男性も「HPVワクチン」を接種すべき3つの理由

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女性の子宮頸がんの予防で知られている「HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン」。実は、女性だけでなく男性も打つことで、様々な病気から身を守ることができるという事実をご存知でしょうか。また、海外に目を向けると、男性の公費助成をする国は年々増えてきています。今回は、男性がHPVワクチンを打つ重要性について、産婦人科医の稲葉先生に解説していただきました。

監修医師:
稲葉 可奈子(予防医療普及協会)

医師・医学博士・日本産科婦人科学会専門医。予防医療普及協会 顧問。2008年京都大学医学部卒業、京都大学医学部附属病院での初期研修ののち、産婦人科へ進路を決め、東京大学医学部附属病院、三井記念病院を経て、東京大学大学院にて医学博士号を取得。現在、関東中央病院産婦人科に勤務。

編集部

HPVは女性の子宮頸がんの原因であることが知られていますよね。男性には関係ないのでしょうか?

稲葉先生

実は、男性にも関係があります。HPVは「中咽頭がん」や「肛門がん」、「陰茎がん」など、男性がかかる病気の原因でもあります。また、HPVは主に性交渉によって感染するので、「尖圭コンジローマ」という性感染症も、男女問わずかかり得る病気です。つまり、HPVは、けっして女性だけに関係するウイルスではないのです。

編集部

ということは、男性でもHPVワクチンが打てるのですか?

稲葉先生

はい。男性もHPVワクチンを接種することができます。ワクチン接種で男性自身の病気の予防となるだけでなく、男性も女性も接種して感染予防に努めることで、集団全体でのHPV感染率が下がっていきます。集団免疫の獲得につながるというわけです。

編集部

海外では、男性の接種は一般的なのでしょうか?

稲葉先生

100以上の国や地域で、男性にもHPVワクチンの適応があります。オーストラリアやアメリカ、イギリスなど約40カ国では、男性のHPVワクチン接種にも公費助成をしており、男性への公費助成をする国は年々増えてきています。また、オーストラリアでは88%、アメリカでは64%の男性が、HPVワクチンを接種しています。

編集部

ワクチン接種に年齢制限はありますか? また、何歳までに打っておくと効果的なのですか?

稲葉先生

男性も9歳以上で接種可能となっています。女性と同様、はじめての性交渉よりも前に接種するのが最も有効です。また、ウイルスに対する防御反応である「免疫応答」の観点からも若いうちの接種が有効なので、女性と同様に男性も16歳までの接種が望ましいでしょう。

編集部

男性はHPVワクチンを定期接種で(無料で)打つことができるのですか?

稲葉先生

日本では現在、4価HPVワクチンだけが男性にも適応があります(2021年11月時点)が、男性は定期予防接種の対象ではありません。そのため、年齢にかかわらず自費での接種となります。

編集部

今後、男性のワクチン接種が広まることで、どのような影響がありますか?

稲葉先生

男性がHPVワクチンを打つメリットは、大きく分けて3つあります。まず1つは、男性もかかる肛門がんや中咽頭がんなどの病気を予防することができます。日本では、肛門がんの約8~9割、中咽頭がんの約半分はHPVの感染が原因と言われています。また、4価と9価のHPVワクチンは、尖圭コンジローマを予防することもできます。2つ目は、将来の大切なパートナーを守ることができます。男性自身がHPVの感染予防をすることで、将来のパートナーにHPVを感染させるリスクを軽減できるのです。3つ目は、男女ともに接種することで、社会全体でのHPV感染率を下げることになる集団免疫の効果が期待できます。

編集部

最後に、読者へメッセージをお願いします。

稲葉先生

男性自身を病気から守るためにも、将来の大切なパートナーを守るためにも、HPVワクチンを男性が接種することには意義があります。ただ、現状の日本では、男性の接種は自費となり、約5~10万円の費用がかかってしまいます。誰もが予防できる病気を事前に対策できるように、男性も公費助成の対象となり、無料でHPVワクチンを接種できる社会の実現を期待しています。

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