※この記事は2013年05月25日にBLOGOSで公開されたものです

赤木智弘の眼光紙背：第273回

　独立行政法人日本学生支援機構が、約600人の奨学金の原則廃止を大学側に通知したそうだ。(*1) 　やはり最近の滞納者の増大が問題なのだろう。貸す側も厳しい態度で望むぞということなのだろう。その事自体の是非はすごく批判したいのだけれどおいておくとして、そもそも延滞が増えている原因はいくつか考えられうる。

　まずは大学全入時代で、大学入学者が増えたことにより、奨学金利用者が増え、自ずと滞納者も増えているということ。 　こちらのサイト(*2)によると、1998年度には日本学生支援機構による奨学金利用者は50万人であったのに対し、2009年度には115万人に達している。次に、景気が悪く、仕事に就いても生活が苦しかったり、元々仕事に就けなかったりすること。

　これらのことは当然なのだが、僕が最も重要かつ、この問題を論じるときに一番忘れ去られていると思うのは、昔と比べて、大学の学費が高くなっていることだろう。

　文科省によると、1975年には年間36,000円だった国立大学の年間授業料が、平成17年には535,800円に値上がりしている。なんとその差15倍弱である。(*3)

　ちなみに現在も国立大学の標準授業料はこの535,800円のようだ。 　奨学金の話が出ると、ジジイがしゃしゃり出て「俺の若いころは、自分で働いて大学の授業料を払っていた。今の若い奴は甘えている」などと知った口をきくことがあるが、それができたのは、単純に授業料が安かったからである。ちなみに1975年から、現在までの消費者物価指数は２倍弱しか変わっておらず、実質７倍以上の負担が現在の大学生たちに課せられていることになる。

　奨学金利用者が増え、それにともなって延滞者も増え、授業料も増えたから奨学金そのものの額も増えた。当の学生も苦しければ、奨学金を払う側も苦しい。こんな事態になっているのに、有権者は高校無償化すらばら撒きであるかのように批判し、国立大学の無償化など夢のまた夢。

　このような状況で、どうして今の若い人たちが子供を産んで育てようなどと思うだろうか。 　子供に借金を負わせて当たり前だなどと思う親が、この国にそんなにいるだろうか？

　子供の将来を考えれば、そもそも産むこと事態が申し訳ないという状況で、手帳を配ろうが、道徳を強要しようが、子供を産むという行為を行う「無責任な親」が増えるとは思わない。だいたい、子供を産むためのバリアはこれだけではない。国の借金とか、年金とか、子供が不幸になるしかないファクターだけなら山ほどあるのだ！

　これは完全に国の失態である。 　国の失態を学生に負わせるのは間違えている。 　このような間違いを、いつまでも改善せずに放置してはならない。

*1：奨学生６００人貸与打ち切り　支援機構、大学の審査覆す（朝日新聞）http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130523-00000013-asahi-soc
*2：奨学金 のことなら　奨学金なるほど相談所　日本一わかりやすいガイド！（奨学金なるほど相談所）http://www.shogakukin.jp/
*3：国立大学法人評価委員会 大学共同利用機関法人分科会 業務及び財務等審議専門部会（第1回）議事録・配付資料 ［資料5］ 国立大学と私立大学の授業料等の推移（文部科学省）http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/kokuritu/005/gijiroku/06052921/005/002.htm

プロフィール
赤木智弘（あかぎ・ともひろ）
 1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

・@T_akagi - Twitter