り勝ち、ゴールネットを揺らした。
「役目に対する勤勉さ」
開幕戦後にイマノル・アルグアシル監督は、久保の献身的で頭を使った守備を高く評価していたが、この日も、攻守ともに集中力の高さが光った。
26分には味方がつなげたボールを、久保は迅速に右のイサクへ展開。左からゴール前に走り込んだミケル・メリーノへパスが通り、強烈なシュートがGKを襲う。そのこぼれに鼻を利かせて走り込んだのが久保で、左足で狙ったシュートはわずかに右へ逸れた。すばらしいプレーだが、彼の技術の高さを考えれば、ここで決めていれば一気にスターダムを駆け上がったはずだ......。
久保はバルサの選手を相手に、互角以上のプレーを示していた。ラインの間を行きかい、鮮やかなターンで敵の焦りを誘った。50分にはロナルド・アラウホと入れ替わるコントロールで完全に抜け出しかけたところ、後ろからあからさまにシャツを引っ張られて、イエローカードを食らわせた。カバーも遅れていただけに、得点機会阻止(レッドカード相当)すれすれのプレーだった。
それだけ、久保は脅威を与えていた。
「アクティブな前半はとてもよかった。しかし後半になってチームの流れに引きずられ、次第にスイッチがオフに。ただ、ゴールできる機会はあったし、得点にも関与できた」
スペイン大手スポーツ紙『アス』の寸評も、決して悪くはない。
60分を過ぎて、レアル・ソシエダはチーム全体に疲労の色が濃くなっていった。開始からかなりの強度でプレーし、カウンターで失点を喫しながら取り返し、同点に追いついた。しかしその消耗は甚大だった。頭と足を使いすぎた。
一方で、バルサはファティ、ラフィーニャという強力なアタッカーふたりを投入。軽やかにゲームテンポを上げた。66分、ウスマン・デンベレがゴールネットを揺らし、戦力差を見せつけた。レアル・ソシエダはリードを許すと、反撃の余力は残っていなかった。
「60分までは互角にやり合うことができた。好ゲームができたと思うし、リードできるチャンスもあった。しかし、フィジカル的にガソリンが尽きた」
そう語るアルグアシル監督は69分、半ば白旗を上げるように、主力と言えるイサク、ダビド・シルバ、久保の3人を同時に下げている。今後の試合でのコンディションを考慮すれば、当然の決断だろう。もはや逆転できる要素は乏しく、3人は足が止まっていた。
今後、久保はチームと共に成長していくだろう。ワールドクラスの選手を相手に物怖じしないプレーは、カタールW杯に向けても大きな収穫だった。デ・ヨングやアラウホといったオランダ代表やウルグアイ代表を翻弄する姿に、胆力を感じさせた。
次節は8月27日、敵地でエルチェとの一戦になる。