アップルオンラインイベントの告知。メディアに送られた招待状には「最高峰を解禁」(Peek Performance)というメッセージが添えられていた(アップル公式サイトより)

アップルはアメリカ太平洋標準時3月8日午前10時に「Peek Performance.」(最高峰を解禁。)と題したオンラインイベントの招待状をメディアに配布した。2022年はサマータイムが3月13日からで、切り替え前のため、日本時間では3月9日午前3時と、普段より1時間遅い開催となる。イベント配信は誰でも視聴でき、イベントページも公開されている。

アップルのイベントは例年、春(世界開発者会議)、夏(WWDC)、9月、10月に開催されてきた。新型コロナウイルスの影響で、カリフォルニア州クパティーノにある本社「Apple Park」に世界中のメディアを集めることができなくなったため、2020年から事前収録で作り込まれた映像を配信するオンラインでの開催となり、これが定着している。

イベント以外にも、ウェブサイトとプレスリリースで製品を発表するパターンもあり、こちらは4月や7月、11月といったタイミングで用意されることが多い。新製品発表のタイミングは、11月下旬から始まる欧米の年末商戦(ホリデーシーズン)や、6〜8月いっぱいまでの新学期シーズン(バック・トゥ・スクール)に製品を用意することを意識している。

今回は特に新学期シーズンに向けた製品の刷新が重要となることから、今回のイベントはMacとiPad、そして廉価版iPhoneにフォーカスされると予測できる。

過去最高の1年を経て注目される初手

アップルは2021年の決算を通して、過去最高の売上高を達成し、iPhone/Mac/iPad/ウェアラブル・ホーム・アクセサリー/サービスの全部門で2桁成長を維持する力強い成長を見せた。特に5Gに対応したiPhoneによって、スマートフォンの売り上げが回復したことが大きい。

iPhone購入者が必ず利用するApp Storeやスマホ決済のApple Pay、音楽や映像などのサブスクリプションが含まれるサービス部門の成長が20%の水準で維持される。さらにiPhoneと組み合わせて利用する、Apple WatchやAirPodsといったウェアラブルデバイスも急伸し、いまやMacやiPadといった主要製品部門を上回る売上規模となった。

また自社設計で省電力・高性能を両立させたApple Siliconを搭載するMacもヒットし、既存のコンピューター市場でも存在感を見せている。そんな最高の2021年を経て2022年の初手となるのが、今回のイベントとなる。

特にテコ入れが必要なのはiPadだ。2022年第1四半期決算(2021年10〜12月)において、iPadは唯一、前年同期比で-13.6%となった。半導体不足の影響で製品の供給が思うように進まなかった原因もあるが、それ以上に根本的な問題は、Macとのカニバリゼーション(自社内競合)が挙げられる。

Macは後述のApple Silicon搭載でバッテリー持続時間が飛躍的に伸びたことからモバイル性能が高まり、そもそものコンピューターとしての自由度がより際立つ結果となった。一方スマートフォンであるiPhoneは大画面化と人々のスマホが前提となる生活の定着によって、映像視聴や一部のクリエイティブな作業も、iPhoneでこなすようになってきた。

このようにMacとiPhoneはそれぞれの製品の競争力向上を通じて、バッテリー持続時間が短いという問題の克服、画面サイズが小さいという欠点の消失が起きた。結果としてiPadは、人々の生活の中で優位性を発揮する場面を失っているのだ。

今回の発表がそうした根本原因の解決に結びつくとは考えにくいが、iPadがそうした課題を抱えている点は共有したい。

ロゴは「スピード」を思わせるが…

今回の招待状は、カラフルなネオン調のグラフィックにアレンジされたアップルロゴが配置されている。スピードやワープを思わせる点は、イベントタイトルである「Peek Performance.」と合致するが、示唆するものはそれだけではなさそうだ。

毎回ロゴのアレンジはあとから答え合わせをすると、発表される製品のイメージやカラーに沿ったものとなっている。今回用いられている色は、ブルー、パープル、ピンク、レッド、オレンジ、イエロー。このカラーリングは、これまでのiPhoneシリーズのカラーリングや2021年に登場したM1搭載の24インチiMacを想起させるが、完全に一致しているわけではない。
例えばiPhone 13やiPhone 13 Proにはパープルの設定がないが、発売されてから半年がたつタイミングでiPhoneの新色とiOSの大型のアップデートを発表しており、新たな色が追加されるシナリオは十分にあり得る。

色が一致しているのがiMacで、こちらは2021年に小型モデルが登場しているため、大型モデル、すなわち27インチモデルのリプレイスが登場し、同様にカラフルなカラー展開になる可能性を示唆する。

