※この記事は2013年09月07日にBLOGOSで公開されたものです

赤木智弘の眼光紙背：第288回

　ニュースとは少し違うのだが、ニュース番組で報じられたことという文脈として、考えたい問題がある。
　毎週日曜日にTBS系列で放送されている、関口宏司会の報道番組「サンデーモーニング」の中で「中二病」という言葉が特集されていたが、その言葉の意味が、おかしいという話題がTwitterなどのネット上で広まっていた。(*1)

　報じられた内容としては、最近のアルバイトなどが店舗で冷蔵庫に入ったり、食材を粗末に扱ったものを写真に撮ってネットにアップする問題に絡めて「中学２年生の感覚を持ったまま大人になってしまったこと」を中二病であるとして報じたらしい。

　これに対してネットでは違うという反発が起きた。ネットで言う「中二病」とは、いわゆる「邪気眼」と呼ばれるような、自分に何か漫画的な特殊能力があるかのような設定をして、それを演じるようなことや、親に反抗したり、不良行為をしたりする自分をカッコイイと思い込んだり、むやみにメジャーな趣味を馬鹿にするサブカルに陥るようなことを指している。そうした行為をする他人を中二病と呼んで、嘲笑するのが、ネットでの主な使い方である。

　確かに、サンデーモーニングで報じられた内容は、中二病ではない。というかそもそも大学生とか、20代の若者なんてのはあんなものである。少なくとも「今の若者は」の文脈で、あれらの行為を批判する大人たちは、たまたまアップロード環境がなく、身内で消化されていた、自分たちの恥ずべき過去を忘れてしまったに違いない。

　今現在、あれらの行為が問題になっているのは、ネット社会によって個人の写真を簡単にアップできるようになり、問題が見えるようになったこと。そしてもう１つは昔なら内々の注意で済んでいたような行為が、他者への寛容さが失われたことによって、すぐに社会問題になってしまうこと。これらの要因が大きい。

　 　では、ネットで言われる中二病の定義が正しいかと言われると、僕はそうは思わない。
　中二病という言葉は、元々はタレントの伊集院光がパーソナリティを務める深夜のラジオ番組「伊集院光のUP'S（アップス） 深夜の馬鹿力」（タイトルは当時のもの。現在は「伊集院光 深夜の馬鹿力」）の１コーナー。「罹ったかな？と思ったら中二病」というコーナーから産まれた言葉と言われている。

　これらのコーナーでは、ネット上でも今でも使う、例えば「俺の部屋に勝手に入るなよ！プライバー守れよクソババァ！」といった「親への反抗」や、ブラックコーヒーを飲みだすといった、中学２年生ならではの、間違った方向性の背伸びをみんなで笑うコーナーである。

　だが、その文脈はけっして今のネットでの使い方とイコールではない。番組の中二病と、ネットの中二病。最大の違いはそこに「自虐」が存在するかどうかである。

　中二病コーナーの自虐性は、このコーナーが始まる前にあった人気コーナー「自ギャグの詩」から引き継いだコンセプトである。自ギャグの詩というコーナーの持つ、自分の恥ずかしかったり、思い出したくない過去を顧みて笑い飛ばす事によって、それを乗り越えるという意味を、中二病コーナーも包有していたのである。

　しかし、ネットの中二病は、主に他人に対するレッテルとしてばかり扱われている。 　レッテルという意味では、サンデーモーニングが批判対象を中二病と指したこと、ネットでの中二病の使い方は、それほど大きく変わるものではない。だから僕は、サンデーモーニングをあげつらうような批判のあり方こそ、むしろネットで使われる意味での「中二病」であると感じている。そこにはなんら自制がない。

　今の日本では「自虐＝悪」として扱われている。特に「自虐史観」のような言葉にその傾向は顕著で、歴史を直視することそのものを「悪」として扱い、一方的に愛国とされる見方を強制する。

　また、個人においても、自分の事を全面に押し出し、積極的に主張することが善しとされる。一方で、自分の事でくよくよ悩んだり、過去を顧みて恥じることは、内気で情けない行為であるかのように見られるようになってしまった。

　その結果として、日本人の多くは自尊心のために他人にレッテルを貼って攻撃し、自らを顧みなくなった。 　中二病という言葉も、もはやそうした変化に晒され、すでにオリジナルのものではない。伊集院光自身も、もはや大きく意味が変わってしまったこの言葉に関して、もう関わりが無いことを宣言している。だから、この言葉には、もう明確な定義はない。 　だが、僕はオリジナルの中二病という言葉が好きである。

　自分の過去をなかったことにせず、たまに思い出して、うわーと頭を抱える。そんなことが、人を少し成長させるような気がするから。

*1：TBSの「中二病」への理解がいいかげんすぎると話題にwww（Togetter）
http://togetter.com/li/557732