※この記事は2013年07月25日にBLOGOSで公開されたものです

23日と24日の２日にわたり、ソフトバンクグループが「SoftBank World 2013」を開催した。基調講演には孫正義氏が登壇、「世界に挑む」というテーマで、2,000人の聴衆を前にこれからのグループのビジョンを熱く語りかけた。スプリント買収の成功で海外からも注目を集める孫氏が描く、30年後の未来とは。

・SoftBank World 2013 基調講演　孫 正義「世界へ挑む」 - 講演の映像
・プレゼン資料（pdf）

家電業界の苦戦、原因はデジタル化の遅れ

皆さん、おはようございます。ソフトバンクの孫です。よろしくお願いします。

世界へ出る。私自身も思っていることですが、今日お集まりの多くの皆さまは世界で大いに活躍しておられる企業の皆様か、これから打って出ようと考えておられる方々がたくさんいることと思います。ちょうど選挙が終わったばかりですが、最近アベノミクスで日本経済もようやく、もう一度成長を迎えようという空気が出て参りました。経済を刺激するには、財政だとか、いろいろな方法はありますが、結局、最後は成長戦略ではないかと思います。いろいろな財政のテクニックを使っても、結局、日本経済が成長しなければそれは意味をなさないと思います。かつて高度経済成長していた時代は、まさに日本の家電業界や自動車業界で、創業者の方々が世界に大きく打って出始めた時期でもありました。この20年、日本経済は長く停滞してきましたが、これからの人口減少、少子高齢の時代では、世界に出ることは必要不可欠なことだと思いま す。

もう一つ思うのは、「デジタル・オア・ダイ」。デジタル化するのか、あるいは自らの企業の将来がないという状態に追い込まれるどうかです。最近、日本の家電業界等は赤字続きで苦戦しておられますが、私が思うに、原因はデジタル化の遅れだと思います。単に部品を組み立てて、アナログチックに作っているだけです。日本のハードウェアは薄く、故障しにくいものを開発するのはもともと日本のお家芸ですが、デジタル化が足りないのではないかと思います。ソフトとハードを融合させ、クラウド、ビッグデータを活用し、これまで先端と言われていた企業が積極的にデジタル化を図っていかないといけないと思います。そういうわけで、「世界へ挑む」を。それを今日のメインテーマに掲げたいと思います。

「世界へ挑む」

まず私自身もソフトバンク自身も、とくに今年から、「世界へ挑む」、ということをやっています。これに少し触れたいと思います。スプリントの買収、やきもきしました。すったもんだがありました。紆余曲折あって、少しお金も高くつきましたが（笑）、ようやく予定通り７月11日に買収が完了し、これにより、我々は世界で3位の売上高を誇る企業になりました。

これまでは日本のソフトバンクのモバイル事業は日本で2位、3位でした。「ソフトバンク」ブランドのサービスとしては3位ですが、しかし「ソフトバンク」グループとしては、ユーザー数も売上も2位なのではないかと思いますが、そんな国内で2位、3位なんて議論はどうでもいい。もっとそれよりも世界で3位。こっちにルールの測り方のものさしを変えようと言っています。ユーザー数もグローバルで数えるとドコモさんをはるかに凌いで、米No.1のベライゾンに迫るところまで来ました。

これにより、今日お集まり頂いている、普段ソフトバンクとお取引いただいている皆さま、これから始めようという会社さんに、ソフトバンクがスプリントをグループに入れたことによって何がもたらされたか。ソフトバンクだけですと、拠点は世界に少ししかありませんが、スプリントは世界30箇所で事業を行なっている。ネットワークが世界165カ国につながっています。ですから、すでに世界で大きく活躍している、あるいはこれから打って出る皆さまを、ソフトバンク=スプリント連合軍で世界への更なる飛躍をご支援したいと思います。

私は、挑戦する者にのみ、未来は開かれると思っています。自ら挑戦もせずに自らの未来があると思うのは、よっぽど先代に恵まれたか、よっぽどラッキーかということだと思いますが、 結局そういう幸運は長くは続かないですし、幸運があるということは不運もあるということだと思います。しかし自ら挑戦しつづける皆さんにおいては、自らが自らの未来を切り拓くという意味で、大いなる成果が生まれるのではないかと思います。

ちょうど3年前に、ソフトバンクは「新30年ビジョン」を作りました。"新"ですので、1回目「30年ビジョン」を作ったのは、創業のときです。私がソフトバンクで最初に行った朝礼はみかん箱に乗って行いましたが、私以外に社員は2人だけ。30分ほどビジョンをしゃべりました。2人とも目を見開いて驚いておりました。「とんでもない会社にはいったぞ」と。2週間で2人とも辞めてしまいました（笑）。そのときのトラウマで、30年とかいう長いビジョンを話すと社員が恐れおののいて辞めてしまうのではと、次の30年のビジョンというのは、胸に秘めて封印してきました。しかし、創業から30年が経ったので、もう1度社員に問うてみようと、３年前に、これからの30年ビジョンを社員に示しました。最初は「これから30年先はどうなるんだろう？」と迷いました。しかし、迷いがあるときほど、遠くを見てみると大きな流れがよりクリアになってきました。そこで「30年ビジョン」を作るにあたり、遥かに先の300年後の人類の姿、社会、テクノロジーの進化を徹底して考えてみました。このビジョンは、約1年をかけて国内外の叡智を集めて考えました。かいつまんで一部を申し上げます。

