「投資」は、”知的でオシャレな社会貢献”～投資家・藤野英人氏インタビュー～ - BLOGOS編集部

2022年3月30日 0時0分

※この記事は2013年04月19日にBLOGOSで公開されたものです

レオスキャピタルワークスの藤野英人氏（編集部：撮影）写真一覧

「武器としての教養」をキャッチフレーズに”ジセダイ”の若者に向けて、様々な分野の知識を提供する星海社新書。この星海社新書の著者へのインタビューシリーズ第3回は、「投資家が『お金』よりも大切にしていること」 (星海社新書)で、「投資」というマインドを持つことの重要性を説いた投資家・藤野英人氏に話を聞きました。【取材・執筆：永田　正行（BLOGOS編集部）】

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日本人はケチで金に汚い民族？

━ 今回の著書は序盤で「日本人は金に汚い」「日本人は欧米人と比較してケチだ」といった少し挑発的な書き方をしていますね。実際、そうした傾向を示すデータも提示していらっしゃいますが、これは藤野さんが日ごろから感じていたことなのでしょうか？

藤野英人氏：(以下、藤野)まず、僕がなぜこういう話をしたかというと、日本の強いところ、弱いところについて、コミュニケーションしたかったからなんです。そのために、いつもの自分が書いている本よりも強い口調にしました。僕の問題意識として、「日本人が自分達のことを非常に美化している」というのがあるんです。その美化している部分を全部剥がして、素になったら凄く力強いはずなんです。曖昧な日本人に対する自己満足みたいなものを捨て去る必要があるんじゃないか、とずっと考えていたんですね。

僕自身も含めて多くの人が、「日本というのは、こういう国だ」と洗脳されている部分があると思うんです。具体的には、「凄く真面目で、謙虚で、そしてお金について非常に慎み深い人間である」という洗脳です。

よく海外のファンドが日本の企業を買収すると、「ハゲタカだ！」といった批判をする人がいますが、日本人の方が、そうしたファンドよりも、もっと酷いことをしているケースだってあるんです。例えば、日本人の成人一人当たりの年間寄付金額は、アメリカ人の52分の1です。日本は先進国の中で「最も寄付しない国」ですから、非常に”ケチな民族”ということもできるでしょう。また、海外においては投資信託を10年スパンで保有するのが一般的ですが、日本人の平均保有年数は、2.4年です。新興国などに投資してもブームがされば、すぐに資金を引き上げてしまうのであれば、「ハゲタカ」と何ら変わりはありません。まずは、こうした事実を自覚することで、新たな地平が開けるのではないか、と思ったんです。

━「投資家が『お金』よりも大切にしていること」というタイトルからは、具体的な運用に役立つポリシーが書かれた内容を予想していたのですが、どちらかというとキャリアや自己啓発本に近い内容になっていますね。

藤野：それは、私が普段大学で教えていて、若い人達と話す機会が多いということが影響しています。授業の中で、一番ショックだったことは、「投資」「ファイナンス」「ベンチャー」という言葉に対する学生のイメージが非常に悪いことです。商学部の学生にアンケートをとった結果、8割の学生が「投資＝ダーティー」「金儲け＝悪」というイメージを持っている。さらに、「ベンチャー＝ブラック」だとも。これに僕は、衝撃を受けました。「こりゃあダメじゃん」と思いましたよ。

若者の多くが、投資もしないし、ベンチャー企業も興さないような国が今後も成長を続けていくイメージがまったくわきません。「これはホントに危ないところまで来てしまったなぁ」という危機感が、執筆の大きな動機になっていますね。

━本書の中では、日本には「清貧」を重んじる思想があり、豊かなことが汚い、「汚豊（おほう）」のイメージがあると指摘されています。こうした価値観が、日本で醸成されてきた理由については、どのように考えていますか？

藤野：一つは、「清貧が素敵だ」と言い過ぎた部分があると思うんですね。今日本の指導者層になっている60代くらいの人達は安保世代ですから、共産主義思想の影響を受けている部分があると思います。その人達は、「儲けることはよくないことだ」と大学生くらいの時に叩き込まれている。そういう人達が、日本の指導層になっているわけです。

