「小学生の万引き」が急増中、手を染める理由と親がするべき対処法は
いま、小学生の万引きが増えている。警視庁の統計では、これまで多かった中高生の割合を抜いて’17年からトップに。また、各種調査によると、子どもの万引きは家庭環境に大きく影響するともいわれている。非行歴が積み重なると計画性が高まるともいわれ、ときには重要犯罪の入り口にもなりかねないと指摘されるほどだ。
子どもたちに何が起きているのかさまざまな角度から考えていこう。
受験ストレスから万引き癖→依存に
不登校の専門紙『不登校新聞』の石井志昂編集長は小学生のとき、万引きがやめられなくなった経験がある。きっかけは、中学受験のための塾通い。暇を持て余していた夏休みに、母親から「塾で勉強しなさい」と言われたことに始まる。
「19時ごろまで塾にいました。それから塾が終わり、街をぶらぶらするようになりました。なんとなく街にいるようになるんです。塾が始まる前はゲームセンターに立ち寄って時間をつぶします。お小遣いはすぐになくなります」
ゲームセンターでは、安くて時間がつぶせる旧式のゲームで遊ぶものの、お小遣いをすぐに使い果たしてしまう。塾に行くたびに、親からは夕食代をもらっていたが、それもゲーム代として使い果たす。しかし、お腹はすく。
「コンビニか、パン屋だったかは覚えていませんが。サインドイッチを盗みました。それが、初めての万引き。罪悪感はありました」
その後、万引きは常習化していく。週1だったのが、連日繰り返すように。書店やCDショップ、デパート……。盗れる可能性のあるものは、欲しいかどうかに関係なく、盗んだ。
万引きの一因は、塾内のストレスが強かったからと、石井さんは振り返る。
「塾では、成績が低い子を講師たちが罵っていました。偏差値50に届かない子どもたちを名指しして、ボロカスに言いました。“ろくな人間にならない”とか“努力しないやつはダメなんだ”と。成績順に座らせて“偏差値50以下は、将来がないと思ってください”とも言い放つ。僕は崖っぷちでした」
こうした中で、ますます万引きをやめられない。
「常習になると、店舗内の防犯体制を気にして、防犯カメラを確認しました」
図書館の本も盗んだ。しかし、“返却期限”で戻す。
「貸し出し手続きをしないで本を盗んだんですが、読んだら(手続きをしたとして、本来の)返却期限の日までには必ず返していました」
欲しいから盗むのではなく、盗むこと自体が目的と化していた。石井さんは万引き行為に依存していく。
「今から考えれば、心の居場所がないという“心のホームレス化”状態にあったから、万引きしていたんじゃないかと思います」
警察庁によると、万引きは、過去10年、20歳未満の犯罪全体の50%前後を占めており、少年非行のなかでは最も比率が高い。警視庁の最新統計(’19年)では、万引きで検挙・摘発された20歳未満のうち、小学生の比率が3割を超えて最多。’17年に中学生を逆転して以来、高止まりの状況にある。
そんな中で、警視庁は’19年10月、小学生の万引きに注目した「万引きに関する調査研究報告書」(以下、万引き調査)を発表した。それによると、盗んだ品物の内訳は「食料品」が半数で、次点が「玩具」。この2つが全体の約7割を占めている。万引きした場所は、小学生は「コンビニ」が半数で最多だ。警視庁では重要犯罪の入り口、「ゲートウェイ犯罪」になりやすいと見ており、注意喚起している。
貧困や寂しさが万引きに走らせる
子どもの万引きには地域ごとの特徴もある。21年間、大手スーパーやドラッグストア、書店などで「万引きGメン」をしている伊東ゆうさんは、こう話す。
「被害が深刻な地域では、貧困層やひとり親家庭の子どもの万引きが目につきます。何かしらの理由で両親ではなく祖父母と暮らしていたり、児童養護施設で暮らす子どもたちも少なくありません」
伊東さんは約80点もの商品を万引きした小学4年生のことが忘れられない。8人きょうだいの末っ子の男児。両親は働いていて、お小遣いはなく、おやつも用意されておらず、文房具も買えない。盗んだものはきょうだいに配っていた。
「そうした子どもたちは、話を聞くと、うれしそうに話したり、泣きながら自分の状況を訴えたりします。貧しさのほか、寂寥感があったり、かまってほしかったという理由があったりするんです」
ただし、警視庁統計に表れている「小学生の万引きの比率が高い」点は実感がないとGメンの経験から指摘する。
「万引きで多いのは圧倒的に高齢者です。地域によっては外国人も目立つ。小学生が多い地域もありますが、中高生のほうが多い印象です。中高生は巧妙で、逃走ルートや、捕まったときの言い訳も考えていたりします」
下手=捕まりやすいから小学生で増加?
