下部組織出身の久保建英に一撃喰らえば…シャビ・バルサが早くも正念場。派手な補強もバルサらしさが見えず
2022−23シーズン、リーガ・エスパニョーラ開幕戦。FCバルセロナは本拠地カンプ・ノウで、ラージョ・バジェカーノにスコアレスドロー発進となった。攻勢は明らかで、ボール支配率は67.5%、シュートも21本を放っている。そしてラージョには実は昨シーズンも2連敗しており、苦手としていた。だがいずれにせよ、格下相手にエクスキューズでしかないだろう。
「結果には失望しているよ。(派手な補強で)期待感が膨らんでいただけに、最高のスタートを切ったとは言えない」
シャビ・エルナンデス監督は、さすがに「チャンスは作った」と、この試合を肯定することはなかった。現地各紙で及第点を与えられたのは、GKマルク=アンドレ・テア・シュテーゲンとMFペドリのふたりだけ。そこには危機感が滲む。
「中盤で3対2の優位を作り出そうとした。しかし、なかなかうまくいかず、後半になってシステムを変え、ようやく形を作ったが......。今は期待感がプレッシャーにもなっているが、『その重圧は私に向けられたものだ』と選手には伝えた」(シャビ)
開幕戦で退場処分を受けたセルヒオ・ブスケツとシャビ・エルナンデス監督(バルセロナ)
開幕を迎えたバルサの周囲は、期待と不安が螺旋となって渦巻いている。
「ラージョがバルサの陶酔を冷ました」
スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』の見出しは言い得て妙だった。
シーズンオフの補強は、単純に魅力的に映る。ゴールが計算できるロベルト・レヴァンドフスキ(←バイエルン・ミュンヘン)、ポスト・メッシの左利きアタッカー、ラフィーニャ(←リーズ)、老練な守備者アンドレアス・クリステンセン(←チェルシー)、中盤にインテンシティを与えられるフランク・ケシエ(←ミラン)、そして世界有数の若きセンターバックであるジュール・クンデ(←セビージャ)まで手に入れた。さらに左サイドバックにはチェルシーのスペイン代表マルコス・アロンソと契約が内定。おまけに、ウスマン・デンベレとの再契約にも成功した。
しかし、移籍金だけで1億5000万ユーロ(約203億円)以上を費やし、13億ユーロ(約1760億円)とも言われる借金があることを考えれば、物議を醸して当然だった。
生え抜きの選手たちに精彩がない今後25年間分の放映権の25%を約5億8000万ユーロ(約783億円)で売り渡し、デジタルコンテンツなどの関連会社の権利も49.5%を譲り、約2億ユーロ(訳270億円)の収入を得て、今オフの大型補強が可能になった。ただ、早い話が"前借り"と資産の切り売りだ。
その不穏さで屋台骨が揺らいでいる。まず、かつて隆盛を誇った中心選手のプレーに精彩がない。
ラージョ戦、ジェラール・ピケは14年間で初めて開幕戦スタメン落ちとなった。ジョルディ・アルバは先発したが、各紙で最低点をつけられ、存在感を発揮できなかった。契約を更新したセルジ・ロベルトも交代出場で空回り。セルヒオ・ブスケツは健在だったが、軽率なファウルで退場処分になった。
次世代を担うラ・マシア出身の若手も低調だ。
昨シーズンから希望の光になっていたガビは、足枷をつけたようなプレーだった。右サイドバックに入ったロナウド・アラウホも、ダニエウ・アウベスを懐かしんでしまうほど、何も貢献できていない。エリック・ガルシアはあらためて対人プレーの弱さを露呈し、ラダメル・ファルカオに体をぶつけられると、簡単に起点を作られていた。
一方で、新たな"三つの矛"、デンベレ、ラフィーニャ、レヴァンドフスキは威力を感じさせた。デンベレはバックラインの前を横切るパスで何度も決定機を作り出し、ラフィーニャも独特の左利きのリズムを見せ、レヴァンドフスキもシュートこそ決まらなかったが、「エリア内の住人」であることを示した。歯車さえ噛み合えば、敵を蹂躙するだけの力はある。
そして、後半から入ったアンス・ファティはバルサの希望だろう。シュート技術は格別。デンベレの横パスを呼び込み、右足で合わせた"当て勘"は特別な才能を感じさせた。コンディションが万全なら、ゴールを量産できるはずだ。
しかし、個人は目立っても、コンビネーションで崩すシーンは乏しかった。音楽が鳴り響くようなパスワークは影を潜めた。つまり、バルサらしさは見えなかった。
シャビはさらなる選手獲得を要求...シャビ監督は解決策として、さらなる補強を求めている。マンチェスター・シティの攻撃的MFベルナルド・シウバにご執心で、メンフィス・デパイ、フレンキー・デ・ヨングを売却して獲得を画策(結局、ベルナルド・シウバは残留が確定的に)。アーセナルの右サイドバック、エクトル・ベジェリンの獲得のため、セルジーニョ・デストを戦力外扱いにもした。確かに、売却リストの選手たちがバルサに適応できていないのは明白だが......。
昨シーズン以来の、チームを丸ごと変えるやり方には、懸念が生じつつある。ニコ・ゴンサレスをあっさりとレンタルに出したが、大金を使って他クラブからの補強に動くクラブに、とくに下部組織ラ・マシア出身者は不信感を抱いているという。また、一部選手に対して大幅年俸ダウンの交渉がある一方、強制的に移籍を迫られている選手もいる。チーム内外であまりに騒がしい。
ピッチに立つ選手の腰が据わらないのも当然だろう
8月21日、次節はレアル・ソシエダと敵地で戦う。ブスケツを出場停止で欠くが、バックアッパーになるはずのニコはもういない。ラ・マシアで研鑽を積んだ久保建英に一撃を食らって敗れでもしたら、目も当てられないことになるだろう。
シャビ・バルサ、早くも正念場だ。