本来の社会の目的は「清く豊かに」だと思うんですよ。「清く豊かに」であるべきなのに、「清く貧しく」という部分が社会の目標化している。あるいは、逆に「貧しくないと綺麗でない」みたいな倒錯現象も起きてしまっているように感じています。

もう一つの原因は、20年間にわたるデフレ経済だと思います。稼げなくなればなるほど、お金そのものを信仰の拠りどころとする考え方の成立が難しくなります。お金そのものが増えないわけですから。そうなれば、お金そのものを嫌う、むしろ距離を置くというような態度をとっていく。こういう行動が表に出てくるのも致し方ない部分があると思います。

おそらく、これらの考え方は相互に強化しあっていった面があるのではないでしょうか。「金を稼ぐことは汚い」という態度だから、より景気が悪くなるし、デフレになってしまう。デフレであるから「金を稼ぐことが汚い」という思考が強化される。こうしたメカニズムが働いたのではないか、と思いますね。

━藤野さんは、投資家という仕事をしている中で、いままでお話いただいたような”悪いイメージ”を持たれているな、と感じたことはありますか？

藤野：そもそも、こういう本自体もメディアから取り上げられにくいんですよ。「いや、投資のことを取り上げると上の人がNOと言うから」「投資はよくないことだから」といって、地上波などでは、なかなか投資の話が出てこないんですよね。

これは、おそらくテレビ局の人や編集者が投資についてのネガティブイメージを持っている、あるいは、それを番組として流すとクレームを出す人がいるといったことが理由だと思います。「お金儲けのことについて語るのはよくない」といったクレームが結構来るわけなんですよね。こうした考えが、自らを貧しくしている部分があると思うのですが、それが社会的に仕組みとして固定化してしまっているなぁと感じています。「投資」に対するイメージが海外とは日常レベルでまったく違いますね。

「投資」は、失敗も含めて社会を支えている

━ 海外では、成功した投資家は、ヒーローでありカッコいいものというイメージなのでしょうか。
藤野：この本にも書きましたが、日本とアメリカでは「ヒーロー像」がまったく違いますよね。アメリカのヒーローは結構民間人が多い。バットマンも、スパイダーマンも、スーパーマンも元々は民間人です。それに対して、日本のヒーローは公務員なんですよね。ウルトラマンの科学特捜隊は、国際科学警察機構の下部組織ですし。つまり、社会的なミッションを果たすのは公務員で、民間の人は社会的ミッションを果たさなくてもいいという意識が根強くある。民間が社会的なミッションを果たすのはおかしいことだ、という考え方すらあるように思います。

━では、藤野さんの考える「投資家」という仕事の面白み、やりがいというのは、どのようなものでしょうか？

藤野：投資というのは、無から有を生み出すことはできませんが、多くの希望と挑戦を実現させる仕事なんです。

例えば、「工場作ります」となれば設備投資の資金が必要です。お金を出す人がいなければ工場はできません。こうした面から見れば、投資の仕事の現場は、感謝で溢れているわけです。「必要な時にお金を出してくれた」「投資で成功して、結果的にリターンが上がって、それで結婚式を挙げることができた」「家を買うことができた」「車を買うことができた」という場面があるわけです。

例えば、つい最近あった話ですが、ウォーターダイレクトという会社が3月15日に上場しました。この会社に一番最初にお金を出したのが、僕が運用していたファンドなんです。そのお金がなかったら、この会社は存在しなかった。今たくさんの人が、ウォーターダイレクトが扱っている富士山からの水を飲んで毎日生活しています。最初にお金を出すことによって会社が作られて、そこで雇用が生まれていく。そして、株式上場することで、さらに世の中に認められて、会社の株式が誰でも買えて、売れるという状況になった。

上場すると、東京証券取引所の鐘を鳴らす儀式があるのですが、そこに僕も参加させてもらいました。非常に嬉しかったですよ。最初に投資したからこそ、こうした状況が生まれたわけです。そういう喜びが日々そういうことはあります。そうした営みを「金儲けだ」「金儲けは汚い」と批判されれば、全部そこで終わってしまいますよね。「所詮、金儲けだろ」って。

