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パーソナルモビリティによるラストワンマイル移動ビジネスを展開するWHILL株式会社は、2021年8月18日、メディア向けSDGsオンラインセミナーを開催した。テーマは国内外の「SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)」の潮流と、その「目標11:住み続けられるまちづくりを」におけるモビリティ。

SDGsは2015年9月の国連サミットで採択された開発目標で、17の世界的目標、169の達成基準、232の指標からなり、国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で持続可能な開発のために達成する国際的な開発目標・指針とされている。前述のまちづくりのほか、「貧困をなくそう」「すべての人に健康と福祉を」「質の高い教育をみんなに」「産業と技術革新の基盤をつくろう」「パートナーシップで目標を達成しよう」などからなり、SDGsは、企業の利益を社会に還元するCSR(企業の社会的責任)から利益を生む具体的なビジネスとなりつつある。

ロボット業界ではWHILL社のほか、自動運転・配送ロボットのZMPや、研究用ロボットなどを展開するヴイストン、ロボットコンテストの支援等を行なっている一般社団法人次世代ロボットエンジニア支援機構などがSDGsに取り組んでいることをアピールしている。

また講談社のコミュニケーションロボット「ATOM」は2020年11月に宮城県石巻市の「SDGs広報大使」になっている。
■ 動画:



●加速しつつあるSDGsのビジネス



WHILL株式会社 広報の新免那月氏は、WHILLの事業とSDGsの「目標11 住み続けられるまちづくりを」について紹介した。WHILLは販売とレンタルで電動車椅子型の近距離移動用パーソナルモビリティを提供している。これらの「すべての人の移動を楽しくスマートにする」ための取り組みはSDGsのモットー「誰一人として取り残さない」にも合致していると新免氏は語った。



WHILL社のミッション

そしてWHILLによる4つの取り組みを紹介した。まず、空港・病院における「WHILL自動運転システム」は、羽田空港で実用化され、慶應義塾大学病院ほかで実証実験が進められている。目的地までは人を自動で運び、到着後はモビリティが自動でステーションに帰る。



空港・病院における「WHILL自動運転システム」

2つ目は2021年6月からの全国カーディーラーとの取り組みで、免許を返納したあとのモビリティとしてWHILLを提案している。



カーディーラーとの連携による返納後のモビリティとしての提案

3つ目は官民連携でのパーソナルモビリティ普及促進活動。国土交通省による電動車椅子活用実験やMaaS実験等に参加して高齢者の外出率向上につとめている。



官民連携の普及促進

4つ目は自治体でのシェアリングサービスだ。SDGs未来都市でもある横浜市や、藤沢市では、WHILLを地域在住の高齢者に対して新たな移動手段として提案している。



自治体での「WHILL」のシェアリングサービス

背景には高齢者率増加がある。65歳以上の高齢者は約 3,600万人。その3人に1人、およそ 1,000万人が歩きづらさを感じている。またコロナ禍では外出できないことから、認知症や歩行困難、フレイル(虚弱)の発症が懸念されている。こうした背景から、「高齢化社会において生活の質を維持・担保することが重要となってくるなか、住みやすい、住み続けられるまちづくりが急務だ」と新免氏は語った。

そして企業がまちづくりに取り組む意義として「これまでのように国、自治体、デベロッパーなど限られた人たちによる開発では持続可能な開発や成長においては限界がくる。当事者が限られていると『自分ごと』としては捉えられない。それを様々な企業が事業活動として参入することでよりスピーディに効果を発揮できる」と語った。

そして、WHILLでは、今回ふたつのメッセージを伝えたいと述べた。1つ目はWHILLでのミッション達成への取り組みが結果的にSDGs実現に貢献できるということ。もう1つはWHILL単体だけではなく、プレイヤーとの協業で波及力を大きくしていきたいということ。一社単体の力ではできないことも他のスペシャリスト企業や自治体と力を合わせることで相乗効果を生み、より広範に、より多くの人にベネフィットをもたらしていきたいと語った。

●より多様化する時代におけるセーフティネットとしての「街」

■ 動画:



このあと、パネルディスカッションが行われた。1つ目のテーマは「ポストコロナ」「人生100年時代」高齢者の生活はどう変わるか。CSR/SDGsコンサルタントの笹谷氏は「ヘルスはもちろんだが、ウェルビーイング、よりしっかり生きること、それがポストコロナで求められている内容だ」と述べた。SDGsの根には「人」があるという。SDGsでは身体的社会的ウェルビーイングを実現することが目標とされている。

新型コロナによってヒトモノカネの流れが止まった。国境が分断され、自省的な時間が多く得られた。その結果、多くの人が残すべきものとそうではないものについて思いを巡らせたと指摘。そして「今後の社会においてはモビリティは極めて重要な要素。技術力を問われている」と述べ、技術革新力とものづくり力で、使い勝手のいいモビリティを開発することが重要だと述べた。

また、「経済もついて回らないといいものにはならない。ビジネス化してスキームを作ることが重要」と述べて、WHILLのモビリティがレンタルそのほかの手段を提供しており、ユーザが選びやすい構造になっていることを評価。「良いものが続いていくためには経済性も重要。環境社会経済の統合性も重要。包摂性と統合性、ウェルビーイングが極めて重要な視点。高齢者は知識経験が豊富。求めるものも複雑化している。それに焦点をあてていくことも重要だ」と語った。

新免氏は「高齢者の生活は人生100年時代でライフスタイルの変化に合わせてリカレント教育やセカンドキャリアなど変わっていく。そのなかで歩きづらさを抱える人は増えていく。ラストワンマイルのギャップを埋めて行くニーズが今後いっそう高まっていく」と移動手段の重要性を強調した。

電通の林氏は「人生100年時代では医療が進歩していくので、身体的障害を負っても健康に生きていく人が増えていくことで、歩けないけど幸せで元気で暮しているといった多様性がさらに拡大していく時代になる」と語り、ハードルになるような多様性も広がっていくと述べた。また、それまでの人生のなかでいろんな知識や技術を獲得している人も増えているので、プラスも増えていくとみているという。

そして「超高齢化社会に対してもポジティブな視点をもっと持つべきではないか」と述べ、「様々なプラスの個性」を持っている人がどう交わっていく社会を考えるか」が需要と語った。

2つ目のテーマは見せかけのSDGsである「SDGsウォッシュ」について。こちらについては笹谷氏は「常にSDGsメガネで物事を見て、SDGs頭で考え、SDGsアクションというサイクルにしていくことが重要。そうすれば自ずとSDGsウォッシュとは言われない」と述べた。

また、新型コロナ禍について「どの街に住んでいるかがこんなに重要な時代はなかったかもしれない」と語り、まちづくりの重要性について触れた。電通の林氏は「地べたには多様な人や環境要素が自然に含まれている。地面の上にあるものをどう活かしていくかが重要。これまでのセーフティネットは学校や企業、選択的コミュニティだったが、街というプラットフォームにセーフティネットを戻して行くことが超高齢社会では重要」と指摘した。WHILLのようなロボット技術を使ったパーソナルモビリティは、そのための1つのソリューションとなる。

(森山 和道)