名古屋土産定番の「ういろう」を凌ぐ人気スイーツ「ぴよりん」を知ってますか?(写真:ジェイアール東海フードサービス)

ひと昔前、名古屋ではお土産に持っていくのは重たくてかさばるものがよしとされてきた。「何となく高価そうに見える」という見栄っ張りの名古屋人気質を表したものだが、やはり、贈る相手に喜ばれるものを選びたい。

名古屋駅構内では数多くのお土産が売られている。定番のういろうや最近では小倉トーストを模したサブレなどが人気らしい。しかし、それらを凌ぐ大人気のスイーツがある。生菓子なので購入当日に消費せねばならないが、1日約500個、週末ともなれば約800個が完売するという。

「ぴよりん」の生みの親に聞く誕生秘話

それが、名古屋駅構内にある「なごめしカフェ トラッツィオーネ ナゴヤ」と「ぴよりんshop」、「カフェ ジャンシアーヌ」で販売している、ひよこ型のスイーツ「ぴよりん」だ。


通常の「ぴよりん」(380円)と「イチゴぴよりん」「チョコぴよりん」(各430円)の3種類を用意(筆者撮影)

人気の秘密は、つぶらな瞳と見るからにやわらかそうなモフモフのカラダにキュンキュンするからだけではない。粉末状にしたスポンジの中にはバニラが香るババロア。さらにその中には名古屋コーチンの卵を使った濃厚な味わいのプリンが入っている。スイーツとしてもかなり完成度が高いのである。

ぴよりんが誕生したのは、2011年7月。その約1年前から製造元であるジェイアール東海フードサービス(以下、JFS)でプロジェクトは進行していたという。J F Sは、名古屋駅構内やJRセントラルタワーズ、JRゲートタワーで飲食店を運営しており、名古屋名物になる商品を開発すべく、女性パティシエ2名と男性社員2名の計4名でプロジェクトチームが結成された。

現在、管理部次長を務める越智謙吾さんは、カフェ部門を統括する事業部飲食二課長としてチームに加わった。ほかのメンバーは全員退職しており、ぴよりんの「生みの親」として誕生ストーリーを知る者は越智さんただ1人。

「安直な発想ですが、可愛くて丸いものを作れば女性の人気を集めるのではないかと。まずはキャラクターもののケーキを研究して、それをベースにデッサンを描きました」と、越智さんは当時を振り返る。

ところが、何カ月も試行錯誤を重ねたものの、なかなか納得できるものができず、プロジェクトは行き詰まってしまった。そのとき、メンバーの1人が放ったひと言がぴよりん誕生のきっかけとなった。


ジェイアール東海フードサービスの越智謙吾さん(筆者撮影)

「『ひよこって丸くて可愛くないですか?』と言ったんです。その場が色めき立ち、早速試作に取り組みました。かなり初期の段階でババロアの中にプリンを入れていましたが、今ひとつでした。ひよこのフワフワ感が表現できていなかったんですね。粉末状にしたスポンジケーキを纏わせて、原型が完成しました。そして、名古屋名物として売り出すのであれば、プリンには名古屋コーチンの卵を使おうと」(越智さん)

実際にぴよりんを製造しているところを見せてもらった。プリンを焼いたり、ババロアを炊いたり、ババロアの中にプリンを入れたりとすべての工程を手作業で行っていた。聞いてみると、完成するまで約7時間かかるという。

また、チョコレートでできた目やクチバシ、トサカ、羽を付けるのも手作業なので、顔が一つひとつ微妙に異なる。それもまたぴよりんの魅力だったりするのだ。

2011年7月に販売を開始し、わずか2カ月後の9月に愛知県が主催する『愛知のふるさと食品コンテスト』で64点の出店食品の中から、ぴよりんが最優秀食品に選ばれた。さらに10月にはハロウィンぴよりん、12月にはサンタぴよりんと賀正ぴよりんと、季節限定のぴよりんを製造した。限定100個の販売だったが、瞬く間に売り切れた。

「ぴよりん」のクリスマスケーキは完売必至

以来、毎年9種類前後の季節限定ぴよりんを販売している。中でも注目すべきは、毎年11月上旬に予約を受け付けているクリスマスケーキだ。


今年発売される「ぴよりん」のクリスマスケーキ(写真:ジェイアール東海フードサービス)

クリスマスケーキは、イチゴの“あまおう”をふんだんに使ったものや定番のブッシュドノエルなどを販売していた。そのラインナップの中にぴよりんを使ったデコレーションケーキをくわえたところ、あっという間に予約が埋まったのだ。12月20日前後から25日までは店頭でも販売されるが、去年はあっという間に売り切れた。

「7年ほど前、すべてのクリスマスケーキにぴよりんを使うことになりました。本当に売れるかどうか祈るような気持ちで予約当日を迎えましたが無事に完売しました。ホッとしましたね。少し間を開けて、4年くらい前からすべてのクリスマスケーキにぴよりんをデコレーションしています」(越智さん)

SNSから広がった「#ぴよりんチャレンジ」

ぴよりんの知名度を上げていったのは、1日に37万人以上が利用する名古屋駅構内という立地にも要因があったのだろう。「ぴよりんshop」や「カフェ ジャンシアーヌ」のショーケースの前で立ち止まり、ずらりと並ぶぴよりんに一目惚れして買っていく客も少なくない。

コンサートや公演で名古屋を訪れたアーティストや役者に差し入れとして購入するケースも多く、彼らがアップしたインスタやTwitterを見た多くのファンが店へ押し寄せたことも1度や2度ではない。名古屋駅という好立地にSNSが後押しする形でぴよりんは順調に売り上げを伸ばし、インスタがブームになった2017年には累計販売個数が100万個を突破した。

ここ最近、SNSで話題になっているのが「#ぴよりんチャレンジ」。ぴよりんはババロアとプリンでできているため、ちょっとした振動や衝撃で崩れてしまう。そんな特性を利用して、購入時の状態を保ったまま持ち帰ることができるか挑戦するというもの。


ぴよりんの断面(写真:ジェイアール東海フードサービス)

「持ち歩くのは2時間以内、近隣地域へのお土産として想定していました。まさか、東京や大阪まで持ち帰るお客様がいらっしゃるとは思いませんでした。ババロア部分をかためにしたり、箱などの包材を変えたりもしましたが、手提げ袋をできるだけ水平に保たないと、どうしても形が崩れてしまいます」(越智さん)

SNSには店から持ち帰った写真とともに持ち帰るまでの所要時間や「名古屋〜東京」という区間も投稿されている。無事に「帰還」した写真が多く見られるが、中には完全にひっくり返っていたり、目やクチバシ、トサカが欠落してしまった無残な姿も。それでも可愛く見えるぴよりんのポテンシャルはすばらしいと思う(笑)。この「#ぴよりんチャレンジ」によって、2019年には累計販売個数が130万個を超えた。

「販売当初は1日の生産量がたったの30個でしたから、実に感慨深いものがあります。これまでは名古屋駅でしか買うことができないというプレミアム感を大切にしてきましたが、現在、通販に対応すべく冷凍のぴよりんを企画、検討しています。何度か試食しましたが、今ひとつ味や食感が再現できないんです。店頭販売と同じ味になるまでじっくりと育てていこうと思います」(越智さん)

今年はコロナ禍で名古屋駅の利用客は減少したものの、テイクアウトの需要が増えたため、累計販売個数は150万個を超える見込みとか。来年はぴよりん生誕10周年。今や名古屋を代表するスイーツに成長したと言ってもよいだろう。