300年後には平均寿命が200歳になる

ちょうど20年前、300億個ある人間の脳細胞の数を、ワンチップに入っているトランジスタの数が超えるのは何年だろうと計算したら、答えは2018年でした。

ワンチップのコンピュータはトランジスタでできていますが、それがくっついたり離れたりして、電気が流れます。脳細胞もニューロンがくっついたか、離れたかによって、微弱な電流が流れ、記憶したり考えたりできるのです。トランジスタも脳細胞、どちらも電気が流れたか流れないかの２進法で、まったく同じ理論構成です。５年前にもう１回計算したら、やはり2018年でした。「ムーアの法則」はあきらかに機能し続けています。人間の脳細胞の数は4,000年前と現在で変わっていないので、今から4,000年後も脳細胞の数は変わりませんが、ワンチップのトランジスタの数は2018年を境に脳を超えるでしょう。そこから300年後には１垓の3乗倍の数になる。１垓は１兆の１億倍です。300年後のワンチップに入っているトランジスタ、２進法のメカニズムはそこまで増えるのです。地球上の生命体で最も優れている人間の大脳の働きを遥かに上回る機能をワンチップ・コンピュータが持つということです。

人間が悩んだり、想像したり、クリエーションしたりするのは人間の特権でしたが、いずれはコンピュータが自己学習をし、自らプログラミングをする時代がやってきます。しかも人間よりもはるかに鋭く未来を洞察したり、発明したりするでしょう。ここまでくるとほぼサイエンス・フィクションの世界になりますが、そのような脳型コンピュータは必ず生まれます。

この脳型コンピュータを搭載した知的ロボットは人間をはるかに上回りますから、彼らと平和に共存しないと人間に未来はないわけですが、私は彼らと幸せに共存できると信じています。つまり、人間がこれまで不可能と諦めてきたような大災害の救助作業、介護、医療、教育などの面において、脳型コンピュータを搭載した知的ロボットが援助してくれると思っています。また通信事業を行なっている我々からすると、優れたコンピュータ同士が無線でつながって、チップをおでこにぺたっとはるとチップを介した「人体間通信」で自分の脳と相手の脳が交信できます。頭の中で思うだけで1000km離れた相手と交信できる、まさにテレパシーのようなものが出てくると思うのです。近々、時計型携帯電話、あるいはメガネのなかに搭載された携帯電話で会話できる時代がくるでしょう。

また、300年前の人類の平均寿命は35歳くらいでした。戦争や病気で早く亡くなっていたからです。医療が大きく進んで、300年後には人間の平均寿命が200歳という時代がやってくるでしょう。70～80歳はまだ若いと言われる。

想像するとほとんどがサイエンスフィクション、あるいは宗教論争、哲学論争になってしまいかねないテーマですね。

クラウドは人類最大の資産になるだろう

300年後を想像して、悩みながら、こうかな、ああかなと想像した後にもう1度「30年後」を考えてみると、ほとんど退屈するくらい、「その程度は当たり前だよ」という世界だと思います。300年後の脳型コンピュータを搭載した知的ロボットの存在を考えると異論が出そうですが、起きて当然の退屈な30年後はどうなるか。

まず「情報のビッグバン」。iPhoneがそのときにあるかわからないですが、たとえば30年後のiPhoneは、今と同じ値段で、CPUの能力は約100万倍になる。平均的に持つ記憶容量は現在の100万倍。通信速度は300万倍ほどになります。そうすると音楽なら5000億曲、新聞なら3.5億年分、テレビ番組は３万年分が入るわけです。そのような「スーパー・スマートフォン」がやってきたとき、ローカルにそれだけの処理能力があるとすれば、クラウドはいらないかとなるでしょうか？これまた大間違いです。通信速度が300万倍になるとローカルもクラウドも境目のない通信スピードになります。無限大のクラウドが地球にどんどんと増えていく。それは人々のライフスタイルを劇的に変えるでしょう。あらゆるものごとがライフログとして取られ、クラウドに保存される。また教育もはるかに進化する。世界中の子供が離れたところにいる子どもたちが、異なった言語であっても自動翻訳でつながることができる。医療もはるかに高度になり、離島に住んでいようが、砂漠に住んでいようが、世界で最も進んだ医療を瞬時に受けられる。ワークスタイルも進化し、瞬時にさまざまなものとつながり、生産性が向上する。クラウドは人類最大の資産になるでしょう。

