中国発の新型コロナウイルスによる肺炎「COVID-19」(以下、新型肺炎)への脅威が、世界的な広がりをみせている。こうしたなか政府は国内の感染拡大防止の「重要な局面」にあるとして、対策基本方針の策定を決定した。また2月22日にはIMF(国際通貨基金)が2020年の中国の経済成長率予測を1月時点から0.4ポイント引き下げ、世界経済見通しも下方修正するなど、新型肺炎が日本経済に与える影響が懸念される。

中国進出企業の景況感が急速に悪化

 帝国データバンクの調査によると、中国に進出している日本企業は2019年5月時点で1万3685社あり、そのうち製造業が4割超を占める。また、中国・武漢市進出の日本企業は199社であった。

 こうしたなか、中国に進出している日本企業の景況感は急速に悪化している(図1)。中国進出企業の景気DIは2018年まで全体を上回って推移していたが、米中貿易摩擦の激化などもあり2019年以降に急減速。2020年1月の景気DIは直近のピークの2018年1月から13.7ポイント減少の40.4となり、反日デモから上向きはじめた2013年3月頃の水準まで低下している。

 企業からも「中国の新型肺炎の影響で、輸出量がかなり減っている」(運輸・倉庫)や「新型肺炎により商品供給の不安定化が懸念される」(繊維・繊維製品・服飾品卸売)など、企業活動に与える影響の広がりを心配する声が多く聞かれ、中国経済の一段の減速を想定している様子もうかがえる。

インバウンド需要は1〜3月期で約1422億円、関連業種を含め約2846億円の売上減少に

 中国政府は国内の旅行会社に対して、海外旅行の団体およびパック商品の販売中止を命じた(個人が個別手配する旅行は規制の対象外)。中国からの訪日外客数は2019年に約959万人に達し、そのうち団体および個人パック旅行は35.4%を占める。訪日客全体の30.1%が中国からであり、インバウンド需要の最も大きなシェアを占めている。国内景気が緩やかな後退を続けているなか、中国からの旅行客減少は日本の景気を下押しする要因となる。

 そこで、帝国データバンクが試算したところ、今回の措置にともなう2020年1〜3月期の中国人訪日客による日本国内での消費額は、直接的に約1422億円減少すると見込まれる。さらに、関連産業への波及を含めると、約2846億円に相当する売り上げが減少すると推計される。とくに宿泊など「対個人サービス」が最も大きく売り上げが減少し、「商業」「飲食料品製造」「運輸」「対事業所サービス」なども影響するとみられる(表1)。また粗付加価値額は約1491億円の減少が見込まれ、名目GDP(国内総生産)成長率を0.1%程度下押しする要因となる。ただし、中国政府は販売中止の期間を定めておらず、4月以降も継続した場合はさらに増大する可能性がある。

事業リスクへの備えに対する重要性が高まる

 2月24日、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は、新型肺炎の抑止について「これから1、2週間が瀬戸際」との見解を表明した。現在、政府や関係省庁、企業などが一丸となって新型肺炎の収束に向けて対応を進めている。帝国データバンクの実施した調査によると、事業の継続が困難になる想定として感染症リスクを認識していた企業は4社に1社程度にとどまり、必ずしも高いとは言えない状況であった(帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2019年)」)。また、日本経済における中国の存在は非常に高くなっており、さまざまな産業に影響を及ぼすことが今回の試算でも浮き彫りとなった。改めて、企業における事業リスクへの備えに対する重要性が高まっている。