●カゲロウ演技の狙い

テレビ朝日系で放送中の『仮面ライダーリバイス』がこの夏、映画となってスクリーンに登場する。2022年7月22日から公開される『劇場版 仮面ライダーリバイス バトルファミリア』(監督:坂本浩一)は、ハイジャック事件に巻き込まれた両親と乗客たちを救い出すため、五十嵐一輝、大二、さくらの「三兄妹」が禁断の地・エリア666(トリプルシックス)に赴き、激しい戦闘を繰り広げるという。

日向亘(ひゅうが・わたる)。2004年生まれ、群馬県出身。2019年のホリプロ「メンズスターオーディション」で6468人の中からグランプリに選ばれ、芸能界入り。テレビドラマ『太陽は動かない-THE ECLIPSE-』(2020年)や『姉ちゃんの恋人』(2020年)に出演した後、映画「太陽は動かない」(2021年)でスクリーンデビュー。『仮面ライダーリバイス』(2021年)では仮面ライダーライブ/五十嵐大二役で活躍中。 撮影:大塚素久(SYASYA)

映画の公開を記念し、五十嵐家の次男・五十嵐大二/仮面ライダーライブを演じる日向亘にインタビューを行った。日向はテレビシリーズで、大二の体に宿る悪魔「カゲロウ/仮面ライダーエビル」をも演じ、善(大二)と悪(カゲロウ)の使い分けの巧みさでも、多くのファンの心をつかんだ。

――最近の大二は、人々を救いたいという思いが強すぎるあまり、ギフに忠誠を誓うフェニックス長官の赤石英雄(演:橋本じゅん)に従う形となり、兄の仮面ライダーリバイ/五十嵐一輝(演:前田拳太郎)と激しく対立しました。当初はクールだった大二が、昂ぶる感情のまま激高するようになるとは、意外でしたね。

結果的に大二は、とても振り幅の大きいキャラクターになりましたよね。まさか、カゲロウ以上に「闇」の深い奴になるとは、自分でも思っていませんでした。

――大二の「光」に対し「闇」の部分を受け持っていたのが、同じ姿を持つ悪魔カゲロウでした。当初、大二とカゲロウを演じ分けるにあたって、どんなところに気をつけていましたか。

とにかく差別化をはっきりできるよう意識しました。もともと『仮面ライダーリバイス』の悪魔は、宿主と真逆というのがポイントでした。大人びた一輝に対してバイスは子どもっぽく、強気なさくらに対してラブコフは弱いとか。大二の場合は優等生キャラでしたから、カゲロウは悪くて、ずるくてと、まったく反対の性格を表現できるので、演じやすかったです。カゲロウは衣装もカッコよかったですし、メイクも大二とは別人に見えるよう工夫していただきました。ここまでバックアップしていただいたからこそ、あとは自分の芝居で大二とカゲロウの違いを明確に打ち出そうと努力しました。

――エピソード前半での、大二とカゲロウが対立しあう状況の中で、印象的だった出来事はありますか。

まだカゲロウの存在が視聴者の方々に明かされていない第5話で、見た目が大二で中身がカゲロウっていうシーンがあったんです。台本には「K大二」と書かれていた部分。プロデューサーさんには「大二いつもと違う?って、観ている人に違和感を抱いてもらえるように演じてほしい」と要望されたので、上堀内佳寿也監督と相談して芝居を作っていきました。そしてオンエア日を迎えたとき、SNSで「大二キャラ変した?」ってコメントがあったのを見つけて、おっ、狙いどおりだって喜びました(笑)。僕としてはまさにそう思ってもらうための演技をしていたわけで、すごく嬉しかったです。

――鏡をはさんで、大二とカゲロウが対話するシーンも強い印象を残しましたね。

2人分の芝居ですから2倍時間がかかりますし、合成とか、メイクチェンジとか手間が多かったのですが、楽しくやっていました。ただ、撮影時のスタンドイン(代役)で僕の目の前に立ってくれているのは、優しそうな顔をした助監督さんですから、こっちの気持ちを頑張って作り込まないと、相手がカゲロウや大二に見えてこない(笑)。想像力を全力で働かせながら、芝居していました。

――生真面目な大二とまったく反対なカゲロウですが、さくらの作る激辛カレーが好きだったりする、ちょっと憎めないところがありました。最終的には大二と戦い、消滅してしまうカゲロウでしたが、大二に匹敵する人気を集めたことについて、どう思われますか?

