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「とんかつ」が誕生したのは、1890年代。フランス料理のカツレツを起源とし、比較的安価な豚肉とたっぷりの揚げ油を使って調理したのが始まりです。温野菜の代わりに作りやすい千切りキャベツを添え、家庭料理としても広く普及していきました。

 かれこれ100年以上、ほぼアレンジを加えることもなく、姿形をそのままに残す歴史深い料理。“かつ”という縁起のよいネーミングで、ゲン担ぎとしても食べられていますよね。

 このとんかつをもっと自由なスタイルで楽しんでも良いのではないか、と提起する店が、虎ノ門ヒルズの虎ノ門横丁に軒を連ねる『つかんと』です。

 店名の『つかんと』は、とんかつの逆読み。100年以上の歴史を持つとんかつを開放するかのように、自由な発想とフレンチの技術で新たなスタイルを提案しています。

 オーナーは、三ツ星レストランの『カンテサンス』で経験し、ミシュラン1ツ星『TIRPSE』の元オーナーだった大橋直誉さん。星付きレストランで培った技術を駆使したとんかつは、女性を中心に人気を呼び、ランチタイムには時節柄にも関わらず、あっという間に40~50人が列をなすほど。

 下準備として、豚肉は53℃で1時間ほど真空低温調理します。じっくり調理した豚肉に小麦粉、卵、細目のパン粉をまとわせ、揚げ油にくぐらせるように短時間でさっくりと仕上げていきます。

「カツ丼定食」は卵とじのごはんと一緒に。唯一無二の美味しさ!

「カツ丼」1400円(税抜)

「カツ丼」と言っても、『つかんと』では卵で閉じるのはカツではなく、ご飯の方。薄衣でカリッと揚げた衣の食感をいかすためなのだそうです。

 衣は非常に軽く、中の肉は驚くほどにしっとり、ジューシー。国産のヒレ肉は、噛むほどにじゅわりと旨みが溢れますが、油のヘビーさがなく、いくらでも食べられそうです! フレンチレストランでいただくカツレツのような上品さでありながら、とんかつに求めるガッツリ感も兼ね備えています。

「カツ丼」として成立させているのが、陰の立役者である、おじや風のご飯です。九州醤油の甘みのきいた割下の中にご飯を入れ、卵で閉じたもの。どこか懐かしさを残す味わいで、とんかつとのギャップが良い。一緒に食べてみると、紛うことなくカツ丼! 非常にユニークな体験でした。

 とんかつは塩で下味をつけていますので、オリーブオイル、藻塩、うまくち醤油などで味を足しながら味わうのも『つかんと』流。気の赴くままに味変できるのも楽しいですね。

 付け合わせとして提供される「コールスロー」がこれまた合う! やや酸味が強めのテイストが良い箸休めになります。

 今回はランチタイムに伺いましたが、実は『つかんと』が本領を発揮するのはディナータイム。レモンサワーやハイボールの定番ドリンクに加えて、ソムリエ経験のある大橋さんがチョイスした「オレンジワイン」(グラス950円)を片手に、とんかつを楽しめるのです。

 一口カツは、1部位70g。定番のロースやヒレに加えて、タンやレバー、ハツも味わえます。さらに、好みの部位で「カツ料理」を注文することも可能。「ヒレ&フォアグラ」や「サムギョプサル」、「スパイスカツカレー」など飽きのこないラインアップも見逃せません。

 常連さんからは、鹿肉や鴨肉で作るカツや、広島から仕入れるジビエのソーセージが人気なのだとか。1品1杯から注文しやすく、虎ノ門横丁にある他の店へとはしご酒しやすいメニュー構成も魅力ですね。

 オーナーの大橋さん初め、店長さん、スタッフの皆さんも気さくで明るい雰囲気。肩ひじ張らずに飲み食いできるのも嬉しいです。フレンチのテクニックが散りばめられた飲み屋、最高じゃないですか? 次回はぜひ、ディナータイムにお邪魔したいと思います!

(撮影・文◎亀井亜衣子)

●DATA

つかんと

住:105-6490 東京都港区虎ノ門一丁目17番1号 虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー 3F 虎ノ門横丁
TEL:080-8810-4486
営:平日:11:30~売り切れ終い、17:00~23:00(L.O.22:00)
  土日祝:11:30~売り切れ終い、17:00~22:00(L.O.21:00)