フェムテックのパイオニア「ルナルナ」が20年以上、ユーザーに支持され続ける理由とは
「生理を扱う前例がない」受け入れられなかった誕生当時
ルナルナの前身「ルーナ」は、携帯電話(ガラケー)のウェブサイト内に生理日記録・管理ツールとして誕生。それまでスケジュール帳などで管理していた生理日を簡単に管理でき、生理日予測機能もあるなど、当時としては画期的なサービスでした。それゆえに壁も多かったと、ルナルナ事業部 事業部長の日根麻綾さんは語ります。
「リリース時、ルーナを公式サイトとして承認していただいたのは、1つのキャリアのみでした。『生理を扱うサービスは難しい』『前例がない』などの理由で、他のキャリアにはなかなか承認いただけなかったのを覚えています。ただ、当時は予算が多くなかったこともあり、他のキャリアにルーナを承認してもらえるよう働きかけをする余裕はありませんでした」(日根さん)
流れが変わったのは、2006年。社内で今後の事業展開について改めて考えるために市場調査を実施したところ、女性のヘルスケア領域には市場が大きく成長する可能性があるとわかったのがきっかけでした。そこで、ルーナの本格的な事業展開がスタート。他のキャリアにも公式サイトとして承認してもらえるよう働きかけ、2007年には3キャリアそろって公式サイトとしてサービスを提供することが可能となりました。
3キャリアの公式サイトに承認された直後は、広告の費用対効果も不明で、プロモーション予算も多くなかったそうですが、公式サイトのメニューリストに掲載されるだけで会員数が伸びていったことから手ごたえを感じ、プロモーションの投資も増やしていったといいます。
「2007年後半からmixiのバナー広告を皮切りに、リスティング広告やアフィリエイト広告などインタラクティブ広告を一通り出稿しました。本格的な事業展開を決めたといえども、当時の広告宣伝費予算は四半期で100万円に届かないくらい。小さく実験的に広告運用を始めて採算が取れると確信したらすぐに予算増加というように、スピーディーに運用することを意識しました」(日根さん)
加えて、注目したのがテレビCMでした。スマホが普及していなかった当時は、CMといえばテレビが中心で、認知度向上に大きな効果を期待できたからです。
「2008年後半から、地方局でテレビCMを流しました。全国局は、やはり生理に関するサービスということで、最初は審査が通りませんでしたね。地方局で実績を作りながら交渉を重ね、2009年に全国局での出稿を実現しました」(日根さん)
日根麻綾さん(提供:エムティーアイ)
変化に振り回されるよりも、変化の先頭に立つ
2010年頃から次第にスマホが普及し始めると、ガラケーからの急速な変化への対応が難しく、ルナルナも一旦、足踏みをしてしまいます。
当時はキャリア自体がスマホの出現という急速な変化に追いついていない状況で、決済手段をはじめとした基盤が整備されていませんでした。そのため、離れていくユーザーも続出。スマホに引き継ぎたくても仕組みがない、もどかしさがあったといいます。
「当社はルナルナだけでなく、さまざまなキャリアの公式コンテンツを提供していたこともあり、変化に振り回されるよりも、変化の先頭に立とうと考え、決済手段を作ったり、データを引き継いだりできるよう、キャリアと一緒に基盤を構築していきました。その結果、ルナルナも2011年秋からスマホ月額会員サイトの開設に至り、データをガラケーから引き継ぎできるようになりました」(日根さん)
さらに、スマホの普及に従って、ビジネスモデルの見直しも行いました。
「それまでは、国内の同じようなサービスを展開している事業者を競合としていましたが、スマホが広く普及してからは、世界中の企業に加えて、アプリ開発をしている個人にまで競合の対象が広がります。月額課金制のビジネスをこのまま続けるだけでは変化に飲み込まれていくおそれがあり、今あるものを自分たちで壊していかなければと考えました」(日根さん)
そこで誕生したのが、無料アプリ「ルナルナLite」です。2011年にiOS版、2012年にAndroid版をリリースしました。それまでサービスを利用するには料金を支払う必要がありましたが、ルナルナLiteは完全無料で利用可能です。完全無料で提供する中で、有料のサイトの告知・誘導をしました。その後2016年にアプリリニューアルを行い(アプリ名も「ルナルナ」に改定)、そこからは課金をすれば追加機能がつかえる形にしたのです。具体的には、生理日や排卵日予測など基本的な機能は無料で、セルフチェックによるカラダ診断や監修医師による質問への回答といったサービスは、有料コースに登録することで利用できるようにしました。
「無料で利用できるようにしたのは、ユーザー数を増やすことを重視する戦略をとったからです。その頃から広告掲載料を企業から頂けるようになったのですが、やはりユーザー数の多さは広告出稿に大きな影響を与えます。また、ユーザー数が増えるほどデータや知見が蓄積されます。近年、さまざまな企業がフェムテック関連のサービスを提供していますが、この領域で当社ほど長年にわたる豊富なデータと実績を持つ企業はあまり存在しないと思います」(日根さん)