万引きの統計で、小学生や高齢者の比率が高くなるのは、手口が安易で、捕まりやすいことに起因している。
万引きの研究をしている香川大学の大久保智生准教授(犯罪心理学)は、「小学生の場合は単独ですることが多く、犯行が上手ではないのです。一方で、中高生の場合、複数で行い、犯行は上手。だからこそ、認知件数の中で、小学生の比率が高まっている可能性があります」と指摘。
原則として、万引きが起きると、店側はすべて通報することになっている。そんな中で万引きが上手ではない小学生は、店側が把握しやすく、通報件数が上がりやすい。
ただ、店側が万引きを通報しないケースも多く、警察によっては、万引きへの対応は嫌がることもある。
万引き対策として、店舗側はGメンなどの保安員を雇用するが、費用対効果の問題もあり、毎日、警備をすることはない。万引きの被害額と、保安員の人件費の兼ね合いもある。大久保准教授が言う。
「香川県では店舗がまじめに通報し、警察もきちんと対応していたため、’09年まで、人口1000人あたりの件数で全国ワースト1でした。現在は、さまざまな対策が奏功してワースト1を脱却していますが、都会ほど万引きが多くないため店も警察も対応しやすい。かたや大都市圏では、すべて通報するように言いながらも、万引きが多いと店も警察も対応が現実的に難しい。地域によっては、謝罪すれば許し、警察に届けないというところもあります」
万引き=「流行遅れ」で中高生が減った?
児童相談所にも、万引きに関連した相談が寄せられることがある。児相の勤務経験がある、西南学院大学の安部計彦教授(児童福祉学)は、「肌感覚の数字ですが、小学生の3分の1は、500円以下のおもちゃやお菓子などを万引きしたことがあるのではないでしょうか。その意味で、どこの子どもでも、万引きする可能性があります」と話す。
ただ、20歳未満の万引きで小学生の比率が高まったということは、反対に、中高生の割合が低下したともいえる。この点について、伊東さんも大久保准教授も「万引きが中高生の間で流行ではなくなったのではないか」と口をそろえる。統計上も明らかだ。
安部教授はこうも述べる。
「少年非行全体の数が少なくなっています。中高生はゲームに熱中している。以前、家や学校に居場所がない子どもが非行に走りましたが、今は、携帯やスマホ、ゲーム機の中に居場所ができました。以前は、アダルト系雑誌を万引きすることもありましたが、今では(アダルト系の写真も動画も)スマホで見ることができます。環境の変化による影響が言えるでしょう」
わが子の万引きに親はどう対応する?
親は、子どもの万引きをどれだけ知っているのだろうか。
’18年の学校基本調査報告書によると、都内の小学生60万9512人のうち、実際に補導された小学生は489人で全体の0・08%。一方、前出の万引き調査では、「子どもが万引きしたことがある」と回答したのは小学生の保護者層で5%、一般市民層では3%。補導されなくても、子どもの万引きを親は把握していることになる。
安部教授は「小学生は一定数、万引きします。親自身が“自分の育て方が悪かった”などと思う必要はありません」と話す。万引きは、子どもの成長過程で誰でも起きるひとつの問題行動であり、特別なことではないという。
では、親が子どもの万引きを知ったときに、どんな対応をすればいいのか。
「小学生の場合、遊び心か、我慢できないという場合がほとんどです。反抗期や流行のようなものであり、深刻に考えることはないですが、きちんと対応しましょう。お店に連れていき謝らせる。決して万引きを許さないことです」
前出・石井さんも中学受験後、初めて親にバレるという出来事があった。フィギュアを盗んだときに店のスタッフに見つかり、万引きが発覚したのだ。親は店の人に謝罪した。
「親が謝っている姿を見て、申し訳ない、してはいけないことなんだ、と思いました。その後、盗癖はなくなりました」(石井さん)
一般市民対象の万引き調査では、年齢が下がるほど「万引きを通報しなくてもよい」とする傾向があった。高齢者よりも小学生には、やや甘い。
「小学生は万引きの重大さをわかっていないため、しつけが重要です。中高生は悪いとわかってやっていたりしますが、小学生には“万引きは犯罪”と教える必要があります。大切なのは、学校や家庭での対処。なかには店側に逆ギレしたり、クレームを入れたりする親もいますが、こうした場合、万引きを繰り返してしまいます」(大久保准教授)
これには、伊東さんも同じ意見だ。
「親の謝る姿、親が悲しむ姿を見せるのです。すると、子どもは泣いて反省したりします。子どもを殴るのはダメです。あれは親の自己満足。そうなると、子どもは言い聞かせても納得しません」
万引きを繰り返してしまうケースはどうだろうか。安部教授は、こうアドバイスする。
「理由も聞かないで叱るだけでは解決しません。親の接し方にも工夫が必要です。まずは身近な専門家、学校の先生に相談しましょう」
万引きをめぐっては、警察も把握できていないケースが多い。そこには、寂しさや貧困など、子どものSOSが見え隠れすることもある。単なる問題行動と切り捨てるのではなく、社会が手立てを考えなければならない。
取材・文/渋井哲也 フリーライター。長野日報を経て現職。自殺やいじめ、自傷など若者の生きづらさを中心に執筆。東日本大震災の被災地でも取材を重ねている。『学校が子どもを殺すとき』(論創社)ほか著書多数