レイプにセクハラ、絶対に許さない!体験者が告発「性犯罪者に鉄槌を」
昨年3月、性暴力に関する裁判で無罪判決が相次いだ。翌月から抗議の意味も込めて始まった『フラワーデモ』。毎月11日に花を持って集まるデモは全国的な広がりを見せていたが、3月以降はコロナの影響で開催できない都市も。そこで、週刊女性PRIMEフラワーデモを開催します!
「私がもっと早く声をあげていれば、彼女たちは傷つかなくてすんだのではないか」
長崎県の民放アナウンサーだった郡司真子さん(51)は3月、長崎市で行われた性暴力根絶を訴える『フラワーデモ』で声をあげた。
フラワーデモは昨年の4月11日、東京・丸の内から始まった。当時、性犯罪の無罪判決が相次ぎ、
「声をあげなければ変わらないと思った。明らかにおかしな判決をおかしいと言えない空気にしてはいけないって思ったんです」
と主催者で作家の北原みのりさん。初回の東京駅前の行幸通りは、花を持った多くの人で埋め尽くされた。
「どのくらい人が集まるかわからなかったので、多くの人が集まってくれたことに驚くと同時に、みんな声をあげたかったんだ、と気づきました。それまでデモに参加したことのないような女性たちが多く、自分の体験談を語ってくれました。さらに女性だけではなく性別にかかわらずに多くの人が声をあげ、そしてどんどん強い声になっていったんです」(北原さん)
500人近くが集まった東京を皮切りに、デモは全国に拡大。毎月11日に開催されるも、今年の3月からはコロナウイルスの影響で開催できない都市もある。
冒頭の郡司真子さんと酒井恵さん(仮名)が週刊女性に被害体験を明かしてくれた。
睡眠薬を飲まされレイプ
郡司さんは長崎の民放アナウンサー兼記者として勤務していた1993年に、長崎県警幹部から飲み物に睡眠導入剤ハルシオンを入れられ、レイプされた。
「当時、長崎で殺人事件があったんです。警察内部しか知らない情報を提供してくれるというので指定された小料理屋に行ったはずが、気づいたらホテルの部屋でした。もう行為は終わったようで相手から“写真撮ったから”と言われました」
その後も複数回、性的関係を強要されたという。
「当時の上司の記者に相談しましたが、県警幹部からの性被害を取引材料に、逆手にとって記者として成長しろと言われセカンドレイプを受けました。耐えきれずに2年後、退職することにしました。相手は警察でしたから加害をもみ消すことができると脅迫され、追及することもできず苦しい思いを抱えながら30年近くも過ごしてきました」
1度は泣き寝入りをした郡司さんだったが、後輩記者たちが次々に被害にあっていくのを耳にするようになる。昨年には長崎市で市の職員から性暴力を受けたとして女性記者が裁判を起こした。この女性記者の勇気ある行動が郡司さんの背中を押した。
「女性ジャーナリストが増え、私と同じような危険にさらされる女性記者は長崎だけではなく、全国にたくさんいると思います。相談したけどセカンドレイプにあうことで被害者の泣き寝入り、絶望を生みます。女性記者への加害はメディア業界の課題です。また、特ダネ狙いの夜討ち朝駆けは何の意味もない。女性を貢ぎ物のように差し出すような悪しき習慣を打破していきたい」
と声をあげた。
「先月の、出版社・幻冬舎の編集者によるセクハラ報道を見たとき、自分の経験がフラッシュバックして呼吸が苦しくなりました」
そう話すのは都内の出版社に勤務する酒井恵さん(27・仮名)。
情報番組のコメンテーターも務める編集者M氏によるライターA子さんへのセクハラや不倫関係の要求、原稿料未払い疑惑が文春オンラインで報じられた。それを読んだ酒井さんは過去の忌まわしい思い出がよみがえり、告発を決意したという。彼女が性暴力を受けたのは就職活動中のことだった。
「マスコミ業界を目指していた私はOB訪問を積極的にこなしていました。その先でセクハラにあうことはしょっちゅう。彼氏の有無を聞かれるのは当たり前。面談の際には昼間のカフェや会議室ではなく、必ず飲み会の席に呼ばれました。軽いお触りなんかは目をつぶっていました。気に入られれば必ず就職できるという希望のもと耐えました」
