価格は「Q3」が438万円〜、「Q3スポーツバック」が452万円〜(写真:アウディ

ドイツのアウディが、小型SUVに位置づけられる「Q3」をフルモデルチェンジし、同時にクーペスタイルの派生モデルである「Q3スポーツバック」を発売した。

競合となるのは、同じグループ内のフォルクスワーゲン「ティグアン」「T-Roc」、メルセデス・ベンツ「GLA」、BMW「X1」「X2」だ。スウェーデンのボルボ「XC40」や、フランスのプジョー「3008」も加わるだろう。メルセデス・ベンツの「GLB」やBMWの「X3」は、より大柄な車体となる。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

国産車ではトヨタ「C-HR」、ホンダ「ヴェゼル」、日産「キックス」、マツダ「CX-30」などが同じようなボディサイズを持つが、価格は100万円以上の開きがある。それでも競合は非常に多いと言え、小型SUVが世界的にいかに人気を集めているかを思わせる。

ライバルとの差があまりない

Q3/Q3スポーツバックのエンジンは、直列4気筒で排気量が1.5リッターのガソリンターボと2.0リッターのディーゼルターボの2種類があり、どちらも最高出力は150馬力と同一だ。ただし、最大トルクはディーゼルのほうが約1.4倍も大きい。また、ガソリン車はFFだが、ディーゼル車はアウディが「クワトロ」と呼ぶ4輪駆動となる。

では、ライバルたちと比べて、秀でている面は何であろうか。そう考えたとき、明らかにほかと違う面があまり見えてこないというのが、正直なところだ。


新登場の「Q3スポーツバック」。ルーフラインが異なるクーペスタイルだ(写真:アウディ

ディーゼルエンジンをラインナップしているのは、ほかのドイツ勢と同じであるし、ボルボは、すでに国内で小型モデルのディーゼル仕様の販売をやめており、XC40は今年からプラグインハイブリッド車(PHEV)が、来年には電気自動車(EV)が導入される予定だ。

アウディも、2015年に「A3スポーツバック」に「e-tron(イートロン)」と呼ばれるPHEVを日本に導入した経緯があり、その価格は564万円であった。今回のQ3やQ3スポーツバックのディーゼル車の価格帯である約510万〜560万円と大きな差がなく、導入していればアウディの小型SUVを選ぶ理由の1つとなったかもしれない。

国産車は、C-HRもヴェゼルもハイブリッド車(HV)があり、キックスは「e-POWER」と呼ばれるシリーズハイブリッドのみを搭載するが、ハイブリッド車の支持が高い日本では、それが小型SUV人気の追い風にもなっているのだ。

アウディは、欧州でEVの「e-tron」というモデルを発表しているが、これは全長が5メートル近く、全幅が1.9mを超える巨体で、価格も邦貨換算でおよそ1000万円からと大幅に高くなり、限られた富裕層向けといえる。

このように考えていくと、Q3とQ3スポーツバックをあえて選ぶ理由が、なかなか見つけられないのである。もちろん、外観や内装のデザインなどへの好みはある。Q3やQ3スポーツバックを選ぶことに消極的である必要がないのは、もちろんだ。

かつては明確な未来を示していたが…

アウディは、「技術による先進」の言葉を企業メッセージとして掲げ、4輪駆動車を舗装路で高速かつ安全に走らせる価値を1980年に「クワトロ(当時は車名)」で示し、世界にその存在を改めて明らかにした。また、フラッグシップセダンの「A8」では早くからオールアルミボディーの「ASF(アウディスペースフレーム)」を採用するなど、技術を背景に、軽量化や高速走行性能などに挑戦してきた歴史がある。


「A8」の現行モデルもASFを採用する(写真:アウディ

2000年代を迎え、電動化に力を入れe-tronという考えを明らかにした。2011年のドイツのフランクフルトモーターショーでは、「A2コンセプト」という日本の5ナンバー車ほどの大きさのクルマをEV化し、自動運転を採用する未来像を見せた。まさに、「技術による先進」という企業メッセージそのままの革新性に期待を抱かせたのである。

並行して、アーバン・フューチャー・イニシアティブというフォーラムを開催し、2030年の未来都市における暮らしと移動を考察する活動もはじめた。ドイツの自動車メーカーの中で、これほど明確に未来への模索を示した例はほかになかった。

ところが、その後いっこうに量産市販車の電動化や自動運転化が明らかにならず、メルセデス・ベンツやBMWのほうが積極さを見せるようになったのである。背景にあったのは、2015年のフォルクスワーゲンによるディーゼル排ガス不正問題であったかもしれない。フォルクスワーゲンに続いて、アウディの会長も逮捕される事態が起きている。

デザインにおいても、今日多くの自動車メーカーが採り入れる“大きなグリル”という発想を2005年の「A6」で「シングルフレームグリル」という名で採り入れ、世界的な流行にした。しかし、その後アウディから何か新しいデザインの提案はないように感じる。

シングルフレームグリルは今もアウディの特徴として継承されているが、モデルチェンジをしても従来型と大きな差が感じられるモデルは少なく、新旧の区別もわかりにくくなっている。

約10年前、ドイツの自動車業界を牽引するかのような勢いのあるアウディの姿を見てきただけに、デザインの革新がない昨今のアウディ車は、性能や品質に優れていても“あえて選ぶ理由”を見つけにくいのだ。

それは数字にも表れており、日本国内では2013〜2014年度におよそ3万台の新車販売を記録したが、2018年度には2万3000台にまで落ち込んだ。

今、アウディに必要なもの

何がアウディの勢いを盛り返すのか。それはやはり、「技術による先進」という企業メッセージの通り、EVによる自動運転を一刻も早く量産化へ持ち込むことだろう。その点、アウディはレベル3と呼ばれる運転支援技術を世界で最初に達成している。

ただし、一般公道を走行するための準備が、法的にも社会的にも整っていなかったため、実際には利用できない状況が続いた。技術は先端を求めたが、社会との調和を見誤ったと言える。


「CES2020」でコンセプトカーを公開するなど先進性のアピールはするが……(写真:アウディ

筆者は、レベル3の運転支援は実用化すべきでないとの立場にいる。レベル3はほぼ自動運転ながら、責任の所在はドライバーにあり、万一システムが解除されれば、ドライバーが回避行動を取らなければならない。急にシステムが解除されたとき、果たしてドライバーは適切な対処ができるだろうか。

そう考えると、日産「スカイライン」の「プロパイロット2.0」のように、レベル2で使える技術を磨き、市販し、多くの消費者に使ってもらったうえで、一気にレベル4へ移行していくのが現実的だと思うのだ。 

アウディに欠けているのは、「技術による先進」を貫くにしても、名目だけで先走るのではなく、社会との融和をはかりながら、その中で「やはり」と思わせる人間への技術の貢献を商品で示すことだろう。おそらく、新型Q3もQ3スポーツバックも、商品の良し悪しではなく、消費者に未来への期待を抱かせる造形や技術の貢献が見えにくいのだと思う。

「技術による先進」を実感し、体感できるアウディの新車の登場を期待する。