我々はクラウドの情報を最大の資源・資産として活用し始めています。クラウドとビッグデータがマッシュアップして、それがもっと有益な形でマーケティングをし、問題解決するようになります。ソフトバンクモバイルも真っ先にビッグデータを活用し、自らの問題を解決しました。それが電波改善でし。ソフトバンクユーザーに対し、少しでも接続率を良くして、通信網の穴を無くし、効率よく基地局を開設することに役立てたいと思いました。そこで世界で初めて、自らスマホアプリから１カ月に7.5億件のデータをかきあつめ、瞬時に分析し、ネットワークの電波改善に使いました。ユーザーがどこでいつ何回接続したか、それがつながったかどうかを分析しました。ドコモさんKDDIさんのユーザーの接続状態まで分析しました。世界で初めて行ったやりかただと思います。人がどのお店でどのように動いたか、金曜日の18時、日曜日の10時はどこで何をしているかデータを分析しました。こうして、本当に改善できたのかどうか。どこに穴があるのか。遮断されたのかを分析しています。

今まではITの専門雑誌などで「200箇所で調べた」「1000人に聞いた」とか非常に少ないデータによるアナログチックな分析はありました。でも１ヶ月に7.5億ものデータを分析した雑誌はどこにもありません。お金がかかりすぎるからです。技術によるアプローチが必要なのです。ドコモさんのツートップ機種がいまどれくらい接続しているかドコモさんよりも知っています。auさんのどの機種の接続率が悪いか、我々はauさんよりも知っています。それを我々の通信品質に役立てている。だから、通信接続率がナンバー１になったと、堂々とCMで言っているのです。

人に売り込む前に自らが使って本当に役に立つのか、先に試すのがソフトバンクのカルチャーです。実は背景にこのような科学的アプローチがあるからこそ、限られた設備投資でも他社を追い抜くところにまで到達することができたのです。

さらにビッグデータの活用法として、我々ははるかに前からTwitterのツイート解析を行なっています。お客様に電波改善の実感があるのか。実際のビッグデータでは把握しているが、人々が実感するのには誤差があります。「あの人は悪い人だ」と1回イメージがつくとなかなか改善しても信じてもらえません。我々にも、「電波がつながりにくい」という過去がありましたが、改善したことを実感するまでには時差が生じる。それを２月から７月まで、1億2,000万件のTwitterへの投稿を自然言語処理で分析して、前向きな気持ちや批判がどのように変化しているのかも、改善に役立てています。お客様の声を聞いてみようと100人や1,000人くらいの方に聞いても何がわかるんだということになりますが、このようにビッグデータを活用することで、はるかに多くの人々の感情が分析できるのです。

ワークスタイルも世界標準へ

ソフトバンクはクラウドとワークスタイルを率先して変えてきました。iPhoneが出て4～5年が経ちますが、我々はiPhoneが出た直後に全社員にタダで配りました。iPadが出たらすぐにまた全社員に配りました。全員がそれを持って歩いて、クラウドにつなぐというのを実践してきました。我々の利益の伸びが大きいのは偶然ではなく、法人営業で言えば１社員あたりの訪問件数が2.5倍になったからです。これはクラウドやiPhone、iPadなどを活用しないとできませんでした。メールはGmailでクラウド化しましたし、見積もり、日報、CRM、さまざまな報告がクラウドに上がりますから、会社のワークデスクにいながらのようにどこにいても生産性が上がります。

そして、我々が率先して使うだけでなく、取引先の企業に活用事例を一緒に作ってきました。JR東日本さんでは、iPad miniが7000台。全乗務員がいつでもどこでもマニュアルが読めるようになっています。中外製薬会社さんでは、動画を活用して医師へ情報を提供しています。ミサワホームさんではiPadで顧客管理や工程管理などをしています。三和シャッターさんも超高速シャッターの開閉の速さを動画で実感できるようにした。また、なぜここでアートネイチャーさんを私が宣伝するんだ、妙なつながりですが（会場爆笑）、頭皮のチェックにも役立ててもらっている。

ソフトバンクは率先して社内ではプリントアウト禁止、紙禁止にしました。お客様との契約書、役所に提出する書類以外はペーパーレースになっています。したがって、商談も動画でお客様にプレゼンします。それで社内にビデオを作る部隊まで完成しました。世界に挑むということですから、Google Appsを全社員で使って世界のどこでもやりとりをしています。これは全日空さん、アマダさんにも提供しています。

世界へ挑む挑戦することで、初めて見える景色があります。その景色は、挑戦する前は見えなかった景色です。 これから挑戦しようという皆さんも、あるいはどんどんデジタル化をやっている企業さまも、さらなるデジタル情報革命に向かって一緒に大きく挑戦していってほしいと思います。世界中の人々のワークスタイルを変革したいと我々思っています。

情報革命、これを何のために行うのか？ 多くの人々により幸せになっていただくために行なっているのです。