結果として、2022年2月には1800万ダウンロードを突破。体調管理を目的とすることもあり、約80%のユーザーが週1度はアクセスするなど、高いアクティブ率を維持するサイトになっています。
ルナルナの歩み(提供:エムティーアイ)
困難には、信頼と実績の積み重ねで対応
フェムテックのリーディングサービスとして確固たる地位を築いたルナルナが、近年注力しているのが、ローカルとのつながりです。2017年に新機能としてリリースした「ルナルナ メディコ」では、ルナルナに記録した生理日や基礎体温、低用量ピル(OC/LEP)の服薬状況などのデータを連携先の婦人科の医師や薬局・施術所のスタッフらに見せることができます。
「婦人科の受診時には、生理日や基礎体温をよく聞かれますが、正確に覚えていなかったり、メモを無くしてしまったりする女性もいます。そんなとき、ルナルナのデータをそのまま先生に見せられるので便利です」(日根さん)
ルナルナ メディコイメージ(提供:エムティーアイ)
医療機関との連携に動き始めた頃は、スムーズにいかないことも多かったといいます。“アプリ事業者”と一括りにされ、好意的に見てもらえないことも少なくありませんでした。
「受け入れられない状況を打破するべく、少しずつでも信頼と実績を重ねていこうと決めました。これまで蓄積してきたデータを活用し、アカデミアとの共同研究を実施したり、学会での発表や自治体との連携協定を結んだりするなどさまざまな活動を行うことで、私たちの活動や思いを知っていただけるようになってきました」(日根さん)
一つひとつ実績と信頼を得ることを重ね続けた結果、ルナルナ メディコを使える累計契約施設は、2021年に1000軒以上を突破。また、東京大学を始めとした数多くの研究機関がルナルナとの共同研究に参加しています。
ルナルナには年代別の悩みの内訳、悩み別に必要とされるサポートの種類など、女性の健康に関するデータが蓄積されています。今後は、医療機関だけでなく、女性向けのサービスを展開している企業などと協力することで、これまでにない仕組みやサービスを作っていこうと考えているとのことです。
ルナルナTOPページ(提供:エムティーアイ)
顧客理解への徹底した取り組みがサービスを磨き上げる
ルナルナが20年以上にわたって多くのユーザーに支持されてきた理由には、顧客理解への徹底した取り組みがあるそうです。例えば、ターゲット層へのヒアリングと組織体制の工夫が挙げられます。
「ターゲット層へのヒアリングでは、『どのようなライフスタイルを送っているのか』『日常生活で何に困っているのか』など、あえてサービスに直結しない内容の質問をします。自身の健康やライフスタイルに対してどんな向き合い方をし、何を重要視しているのかという軸でターゲットセグメントを見極めていき、ルナルナアプリでの体調管理というアクションがマッチする女性のペルソナ像を明確にします。その上で最適なUIやコンテンツ、カスタマージャーニーを考え、サービスのUX設計に活用しています」(日根さん)
そして、顧客を思う姿勢は、組織体制にも表れています。BtoCサービスを多く手掛ける同社のユーザーファーストというポリシーのもと発足した組織が、定期的に顧客としてサービスを徹底的に利用し、厳しい目でチェック。問題点や改善点を事業部に伝える前に経営会議で報告します。
「忖度なく報告されるので、緊張感がありますが、顧客理解を深める上で大切なことだと認識しています。サービスを運営する事業部としては、予算やスケジュールを考慮するあまり、どうしても目の前の収益に直結することを優先してしまいがちです。だからこそ顧客目線に立ち、強い権限を持って問題点を指摘してくれる組織があることで、顧客理解への姿勢を忘れずにいられます」(日根さん)
ルナルナは今後、どのようなサービスを目指しているのでしょうか。
「社会で活躍する女性が増えている今、女性の健康課題は個人の問題にとどまらず、社会としてますます重要度を増しています。これらの健康課題の中には婦人科医療の力で改善・緩和できることも多くあると考えています。そのため、多くの女性がもっと気軽に医療の力を借りて自分らしく生きられるような仕組みを作っていきたいです。現在は、体調が悪くなったり、健康診断で再検査通知が来たりしたときくらいしか婦人科に行かない人も多いと思いますが、健康な日常生活と医療は密接に関係しているものです。ルナルナは日常生活と医療をもっとナチュラルにつなぐ動線のようなサービスを提供していきたいと考えています」(日根さん)
記事執筆者
和泉ゆかり
IT企業にてWebマーケティング・人事業務に従事した後、独立。現在はビジネスパーソン向けの媒体で、ライティング・編集を手がける。得意領域は、テクノロジーや広告、働き方など。
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