━「金儲けを通じて社会を良くしていく」という意味では、すべての仕事がそうですよね。

藤野：そうですね。しかも、投資の世界では、儲けられない可能性もある。失敗もあるんです。成功と失敗どちらにしても、挑戦の機会を提供している、という意味では世の中を良くすることにつながっているんです。

Aという会社に投資して、それが結果的に失敗に終わったとします。じゃあ、そのお金は無駄だったのか。投資家としては無駄だったかもしれませんが、その会社への投資を通じて、従業員たちが何年か生活をし、顧客がいて、仕入先が生まれて…という状況がある。だから、儲かった投資だけが社会を支えてるんじゃないんです。「投資」という行為は、失敗も含めて社会を支えているんですよ。

”くそったれ”の会社って、ちゃんと潰れるんですよ

━藤野さんご自身は、昔からそうした考え方をされていたんですか？

藤野：この仕事を通じて学んだ部分も大きいと思います。学生時代は、東京地検特捜部に行って、悪い起業家を捕まえようと思っていましたから（笑）。検事になって、あくどいことをやって設けている起業家を捕まえてやろう、と思っていました。” 汚豊”精神の塊だったわけです。

でも、新卒で会社に入ってたまたま僕が配属された部署が、中堅、ベンチャー企業に投資をする部署だったんです。そこで毎日のように生臭いおっさんの相手をしていました（笑）。そういう環境であれば当然、懐疑的になりますよね。「お金持ちになった社長なんて悪いヤツに決まってるだろ」みたいな。まぁ、色んな人がいました。「ちょっとこいつ汚いな」という人もいれば「立派だなあ」という人もたくさんいた。

そこで感じたことは「個人の利得を考え続けて成功した人」は、ほとんどいないということです。自分がお金儲けをするためには、誰かに儲けさせなければならない。自分が儲けることだけを考えていては、長続きしないんですよ。個人的に儲けるためには、他の多くの人を幸せにする必要があるんだ、ということに実際の仕事を通じて気付いたんです。

何千人もの社長に会いましたが、中には” くそったれ”もいます。でも、”くそったれ”の会社って、ちゃんと潰れるんですよ。後で見てみると、潰れたり、逮捕されたりしているわけです（笑）。世の中というのは、本当によく見ていると感心しますよ。「この人酷いなぁ」「よくこんな発言するなぁ」「セクハラ野郎だぁ」「金のことしか考えてないな」というような人の会社はすぐ没落するんですよ。もちろん、没落のスピードが速い人もいれば、遅い人もいます。たまたま運よく、くそったれだけど成功したまま死んでいける人もいると思いますが、そうしたケースは少ない。ほとんどの人が変なことをすると、ばれるわけですよ。

特に、今はインターネットの時代ですから、何か頭にきたら、証拠資料とともに当局にバサッと出せる時代になっています。だから、騙し続けるということは、ほとんど不可能ですよね。

僕は普段から「投資」という行為を、”知的でオシャレな社会貢献”だと言っています。もし、今既に投資をしている人で、そう思っていない人がいるとしたら、それは自分のやり方が悪いんだと思いますよ。知的で好奇心に満たされた社会貢献なんです、投資は。そう思えないのであれば、言葉はキツイけれど、やっている人の気持ちが汚いからだと思います。

「そんなの綺麗ごとだ」というのであれば、綺麗ごとで成功している人達がたくさんいるので、その人達に会ってみればいいと思います。少なくとも会う努力をして欲しいですね。確かに、ダーティーな感じがする投資家もたくさんいます。でも、そういう連中は小銭を稼いでるくらいで、儲かってないんですよね。例えば株式投資で、世界で一番お金持ちになった人にウォーレン・バフェットがいますが、彼の話を聞くと非常に質素な生活をしているそうです。決して傲慢じゃないですし、哲学者みたいな人ですよ。

僕達の未来は安倍首相が作っているわけではない

━最近は、アベノミクスの影響で株価も上昇して、景気回復に対する期待感が広がっていますが、それ以前は「失われた10年」、あるいは「失われた20年」といって非常に暗いムードでした。しかし、藤野さんは著書の中で、「大企業の業績が悪かっただけで、日本全体は実はそんなに悪くはなかった」と指摘しています。投資家としての視点から見ても、日本社会全体には希望があるとお考えですか？

