【鈴木衛士】日本をナメすぎた習近平…中国の尖閣諸島侵入、むしろ好機といえるワケ 具体的な行動を起こすなら今しかない

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過去最長の領海侵入

7月2日午後4時10分ごろ、中国海警局の公船(哨戒船)2隻が尖閣諸島周辺の海域に相次いで侵入し、午後4時50分ごろには魚釣島の西約7km付近で操業中の日本漁船に接近した。

このため、海上保安庁の巡視船が漁船と哨戒船の間に割って入り退去警告を続けたが、哨戒船の2隻は漁船が大正島方面へ漁場を変えるために移動するとこれを追尾し、3日夜に一旦領海外へ出たあと再び4日未明に領海に侵入、5日午後5時45分ごろようやく領海を退去した。

2日〜3日の領海侵入時間は30時間17分で過去最長であったが、さらに4日〜5日の侵入時間は39時間23分とこれを更新するものであった。

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なお、この領海侵入まで、4月14日以降これら中国の哨戒船を含む2〜8隻が入れ替わり立ち替わりしながら、尖閣諸島の接続水域(領海から12海里までの「通関、財政、出入国管理などに関する法令違反の防止及び処罰を行うことが認められた」水域)に居座り続けており、7月10日まで連続88日を越えて(平成24年9月の尖閣国有化以降)最長を更新している。

この間、今回の事案を含めて計7回、10日間にわたりわが国の領海に侵入した。恐らく、台風でも来ない限り、今月22日にはこの接続水域での居座りが100日間を越えることになるのだろう。

これは、この水域における哨戒船の示威行動(プレゼンス)を常態化しようという動きに他ならない。

中国の狙いとは何か

尖閣諸島周辺において、中国海警局の哨戒船が初めて領海に侵入したのは2008(平成20)年12月8日である。その後、2010(平成22)年9月7日には尖閣諸島周辺の領海内で「中国漁船(によるわが国巡視船への)衝突事件」が発生。

この2年後には、前述のように2012(平成24)年9月11日にわが国が尖閣諸島を国有化したことに中国が強く反発。翌2013(平成25)年にかけて月に7〜8日間の頻度で領海侵入するというようなピークを迎えた。

その後、2014(平成26)年以降は概ね台風などで天候悪化するような時期を除いて、2〜4隻が月に1〜2日程度領海に侵入するという断続的なパターンがほぼ定着していた。

このような実力行使の一方で、2008(平成20)年の領海侵入以降、中国海警局の哨戒船は大幅に増強され始めた。2014年以降、尖閣周辺で確認されただけでも新造の哨戒船は20隻を超え、総トン数が1000〜3000t級から5000t級へ、そして、2015(平成27)年には、12000t級という大型の哨戒船が就役した。

また、哨戒船にヘリを搭載して運用したり、搭載兵器が当初の非武装から30mm機関砲、さらには76mm速射砲を装備するなど、兵装なども着実に強化されていったのである。

現在、この接続水域への連続入域日数や領海侵入の継続時間などの更新がことさらにクローズアップされているが、実際のところこのような接続水域入域や領海侵入のパターンが急激に増加傾向に転じたのは、(海上保安庁のホームページに掲載されているグラフを見れば明らかなように)2019(平成31)年の1月以降である。

つまり、この時期から中国側は尖閣周辺における海警局哨戒船によるプレゼンスをレベルアップしてきたということである。

では、なぜこの時期から中国は実力行使のレベルを上げてきたのであろうか。これを推測するにあたり、この時期に中国において二つの面で大きな変化があったことを思い起こす必要がある。

その一つは、中国共産党の内部組織に関するものであり、もう一つは米中の国際関係に関わるものである。

軍事色を帯びた中国海警局

中国海警局という組織は、わが国でいえば海上保安庁に相当する。しかし、海上保安庁が海上交通に関わることや、海難事故への対応など、領海警備以外にも幅広い任務を有しているのに対して、海警局は沿岸警備(コーストガード:領海警備や排他的経済水域の保全)を主任務としている。

また、組織的には、海上保安庁が国土交通省の下部組織であるのと同様に、海警局も(従来は)非軍事組織である中国国家海洋局の下部組織であった。

ところが、2018年6月に開催された第13期全国人民代表大会(全人代)において、海警局に関わる組織改編が採択され、同年7月以降、海警局は「国家海洋局」から離れ、「武警(中国人民武装警察部隊)」の指揮下に入ることになった。

この武警は、元々(内務省に相当する)国務院と(国防省に相当する)党中央軍事委員会の双方の指揮下にあったのだが、この海警局の改編と時期を同じくして中央軍事委員会の指揮下に一元化された。

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海上保安庁が自衛隊法により、有事などの際は内閣総理大臣によって「防衛大臣の指揮下に入ることが認められている」ということを考えると、中国はまさに有事に匹敵するような組織改編を行ったということである。

