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専用パーツで、フィットが変わる

text:Shigeo Kawashima(川島茂夫)

フィットは初代からファミリーカーの汎用性を備えたスモール2BOXとして開発され、現行モデルにも継承されている。さらに現行モデルでは、家族・友人が和気藹々と過ごすための移動空間の魅力も加えているのが特徴だ。

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一方、モデューロXは、ホンダの純正アクセサリーメーカーのホンダアクセスがカスタマイズしたコンプリートカー。現在は惜しくも受注が終了したS660の他に、フリード、ステップワゴンをラインナップしている。


ホンダ・フィットe:HEVモデューロX(プラチナホワイト・パール&ブラック)    前田恵介

内外装のカスタマイズも見所の1つだが、こだわりの空力チューンやサスセッティングが大きなセールスポイントだ。

この2つが融合したのが、フィットe:HEVモデューロXである。

走行性能に係わるカスタマイズは前述したとおりで、空力チューンを施したフロントバンパーなどやダンパー、軽量ホイールなど、いずれもモデューロX専用開発である。

パワートレイン関連は、標準系のe:HEV車と共通。

おさらいがてらe:HEVを解説するなら、エンジンを発電機として用い、電動モーターで駆動するシリーズ式ハイブリッドをベースに高速巡航専用にエンジンの直接駆動機構を備え、同機構作動時のみパラレル式として稼働するのが特徴。

優れた実用型パワートレインだが、モデューロXとの相性が気になる部分である。

どんな感じ? ノーマル車と比較

試乗の時系列とは逆になるが、スポーツ走行での実力が試される群馬CSC(サイクルスポーツセンター)での印象から。

群馬CSCのロードコースはクルマにはタフなコース。道幅は2車線弱、ほとんどのコーナーはブラインドで、舗装は継ぎ接ぎでうねりも多く、路側に苔の生えたコーナーもある。


ホンダ・フィットe:HEVモデューロX(プラチナホワイト・パール&ブラック)    前田恵介

山中の閑道という体だ。制限速度は「良識」だが、低速コーナーも多いため、ちょっとした読み違いで限界域に突入してしまう。

そこで示されたモデューロXのハンドリングは好印象。というか、極めて頼もしく、群馬CSCのような厳しい状況での扱いやすさ・安心感の高さが真骨頂といえる。

第1の要点は、挙動収束のよさ。

比較用に用意されたノーマル車(リュクス:同サイズタイヤ装着)は挙動がオーバーシュート気味。過剰な挙動/揺れ返しを抑えるために、頻繁にステアやペダル操作を補正あるいは修正する。街乗りにも穏やかな乗り心地との按配を取ったサスチューニングにしては優れた操安性だが、操作の忙しさ・心理的な圧迫感が厳しく、無理を強いた感も強い。

ところが、同じ状況でモデューロXは過剰な挙動が抑えられ、揺れ返しがほとんどなく、滑らかに挙動が収束する。うねりなどの路面状況のハンドリング特性に対する影響も、非常に少ない。

フィットを超えるのは、フィット

横Gを受けた状況での制動も安定。減速でコーナリングラインを絞り込むのも容易である。

ノーマル車での苦労は一体何だったのか、と思わせるほどに修正操作頻度が激減。ハイアベ走行における肉体的精神的なストレスの少なさに感心させられる。


ホンダ・フィットe:HEVモデューロXの前席内装(インテリアカラー:ブラック)    前田恵介

となれば「モア・パワー」となるのが、スポーツ走行好きの悪い癖。

モデューロXは、操安性が完全に動力性能を上回っている。ファントゥドライブはともかく、走行性能面の安全性という視点でも、モデューロXはフィットの最上位と考えていい。

一般道・高速道路では?