そんな日々の中、事件は起きた。
「その日は出版社に勤める先輩男性(30代)が私の家を訪ねてきたんです」
手首を縛って写真を撮影
酒井さんはひとり暮らし。家に男性を入れるのは抵抗があったが、あまりにもしつこい相手の懇願に根負けして家へ入れてしまったという。
「男はコンビニ袋いっぱいに度数の強いアルコールを入れてやってきました。無理やり1本飲まされて気づいたら私は酩酊状態でした。服を脱がされているのがわかり、抵抗しましたが、手首を何かで縛られて身動きがとれずにいるところを写メで撮られて、もう恐怖で動けなくなってしまいました」
行為を終えた男はすぐに帰り、酒井さんのケータイにはメッセージが届いた。
《恵ちゃんの写真は僕だけのものにするから誰にも言っちゃだめだよ》
「気持ち悪くてすぐに消去しました。いま思えば証拠として取っておけばよかった。男は妻子持ちで今も大手出版社に勤めています。私は結局、違う出版社に入社することができましたが、同期入社の飲み会などで、その男の会社の人と顔をあわすたびに動悸が激しくなるんです」
編集者のセクハラ報道は、
「まるで私のようだと思いました。家に来るまでの押し問答がそっくりで。しかも勇気を出して告発した女性ライターに、侮辱するようなことをM氏が言っているというニュースを見て怒りがこみあげました。私も告発したら、逆にセカンドレイプをされるのだとわかっていますが、いつか勇気が出たら告発したい。これを読んだら自分のことだとわかるはず。震えて待ってろよ、とあの男に言いたい」
と、酒井さんは前を向く決意をした。
被害者たちの声は、ついに司法をも動かした。
フラワーデモ開催のきっかけともなった、父親による性的暴行事件は今年3月12日、名古屋高裁が逆転有罪判決を言い渡したのだ。
前出の北原さんは、
「1年前は無罪判決を批判するな! 批判するほうがおかしい、と言われていた。でもそれは違うよと思っている人の声が全国へと広がった。被害者たちの声が、1年かけて“性暴力は有罪で当然”という空気に変えていったんです」
フラワーデモは今後も続いていく。性的な安全と自由が侵されることなく、安心して生きられる社会への実現を目指して──。
2019年3月に相次いだ性犯罪の無罪判決
■3月12日 福岡地裁久留米支部
飲食店で行われたサークルの飲み会に初めて参加した女性が、テキーラを一気飲みさせられるなどして泥酔。店内のソファで眠り込んでいるところを、男性(44)が性行為に及び、準強姦罪に問われた。判決は、女性が抵抗できない状態だったことは認めたが、女性が許容していると被告人が誤信してしまう状況にあった、と判断。検察側が控訴した。(今年2月、高裁で逆転有罪)
■3月19日 静岡地裁浜松支部
メキシコ人男性(44)が女性(25)に対する強制性行致傷罪に問われた。女性が「頭が真っ白になった」ために抵抗できなかったことから、「被告人が、自身の暴行が反抗を著しく困難にする程度のものだと認識していたと認めるには合理的な疑いが残る」として「故意」を認めなかった。検察側は控訴せず、無罪が確定。
■3月26日 名古屋地裁岡崎支部
長女(19)に以前から性的虐待をしていた父親が、2017年8月と9月の2回の性交について、準強制性交等罪に問われた。判決は、長女について「抵抗する意思や意欲を奪われた状態」であり、「性交は意に反するものだった」とは認めた。しかし、「被害者の人格を完全に支配し、強い従属関係にあったとまでは認めがたい」とし、「(長女が)抗拒不能の状態にまで至っていたと断定するには、なお合理的な疑いが残る」と判断した。(今年3月、高裁で逆転有罪)
■3月28日 静岡地裁
12歳の長女に対する強姦などで起訴された父親について、裁判所は「唯一の直接証拠である被害者の証言は信用できない」と判断した。検察側は、長女が約2年間にわたり、週3回の頻度で性行為を強要されていたと主張したが、長女の証言が変遷しているうえ、狭い家に7人暮らしなのに「誰ひとり気づかなかったというのはあまりに不自然、不合理」などと退けた。父親は携帯に児童ポルノ動画を所持した罪では罰金10万円の有罪となった。