招待状に書かれている「パフォーマンス」というキーワードにも注目だ。ここで真っ先に思いつくのが、Apple Siliconである。

アップルは2020年6月に、主力コンピューターのMacで採用してきたインテルチップを自社設計のApple Siliconに2カ年で置き換える計画を、世界開発者会議(WWDC20)で発表した。2022年はちょうど2年という計画の年限に相当し、すべての製品がApple Siliconでリリースされることが重要となる。

現在Apple Siliconに置き換わっていないのは、
・ Mac miniの上位モデル
・ 27インチiMac
・ iMac Pro
・ Mac Pro

の4モデルとなっており、いずれもより高い性能が求められるハイエンドモデルばかりだ。

アップルは2021年10月に、MacBook Proの上位モデルを刷新し、これにはM1 Pro、M1 Maxという高速化されたApple Siliconが採用された。特にMac miniと27インチiMacについては、これらの上位チップを搭載した新モデルが登場することが予想される。

一方iMac Pro、Mac Proの2つのモデルについては、過去の性能と照らし合わせても、性能が高いM1 Maxのさらに上を行くチップを搭載するか、これを複数搭載してより高い性能を目指す、といったシナリオが必要となる。

招待状に書かれていた「最高峰を解禁。」というキーワードからすると、すぐに製品は出ないとしても、どのようにして最高の性能を実現するのか?という道筋を示すことになるだろう。

もう1つのパフォーマンス

もう1つ、今回のイベントで取り沙汰されているのが、廉価版のiPhone SEの刷新だ。

iPhone SEは日本市場で4万9800円(アップルウェブサイトでの税込み価格)、アメリカ市場で399ドルからという価格設定で、ホームボタンとTouch ID(指紋認証)を備えるiPhone 8と同じデザインのスマートフォンだ。
地味な存在に見えるが、日本で最も販売されているスマートフォンであり、アップルにとっても開発費を回収し終えていることを考えると、最も利益率の高いiPhoneと言える。

このiPhone SEを5Gに対応させ、最新のiPhone 13と同じA15 Bionicチップに載せ替えるアップデートを行うことが期待される。同様のチップの載せ替えはiPhone 11でも起きるかもしれない。


2020年に発売されたiPhone SE(第2世代)。iPhone 8の製品デザインとiPhone 11と同じA13 Bionicチップを搭載しており、日本で最も売れたスマートフォンとなっている(筆者撮影)

いずれのモデルにしても、デザインやカメラなどの基本的な性能に変化はないと考えられるが、チップが最新のものに置き換えられることで、プロセッサーの性能で1.5倍、グラフィックスは2倍の性能向上が期待できる。またバッテリー持続時間の向上や、画像処理と機械学習処理によって、写真や動画の画質の向上も見込むことができる。

iPhone SEは価格帯として、ミドルレンジのスマートフォンに位置するため、Androidスマートフォンならもっと安い価格の製品を選ぶことができる。しかし同価格帯のスマートフォンとしては、驚異的な性能を実現することになるだろう。

成長戦略と製品供給対策に注目

前述の通り、スマートフォン市場は5Gへの移行という大きなチャンスで盛り上がりを見せている。2020年に2億1200万契約だった5Gは、2024年までに10倍を上回り、2026年には33億5200万件に達すると予測されている(Statista調べ)。

そうした移行の中で、15%というiPhoneのマーケットシェアを維持していくことは、iPhoneの継続的な成長の大きな根拠となり得る。そうした成長予測への実感を持ってもらうためには、iPhoneラインナップ全体の5G化を早期に実現する必要があるのだ。

加えて、アップルは5Gへの対応のために、訴訟していたクアルコムと和解した。その和解前の製品ラインナップには、インテルのモデムが用いられており、現在販売中のiPhone SE(第2世代)やiPhone 11も含まれている。

インテルはすでにスマートフォンモデム部門を閉鎖し、アップルが部門ごと買収している。ただしアップルがスマートフォン向けモデムを自社設計しているわけではないため、サプライヤーの整理を急ぐ必要がある。

同じような理由で、現在販売中のiPhoneで用いられているチップのバリエーションを減らすことも必要となる。iPhone SEとiPhone 11にはA13 Bionic、iPhone 12にはA14 Bionic、iPhone 13にはA15 Bionicと、iPhone向けだけでも3種類のチップが用いられている。

今回iPhone SEやiPhone 11を5G対応のクアルコムモデムに変え、A15 Bionicへとアップデートし、さらに廉価版の10.2インチiPadをA14 Bionicに変更することで、主要製品をすべて5nmプロセスのチップに置き換えることが可能になる。

アップルは自社設計のチップを台湾のTSMCに委託して製造しており、7nmプロセスのチップを廃止していくことで、新しいチップの供給力を強化することもできる。

3月9日のイベントに登場する新製品については、追ってお届けしたい。

(松村 太郎 : ジャーナリスト)