当たり前の話だが、高速道路ツーリングには群馬CSCのような緊迫した状況はなし。

だが、モデューロXは追い込まれた状況でないと実力を示せないタイプではない。むしろレジャードライブのような一般的な使い方でも長所を実感できるのが、1つのセールスポイントでもある。

下面も含めた車体全周の空気の流れを制御し、空力により接地バランスや挙動安定の向上を図っているのがモデューロX車のエアロチューンの特徴。しかも、高速域限定ではなく、60km/hも出ていれば効果を発揮する実践設計。

このエアロチューンが、意外と中立付近の据わりや微舵応答性の向上にも役立っている。

普通に走って違う ADASにも差

比較すれば、ノーマル車の中立付近は保舵感や反応に曖昧さがある。ただし、適度な緩みがないと中立の保持が神経質になるので、ノーマル車がダメというわけではない。

モデューロXは中立付近の微舵応答がいいにも係わらず、直進の保持が神経質ではない。


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微妙な保舵感の変化で無意識に中立を保持できる。物理的な直進性も良好である。

この感覚は、一般走行でのコーナリング時でも同様だ。何となく操っているような運転でも狙ったラインに乗っていく。

付け加えるなら、LKA(レーンキーピングアシスト)との相性もいい。

走行ライン維持の自動修正操舵補助の介入の操舵量が少なく短時間。ノーマル車も優秀だが、それでも修正遅れ・修正量が大きく感じられ、制御精度が違うのでは、と思える程だった。

コンプリートカーは「買い」か?

フィットe:HEVモデューロXのベースとなったリュクスとの価格差は、約44万円高である。

ホームをベースに内装のグレードアップなどを施した特別仕様の価格は、ホームの約15万円高。


フード先端の形状変更。ホイールの“しなり”の制御。リフトバランスを高めるスポイラー。Fバンパーの空力デバイスたち。日常の速度域でも体感できる「実効空力」が生み出す、四輪の均等荷重。それにダンパーチューンと専用ホイールを組み合わせたのがモデューロのレシピなのだ。    前田恵介

装備設定も異なるのだが、内装分を同じように計算すればモデューロXのエアロ、ホイールとサス(ダンパー)で約30万円の見当である。

この専用ホイールは注目の逸品で、ベース車対比で1本当たり約2.9kgも軽量。しかも、弾性を利用して路面からの衝撃を吸収する独自リム設計を採用。

ノーマル車に比べて、段差乗り越えなどで車軸周りの揺動感が減少していることを開発陣に尋ねたところ、この専用ホイールの効果だろうとの回答。

一般的なスモール2BOXの価格差で44万円は大金だが、コンプリートカーとしてはかなり安い値付けであり、カスタマイズというよりもライン装着OPに近い。さすがメーカー直系のコンプリートカーである。

しかも、単に雰囲気・嗜好を変えるのではなく、走行性能面での安心感、ストレス軽減、走りの質感の向上など、一般ユーザーの実利も高い。

コアなマニアを相手にするにはちょっと地味すぎる感もあるのだが、だからこそ生活の場にも馴染みやすい。しかも、ロングドライブや山岳路走行で運転しやすく、ハイアベ走行も無難にこなす懐深さ。

ファントゥドライブを求めて選ぶのもいいが、フィットの適応用途となるタウン&ツーリングの「ツーリング」に重きを置く実用派にも勧めたい1車である。

フィットe:HEVモデューロX スペック

価格:286万6600円
全長:4000mm
全幅:1695mm
全高:1540mm
最高速度:-
0-100km/h加速:-
燃費(WLTC):-
CO2排出量:-
車両重量:1190kg
ドライブトレイン:直列4気筒1496cc+モーター
使用燃料:ガソリン
最高出力(エンジン):98ps/5600-6400rpm
最大トルク(エンジン):13.0kg-m/4500-5000rpm
最高出力(モーター):109ps/3500-8000rpm
最大トルク(モーター):25.8kg-m/0-3000rpm
ギアボックス:電気式無段変速
乗車定員:5名


ホンダ・フィットe:HEVモデューロXの前席内装(インテリアカラー:ブラック)    前田恵介