※この記事は2013年11月23日にBLOGOSで公開されたものです

赤木智弘の眼光紙背：第299回

　なんか「婚学」ってのがあるらしいですよ。(*1)
　残念ながら僕は見ることができなかったのですが、NHKで特集されていたそうですよ。(*2)
　で、基本的には完全に「売るための講義」ですよね。マスコミや自治体、そして企業に売れる講義ですよこれは。

　「草食系男子」という言葉がそうであったように、恋愛に対するアカデミックな立場からの裏付けをすれば「売れる」わけです。なぜ売れるかといえば、既存のメディアや企業というのは恋愛をカネに変えてきたからですね。

　クリスマスやバレンタイン。お高いお洋服や旅行、そして車などなど、恋愛というのはすべてこうした「市場」に、強く結び付けられてきたわけです。

　ところが、不況を理由に若い人に金を渡さず絞りとっていたら、どんどん若者が恋愛に対して金を使わなくなってしまった。いわゆる「若者の◯◯離れ」が起きたわけです。

　さて、どうしようと企業が困っていたら、あの女性が「草食系男子」という差別用語を送り込んでくれた。「恋愛をしない男は弱々しい草食系だという偏見が社会に蔓延すれば、また恋愛市場が盛り上がる！」と喜んだ企業たちが、草食系男子という差別用語を持ち上げたわけです。

　しかし、けっして十分には成果を得ることができなかった。それは当然です。なぜなら原因は「若者に金が回らないこと」だからです。しかし、若者にというか、労働者に金を渡したくない企業は、また懲りずに「婚活だ！婚学だ！」と、そうした安直なワードに飛びついてしまうのです。

　今回の「婚学」という言葉を生み出した助教は、そうした企業に対して、戦略的に言葉を売っているのであり、現状の感想としては「商魂たくましいね^^;」と思うほかありません。(*3)

　やっかみはここまでとして、本質的な話をすると、結婚に至るコミュニケーションって、本当に必要なことでしょうか？

　恋愛して結婚して子供を産めというのは、あくまでも子供を増やしたい国や自治体、そして金儲けをしたい企業の都合でしかありません。

　また、昔の人にコミュニケーションスキルがあったかと言えばそうではないでしょう。高度経済成長時代の人たちは、決してコミュニケーションスキルがあったから結婚したのではなく、女性差別を前提とした「夫が正社員で家庭を守る」という前提の上に、結婚が社会から押し付けられていたというのが正解でしょう。これは熟年離婚の増加傾向を見れば、明らかではないでしょうか。(*4)

　結婚というのはあくまでも社会的な制度であり、人間の本質ではありません。そこには社会の都合があり、それに沿うことによって私たちは利益を得ることもあれば、問題を抱えることもあります。そしてそもそもコミュニケーションとは「お互いが幸せになればいいよね」というだけのことではないはずです。そうしたコミュニケーションの多様性を棚に上げ、結婚だけに注目する理由はどこのあるのでしょうか？

　少なくとも「学問」というからには、結婚に対する様々なエクスキューズを多角的に論じるべきでしょう。僕は婚学がそうした学問であることを望みますし、そうした学問であればもっと広く注目を浴びるはずです。でも、売るためにはそうした複雑なことを無視したり、切り捨てる必要があります。そうなればワイドショーでは注目されても、学問としては無視されることになります。

　婚学が今後、どのような学問として成立していくのか。僕としては今はまだ判断をせずに希望をもって見守ることにしたいと思います。

*1：はたして少子化の歯止めになるのか？ “恋愛スキル” が学べる九州大学の授業「婚学講座」に賛否両論（Pouch）
http://youpouch.com/2013/11/22/143982/
*2：加速する“未婚社会”どう備える（NHK）
http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2013_1114.html
*3：「婚学」は佐藤剛史の登録商標です。（佐藤剛史のofficial blog）
http://agr-eco.jp/blog/
*4：婚姻率と離婚率の長期推移（社会実情データ図録）
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2777.html