無期限休養の武尊選手が明かした「パニック障害」ってどんな病気? 精神科専門医に聞く
キックボクサーで「K-1 WORLD GPスーパーフェザー級」で王者にもなった武尊(たける)選手が6月27日、無期限休養することを記者会見で表明し、パニック障害とうつ病を患っていることも公表したとの報道がありました。武尊選手は6月19日、東京ドームでRISE世界フェザー級王者の那須川天心選手と対戦し、激闘を繰り広げたばかりでした。
武尊選手が患っているというパニック障害は、どういう症状でどう治療するのでしょうか。うつ病と同時に患うケースは多いのでしょうか。精神科専門医の田中伸一郎さんに聞きました。
昼夜問わず「パニック発作」
Q.「パニック障害」とは、どんな病気で、どのような症状が出るのでしょうか。
田中さん「パニック障害とは、動悸(どうき)、冷や汗、息苦しさ、胸やおなかの不快感、めまい感といった身体症状、不安感、恐怖感などの精神症状からなる『パニック発作』に、昼夜問わず急に襲われるものです。
典型例では、パニック発作を経験して、『また発作を起こすんじゃないか』という『予期不安』に苦しんだり、『頭がどうにかなっちゃいそう』という『発狂恐怖』に襲われたりといった症状がみられます」
Q.パニック障害の原因を教えてください。
田中さん「一般に、精神障害というと心の病気とみなされがちですが、パニック障害は、単なるメンタル不調というよりも、体調がひどく悪くなったイメージに近く、脳内のいわば“警報装置”が誤作動し、交感神経系の過緊張が続いている状態と理解するとよいでしょう」
Q. どのくらいの数の人が発症し、年齢や性別の特徴はあるのでしょうか。また、武尊選手のような格闘家が発症するのは珍しくないのでしょうか。
田中さん「パニック障害は、中高生から成人期までの数%の人が発症しますが、小学生や高齢者の発症もまれではありません。また、女性に多いことが知られています。
個人的な臨床経験では、格闘家、アスリート、医師、看護師、警察官、教師、消防士、パイロットなど、心身が過酷なストレスにさらされる職業や、交代勤務がある職業の人に、比較的多いような印象があります」
Q.「パニック障害かもしれない」と本人が思った場合や、周囲が気付いた場合、受診の目安は。また、診療科はどこがよいのでしょうか。
田中さん「パニック発作を繰り返すようなら、早めに精神科、心療内科を受診することをお勧めします。なぜなら、交感神経系の過緊張状態を少しでも早く解除できるほうがよいからです。
なお、動悸、呼吸困難、胸部不快感などが持続的にみられる場合には、まず内科を受診し、採血、心電図、レントゲンなどの検査で異常がないことをチェックしてから、精神科、心療内科を受診するようにしましょう」
Q.治療はどのように行うのですか。
田中さん「治療は、生活習慣の見直しが基本です。睡眠不足、食生活の乱れ、過度の飲酒、喫煙などは、パニック障害の悪化要因となりますので、まずは十分な睡眠時間を確保し、バランスの取れた食事を心がけて、お酒とたばこを減らすことから始めましょう。
お風呂にゆっくりつかり、のんびりと時間を過ごし、呼吸を意識しながらスローペースで散歩をするのもよいですね。体を動かす際には、負荷が強いエクササイズにならないように気を付けてもらいます。ただ、患者さんには、こうした『ゆっくりする』ことが、意外と苦手な人が多いです。
その上で、患者さんによっては『SSRI』と呼ばれる、うつ病でも使われる薬を内服してもらいます。発作時には抗不安薬を頓服薬(症状がひどい時に臨時で使用する薬)として服用してもらいますが、一般に、抗不安薬は依存性が高いので、漫然と続けないようにする必要があります」
Q.パニック障害とうつ病を同時に患うことは多いのでしょうか。
田中さん「パニック障害とうつ病は、かなりの頻度で合併することが知られています。これらを同時に患っている場合には、より徹底的に生活習慣を見直し、積極的に薬物療法を行います。
心身とも過酷なストレスにさらされ、うつ病を併発している場合には、休学、休職するなどしてなるべく早めに療養生活に入ってもらい、快食、快眠、快便が得られることを目標に、適度な運動を行いながら回復を目指すのがよいと思います」