僕自身がカゲロウを演じるにあたって心がけていたのは、いつまでも素直じゃない、悪い奴だっていう部分です。意識的に、カゲロウのかわいい部分とかは突出させないよう気をつけました。そんなカゲロウが結果的に愛される存在になっているのは嬉しいし、ありがたいと思っています。

――今回の映画ではカゲロウが大二にふたたび立ちはだかるとうかがっています。久々にカゲロウを演じられたとき、どんな思いを抱きましたか。

これまでにも雑誌などで衣装を着て、カゲロウとして写真を撮ってもらったことはありましたが、演技でしっかりカゲロウになりきるのは、久しぶりでしたね。カゲロウが消滅してからけっこう時間が経っていましたし、メイクさんも僕自身も、カゲロウってどんなキャラだったかな? これで合ってる?っていろいろ思い出しつつ、役を作っていきました。

――豪華ゲストが登場される劇場版ですが、大二とのお芝居が多かった方はどなたですか。

3兄妹を狙ってくる「外海雅人」を演じられた八嶋智人さんですね。八嶋さんはテレビで拝見しているのと変わらないイメージで、ご一緒していると現場がパッと明るくなる方です。八嶋さんをはじめ、ベテランの方々に共通しているのは、与えられた役を思いっきり楽しんでいること。好きなように役を生きていて、すごく自由度が高いんです。僕も、八嶋さんの芝居を観ていて、こんなことまでやってもいいのか!と刺激を受けました。大二を演じるにあたって、もっともっと思い切った芝居をやりたい、と意欲を燃やしました。

――ハードアクション演出を得意とされる坂本監督の作品ですから、映画ならではのアクションシーンがあったのではないですか。

アクションシーンは本当に凄いですよ。坂本監督が撮られると聞いて、ある程度予想はしていましたが、さすが映画は違うなと思えるくらい、大スケールのアクションが詰め込まれています。台本を読んだ段階で、これは大変なことになるから覚悟しておこうと思っていましたが、現場ではその予想をも上回るハードさがあったんです。

●赤石役・橋本じゅんからの言葉



――ハードといえば、ホーリーライブにパワーアップした大二でも、変身を解除したら傷だらけ・血だらけになるんだとテレビシリーズを観ていて衝撃を受けました。

大二って、最初のエピソードではぜんぜん傷がつかなったんですよ。同じくらい激しく戦っていた兄ちゃん(一輝)はもうボロボロだったのに、なんで大二だけ傷がないんだろうって。受け身がうまいのかなとか思っていました(笑)。しかし最近になって、急に傷だらけになることが多く、演じている僕も衝撃を受けました。画面を観ていても大二が痛々しくて、心配になるくらいです。

――テレビシリーズではフェニックス長官の赤石とギフとの関係が明かされ、フェニックス組織そのものがほぼ崩壊状態になる中で、あえて大二は赤石と行動を共にしていました。赤石役の橋本じゅんさんはここ数年、その姿を観ない週がないと思えるくらい、多くのテレビドラマで活躍されている方ですね。

橋本さんは本当にお忙しい方なのに、『仮面ライダーリバイス』の赤石長官役にも熱心に取り組まれています。台本作りの段階で、プロデューサーを交えてご意見を出されているそうで、「このセリフ、こういう意味であれば変えてもいいか」など、現場でもいろいろ提案しながら芝居をされています。横で見ていても、熱い思いが伝わってくるんです。それだけに、橋本さんの芝居に全部持っていかれないため、大二としても頑張らないといけません。赤石長官のそばに立っている「モブのひとり」になってしまわないよう、存在感を出していくぞ、という思いでした。

