※この記事は2013年02月23日にBLOGOSで公開されたものです

赤木智弘の眼光紙背：第260回

　大阪府大東市で、小学５年生の少年(11）が、快速電車にはねられて即死した。現場には少年が通う学校の統廃合中止を求める遺書があった。「どうか一つのちいさな命とひきかえに、とうはいごうを中止してください」。

　母親は「息子の思いに気付いてやれなかったのが悔しい。自殺というやり方で世の中が変わると他の子が思わないでほしい」と話したそうだ。(*1)

　後日、両親はマスコミに対して手記を寄せた。そして「子どもたちの納得と理解を得られるかたちで、時間をかけて是非から再検討してほしい」と述べているという。(*2)

　最初にはっきりさせておきたいことは、それが例え自分の命であれど、命を人質に社会に対して要求を行うのであれば、それはテロリズムに他ならないと僕は考えている。

　自らの死の責任を統廃合を決定した人たちに一方的に追わせ、罪から逃れたくば統廃合を廃止しろという。小５であろうと、彼はテロリストと呼ばれるべきである。

　彼はまた、他の子供たちの命をも利用している。もしこの自殺によって彼の望みが叶うならば、いつか別の子供が、自分の望みを叶えるために死の抗議を行うだろう。

　もし本当に私達が子供たちに「自殺というやり方で世の中が変わると思うな」と本気で主張しようと考えるならば、自殺した子供の意向を完全に無視して、今回の統廃合を速やかに進める必要がある。時間をかけて再検討などもってのほかだ。むしろそのような卑怯な手法を行えば、望まぬ結果が帰ってくるのだという現実を、子供たちにメッセージとして伝える必要があるだろう。

　そうしたことまで含めて、我々は決して卑劣なテロリズムに屈してはならないのだ。子供だからといって容赦する必要はない。

　ところで、テロリストの少年は、どうして自殺をすれば統廃合が解消されるなどという幼稚な考えに至ったのか。

　もちろん子供の心理など分かるはずも無いのだが、少なくとも我々、今の日本の構成員に対して、社会がどのようなメッセージを常日頃発しているのかは、僕でも理解することができる。今回の行動に一番近いメッセージを読み解けばいいのだ。

　そしてそのメッセージとは、今の社会が「被害者やその家族の主張によって、いろんなことが大きく動く社会 である」という内容である。

　通り魔殺人事件の被害者や家族が叫べば、道端に大量の監視カメラがセットされるように。酒酔い運転で事故にあった被害者や家族が叫べば、酒酔い運転がどんどん厳罰化されるように。そして殺人被害者の家族が叫べば死刑という代理殺人が当たり前のように実行されるように。私たちの社会は「被害者やその家族の言葉は、法をも超える」というメッセージを常に発し続けている。特に子供が巻き込まれた犯罪において、その言葉はもはや「神の声」であるかのように扱われるのが現状だ。

　そうしたメッセージを受け取り続けた彼は、自らの命を利用して「被害者の親」を生み出し、自らの意志を神の声として、統廃合を推し進める人たちに叩きつけたのではないか。

　被害者の声を聞くなとは言わない。だがもしも、犯罪に対する社会全体からの怨嗟の声に対して「しかし、けれども」と押しとどめる声が社会の側にあって、それが少年に届いていれば。もしかしたら死して言葉を届けようという誘惑に対して、少年が自ら理性を持って歯止めをかけることができたのではないか。そしてそういう声を、僕はもっと大声で発することができたのでは無いかと思う。届かなかったことがとても悔しい。

*1：自殺か:小５駅で飛び込み　学校統廃合中止求めるメモ残す（毎日新聞）http://mainichi.jp/select/news/20130215k0000e040176000c.html
*2：小５自殺で両親手記「学校統廃合、再検討して」（読売新聞）http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130217-OYT1T01125.htm?from=ylist

プロフィール
赤木智弘（あかぎ・ともひろ）
 1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

・@T_akagi - Twitter