※この記事は2013年01月12日にBLOGOSで公開されたものです

　現代ビジネスのサイトに、面白い記事がアップされていた。「女性読者の皆様、怒らずに最後まで読んでみてください」という挑発的な見出しでアップされたこの記事は、50代に差し掛かった真面目な男性が、どうして痴漢行為を行なってしまうのかという事を考察している。(*1)

　要は、真面目な男性が出世して会社の第一線で働けなくなると、自信を失って痴漢行為を行なってしまうということらしい。これで女性読者が納得するとも思えないし、性別関係なしに、男性である私ですら「気持ち悪い」と嫌悪感を抱く記事であった。

　彼らが仕事といっしょに自信を失うのは、結局は仕事という名前の賃労働以外のことを、なにもして来なかったからである。すべてを仕事に依存し、仕事以外に自分の自尊心を保てる場所を確保して来なかったツケである。

　会社には机という居場所があるかもしれない。しかし家庭に居場所はあるか？　地域に居場所はあるか？　仕事以外の趣味はあるか？　仕事関係以外に会って話せる仲間はいるか？

　「自分は一生懸命働いている」と思っている男性は、よく「自分は家族のために、そうした自分の事を犠牲にして仕事に励んでいるのだ」と主張する。しかし、僕が考えるに別に男性はそうしたことを犠牲にして仕事に打ち込んでいたのではない。仕事以外に人間が生きていく上で、本来必要なことを、サボりにサボって仕事に逃げ込んでいたのである。

　本当にそうした事を犠牲にしていて、多くの会社員が「本当は家族といっしょの時間を増やしたいんだ。趣味に費やす時間を確保したいんだ」と考えているならば、ワークシェアリングのような個々の労働時間を減らす方策に人気があってもよさそうだ。しかし全くそんな兆しは見えず、正社員達は、いかに残業を多くこなしているかという自慢ごっこに明け暮れているのが現実だ。

　彼らには仕事以外にやりたいこともないし、やるべきことだという意識もないから、仕事時間は長ければ長いほどいいと考える。そうして仕事以外のことをサボりにサボり続け、結局仕事に全ての自尊心を依存するから、仕事の第一線から引く立場になった途端に、それまで培ってきたすべてを失ったような失意にかられてしまうのである。

　そうして失った男の沽券を、年下の女性という、「一生懸命真面目に働いてきた俺」が屈服させてしかるべき立場の人間に、股間を押し付けることで回復しようとする。

　仕事を独占し、貧しい若者を見下してきた富裕層（サラリーマンは今や立派な富裕層である）としての驕りや、男だから偉いのだと女性を男性の欲望のはけ口程度にしか見ていなかったという、その自分勝手な醜さは、とてもではないが「思秋期」などという恥ずかしいロマンチックワードで隠し通せるものではない。

　それでも、こうして痴漢男性に同情的に読める記事が産まれてしまうのは、それを論じる「立派な先生」がたも、結局は同じような思想の男性だからである。正社員本日モ反省ノ色ナシ。

(*1)調査レポート　女性読者の皆様、怒らずに最後まで読んでみてください　男たちの思秋期「まさかあの人が痴漢」には理由があった（現代ビジネス）http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34399

プロフィール
赤木智弘（あかぎ・ともひろ）
 1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

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