この改編は取りも直さず、中央軍事委員会のトップである「習近平主席が海警局を(国家意思の名のもとに)直接指揮できるようになった」ということであり、同主席率いる中国共産党により「東シナ海や南シナ海などにおける覇権拡大のための手段として海警局を活用する」という魂胆が露わになったことを示すものに他ならない。

米中は「新たな戦争」に突入した

もう一つ、中国を取り巻く国際環境が2018年以降大きく変化した。

前述のような、東シナ海における尖閣諸島周辺の活動と時を同じくして、南シナ海においても中国の(驚異的な軍事力の増強を背景とした)力による現状変更の試みは顕著となって行った。

すなわち、米国主導で築き上げてきた現在の国際秩序を一旦破壊して、「東アジアにおいて我に有利な環境を作為しようという中国の狙い」がもはや明白となり、米国はついに中国に対する対決姿勢を鮮明にした。

この中国に対する対決姿勢を明確に宣言したのが、2018年10月4日にワシントンで1時間弱にわたって行われた、ペンス米副大統領による(中国に対する実質的な「宣戦布告」といわれた)演説である。

この演説については、本誌2018年10月12日付「米副大統領の演説は、実は対中国への『本気の宣戦布告』だった」で長谷川幸洋氏が詳述しておられるので参考にされたい。

なお、この演説に先立って経済の世界では、すでに2018年3月にトランプ大統領が中国の鉄鋼製品に25%の関税をかけたことを皮切りに、同年7月以降、お互いが様々な製品に関税をかけ合うというような「米中貿易戦争」が起きていた。

以上のように、2018年を境に、東アジアなどで覇権を拡大しようとする中国と、これを封じ込めようとする米国の間で、外交や軍事的な分野だけでなく、経済や情報などハイブリッドな世界で「新たな戦争」が始まっていたのである。

これに伴い、中国はこれを予測していたように武警や海警局などの組織を改編し、攻勢を強めてきたものであり、これが尖閣周辺における活動にも影響を及ぼしていたものと考えられる。

今が尖閣諸島に足跡を残す好機

結局のところ中国は、わが国が習近平主席を国賓で招へいしようが、武漢で新型コロナによるオーバーシュート(爆発的患者急増)が発生した際にいち早く支援物資と励ましのメッセージを送ろうが、わが国の日中友好に対する努力や「思いやりの精神」など意に介さず、自らの野望に向かってひたすら力で周辺を凌駕しようとしているのである。

わが国が、尖閣周辺海域における領海侵入に対していくら抗議しても、聞く耳など持つはずがない。このまま現状を放置しておくと、わが国の漁船に対抗して多数の中国漁船を尖閣周辺の領海内に入らせ、これを保護するためと称して「海警局哨戒船が領海内に居座る」などという行動に出てくる可能性がある。

場合によっては、漁船員に扮した工作員が魚釣島などに上陸するかも知れない。近い将来、何らかの形でさらに攻勢を強めてくるだろう。

わが国は、決して後手に回らないことだ。後手に回ると、相手に振り回されて海上保安庁の巡視船だけで対応するのが困難になり、自衛隊(艦艇等)を派遣する必要に迫られる可能性がある。これは、「日本側が先に軍事介入した」と、中国に軍事力行使の口実を与えることにつながり、相手の術中にはまることになる。

接続水域に海警局の哨戒船が入域している時は、そのさらに外側の海域に中国の戦闘艦艇が待機している。何か仕掛けてくるときは、この規模もそれなりに拡大しているはずだ。自衛隊が介入すれば、これらの艦艇が即座に対応してわが方は厳しい状態に追い込まれるであろう。

日本が今なすべきは、魚釣島などに海上保安庁の小型船舶が停泊できるほどの「船溜まりを作る」または、「通信施設などを設置する」等、何らかの施設を構築し、「わが国の実効支配をしっかり形作る」ことではないか。同時に、この周辺海域における日米共同演習や訓練を定例化することだ。

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これによって、今後さらに中国が実力行使の烈度を高めてきた時に、「日本領土への侵略行為」であることが明白となり、日本の防衛行動に対する内外の支持が得られることにつながると考えられる。

国家主権が脅かされている以上、「いつかは腹をくくらなければならない時が来る」のである。ただ手をこまねいていても状況は悪化する一方だ。

最近は、7月に入って南シナ海で米中双方が軍事演習を実施するなど、まさに「一触即発」と言っても過言ではないような状況にある。しかも、米軍は原子力空母2隻を投入するなど、中国を強くけん制している。

このように、米国が中国に対してまさに臨戦態勢で封じ込め作戦を展開している今こそ、わが国も自国の権益を断固として守る意志を態度で示す好機ではないだろうか。この具体的方法については、政府が関連省庁を交えて早急に協議し、後顧の憂いなきよう即座に行動に移してもらいたいと思う。

習近平国家主席の国賓としての招へいをわが国は未だ取り消していない。もし、尖閣諸島でわが国が具体的な行動を起こせば中国はいかに対応するであろう。これを見極めるためにも、わが国は具体的な行動を起こすべきだと思うのだが。