――橋本さんから受けたアドバイスで印象に残っている言葉を教えてください。

たくさんあります。橋本さんは芝居の仕方について、行動で示してくださると同時に、ストレートに言葉として言ってくださるんです。印象的だったのは「芝居には正解がないし、お前の思ったことを表現すればいい」って言葉です。その一方で、僕がちょっと気の抜けた芝居をしたときに「お前、いまちゃんとやったのか?」と鋭く指摘をされたりします。橋本さんの言葉は厳しいのですが、スタッフさんからは「今どきあんなにしっかりしたこと言ってくれる人いないよ」って言われますし、気にかけてくださってるなと実感します。緊張感のある現場だからこそ、大二と赤石長官が2人でいるシーンが多くの方々の印象に残っているんじゃないか、と思っています。

――日向さんが大二およびカゲロウを演じたことにより、この1年で成長したと思えるのは、どんなところですか。

1年前と比べても、体力と根性がついてきたと感じます。だからこそ、今回の映画では大二の集大成をお見せしたい、という気持ちが強くあります。今まで培ってきた体力を、すべて使いきるほど、ハードな撮影でした。テレビシリーズと同時に撮っていることもあり、スケジュールが重なって、映画をやっているころはめちゃくちゃ大変だったんです。

――テレビのエピソードと映画が同時進行で、混乱したことはありますか。

ちょうどテレビでは大二が「闇堕ち」中で、一輝と戦ったりしていましたけど、映画だと三兄妹が力を合わせてますから「よし、兄ちゃん行こう!」なんて言ってたり(笑)。ちょっと混乱しましたけど、大二とカゲロウを演じ分けていた経験が活きて、それほど難しくはなかったです。テレビと切り離しても楽しめると思います。

――劇場版で披露される戦闘服は、肩が露出しているなどワイルドな印象を受けますね。

素肌が出ているので、ちょっとしたアクションで擦り傷になってしまったり、けっこう苦労しましたが、迫力は出ているんじゃないでしょうか。劇中で激しい拷問を受けるのですが、汗だくになるカットではベビーオイルを塗って、凄惨なイメージを強調していました。オイルは坂本監督が好んで使われると聞きました。坂本組の洗礼を受けた気分です(笑)。 

――大二ファンおよび『仮面ライダーリバイス』ファンの方からの反響は、どんなところで受け止められますか。

SNSでの感想とか、トークイベントで『仮面ライダーリバイス』がたくさんの人たちに愛されているのを実感しています。あと、撮影現場に小さな男の子が見学に来ていたことがあって、そのとき大二は攻撃を受けてボロボロの状態だったんですけど、その子が「大二がんばれ!!」って声をかけてくれたんです。そのとき、こういう子たちが『仮面ライダーリバイス』を応援してくれているんだなあ、よしこれからも頑張ろう!と奮起しました。改めて、子どもたちの憧れとなるヒーローを演じる自覚が強まりましたね。

――いよいよ公開される映画について、日向さんから見どころを教えてください。

テレビではしばらく五十嵐三兄妹の同時変身や共闘がありませんでしたが、映画では仮面ライダーリバイス、仮面ライダーライブ、仮面ライダージャンヌがそろって強敵と戦います。テレビとはひと味違う大二がお見せできると思いますし、大二特有の戦闘シーンをお楽しみいただきたいです。僕自身、1年間『仮面ライダーリバイス』に出演して、顔つきが変わったとか、たくましくなったとよく言われますし、少し身長も伸びました。見た目の変化と共に、内面から出る雰囲気や芝居の仕方なども変化を感じていただけるよう、精一杯がんばりました。ケイン・コスギさんと拳ちゃん(前田)の一騎打ちもすごいことになっているので、ぜひ映画館で坂本監督のアクション演出を堪能してください!