藤野：そうですね。僕がこの本で言いたかったのは、「僕らの未来は安倍さんが作っていない」ということなんです。僕らの未来は僕らが作るということが大切で、そこに考えが及ぶかどうかです。

若い人と話すと、どこかに”黒幕”がいて、自分達がそのせいで不幸せになっているという価値観を感じることがあるんです。中央があらゆる事象をコントロールして、庶民のお金をむしり取っているという構図を思い描いている人がいる。でも、投資の仕事をやればやるほど、絶望するぐらい”黒幕”がいないということが分かるんですよ。

船橋洋一さんが書いた「カウントダウン・メルトダウン」という本を読むと、それがよくわかると思います。これは福島第一原発事故の様子を描いた本なのですが、読むと当時「誰もなにも分かってない状況だった」ということが分かって愕然としてしまいます。官邸も情報取れていない。東電も警察も。それぞれの人達がそれぞれの情報は持っているんだけど、全体で何が起きているのか、ということについては誰も把握していなかったという様子が描かれているんです。逆にもっと恐ろしいかもしれないのですが、日本は統治システムはあるけれども、根本的には全体を把握している人はほとんどいない状態なわけです。

でも、そういう状況はチャンスでもある。統一された大きな敵がいるわけでもなくて、結局全ては自分達の行動にかかってくる。だからこそ、チャンスでもあるし、未来は自分達が作るんだ、という観点で一人一人が立ち上がるかどうか、というのは非常に大事なことだと思います。

”投資家的生き方”というのは、自分が主体性を持つことなんです。自分が主体性を持って、未来を自分が決める。何にお金を使い、何に情熱を注ぐのかを選択することが、投資家的生き方なんですよ。そこに、たまにお金の話が出て来るというだけなんです。投資家というのはエネルギーを使って、未来にベットする行為全般を指すわけですから、別にお金が全てじゃないんです。

━ なるほど。例えば藤野さんは大学で学生に授業をしていますが、それも授業を受けている学生の方に自らの時間を”投資”しているわけですね。

藤野：そうですね。先日弊社で開催したセミナーに30歳ぐらいの男性が、「今日は藤野先生にお話したいことがあるんです」といって訪ねてきたんです。何かと思って、話を聞くと彼はボロボロになった、とある経営者の名刺を見せてくれたんですね。

彼は以前、その経営者の話を聞いて非常に感銘を受けて、名刺をずっと財布の中に入れていたそうです。そして、30歳を超えてだんだんと責任ある仕事を任されるようになって、その尊敬する社長の会社と取引する機会が来た。その時に、ボロボロの名刺を見せたところ、その社長も喜んで「10年分の名刺だ！」といってまた新しい名刺をくれたそうです

そういうやり取りがあって、その社長の会社と共同で手掛けた案件も非常にうまくいったから、「この名刺を藤野先生に見せたい！」といって、ピカピカの新しい名刺とボロボロの古い名刺を僕に見せてくれました。そして、「凄く仕事が楽しいし、毎日イキイキ生活できてます。これも藤野先生の授業を聞いたおかげです」と言ってくれた。

ジーンと来ましたよ。僕にとっては、これも投資成果なんですよ。報告に来てくれた彼のストーリーが、僕にとってのリターンなんですよ。それは、お金になってないけれど、お金では買えないですよね。こういう若者の成長とか、新しいチャレンジをしながら、一歩一歩仕事をして、感動して、その感動を伝えていくという行為そのものが、お金でも買えないリターンだと思うんですよね。

だから、この本も僕にとっては世の中に対する投資なんですよ。これを読んで、何かちょっとでも気持ちが変わったり、前向きになれる人が出てくれば凄く嬉しいですね。

―本日はありがとうございました。

プロフィール

1966年、富山県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後。野村投資顧問を経て、2000年にゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント・ジャパン・リミテッドに入社。2003年8月にはレオス・キャピタルワークスを設立し、現在に至る。著書に『5700人の社長と会ったカリスマファンドマネジャーが明かす儲かる会社、つぶれる会社の法則』など。明治大学の非常勤講師なども勤める。
・藤野英人【ふっしー】(@fu4)のブログ-ブログ
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