新年あけてすぐに米ラスベガスで開催された最新テクノロジーの展示会「CES2020」。例年、多くのメーカーがさまざまな技術や製品の展示を行っています。

スマートホームに関する展示は大きく分けて2つ。1つはメイン会場に構えていた大手家電メーカーのブース。もう1つは別会場のスマートホームエリアです。ここでは、より現場感があったスマートホームエリアの展示から、「スマートホームの今」を紹介します。

CES 2020に出展した積水ハウスのブース


○デバイスは急増するも普及の波は緩やかに

スマートホームエリアは2019年同様の活況です。積水ハウスやTOTOなど、日本メーカーも2019年に引き続いて出展しています。また、例年に比べると生活家電を展示するブースが増加。スマートロックやスマートプラグ、Wi-Fi接続ができるさまざまな家電製品が数多く展示されており、盛り上がりを見せていました。

ただ、2019年にはなかった新しいプロダクトがあるかというと、残念ながらあまり見当たりません。一つ一つのプロダクトはより洗練され進化しているものの、スマートホームのさらなる普及につながるような、革新的なデバイスはあまりなかった印象です。

Amazonのブースは、キッチン、寝室、リビング、子ども部屋など、さまざまな生活空間におけるAlexa対応のスマートデバイスを展示


Amazonブランドのスマートオーブンも


一部の家電製品においては、あえてWi-Fi機能を搭載しないというアプローチも見られました。理由はシンプルで「年配者にとって難しい」(関係者談)という話。例えば「スマートロック」では、テンキーロックのみでスマートフォンからは接続できない製品が数多く展示されていました。

数多くのスマートデバイスを手がける米ringですが、今回は小休止


コンベンションセンターの大手ブースには未来を感じさせる展示も。これはハイアールのスマートクローゼット


TOTOはちょっと違うアプローチとして、トイレカーを展示。災害時やイベント会場などに設置できます


こうした流れは、「なんでもスマートフォンに接続する」という段階が終わり、本当にユーザーに使いやすい製品を考えた結果、一部の製品は「スマート」以前に回帰しているということのようです。

○欧米はDIYで広がり、アジア圏は新築のセット展開が中心

スマートホームの停滞感は正しいのか。スマートホームデバイスを数多く手がけ、日本を始めとしてグローバル展開しているLife Smart社のデニー・ドンCEOに話を聞きました。

多くのスマートデバイスの開発・製造を手がける中国のLife Smart社


Life Smart社のスマートデバイスは、日本ではソフトバンクやリクシル、東急グループのイッツコムが導入しているコネクテッドデザインなどが採用。また、賃貸マンション向けにスマートホームサービスを展開しているアクセルラボがフルセットで導入するなど、日本市場でも高いシェアを持っています。

デニー・ドンCEOは現在、スマートホームの普及速度が低下し始めていることは認めつつ、欧米とアジア圏では大きく構造が違うと語ります。

Life Smart社のデニー・ドンCEOに世界のスマートホーム市場について聞きました


デニー・ドンCEO:「アメリカやヨーロッパではスマートスピーカーがもともと普及していたため、IoT機器も普及が早いのです。ただし、これらの国で人気があるのは照明やカメラ、セキュリティ関連などに限定される傾向があります。理由として考えられるのは、欧米のユーザーはDIYが好きだということ。必要なデバイスだけ自分で取り付けています。スマートデバイスを一気にセットで付けるということがあまりありません。

それに対して日本や中国、東南アジアは自分で取り付けるDIY市場が大きくなく、新築物件にフルセットでビルドインされるケースがほとんどです。このため、現段階ではスマートデバイスの普及スピードは欧米より遅いのですが、新築物件ができるとき一気に多くのスマートデバイスが備え付けられるので、導入数は欧米よりも多くなると考えています」

現在Life Smart社では、100カ国以上に製品を出荷しており、20カ国以上で量産しています。まだまだ広がっていくと考えているそうです。

スマートホームの仕組みは、以下の段階で進んでいくと考えられています。

v1.0 音声や音声でその都度制御

v2.0 ルールを作ってワンタッチで制御

v3.0 ルールや使い方に応じて自動制御

現在はまだ、v1.0からv2.0への過渡期に過ぎないようです。

デニー・ドンCEOは、今後、スマートホーム市場をリードしていくのは中国だと語ります。残念ながら調査レポートなどがないため数字は出せませんが、注目しているのがセキュリティとオートメーションの2つ。中国市場はペットや高齢者、子どもの見守りニーズが高まっており、そこからの普及を期待できるそうです。

力を入れているというスマートデバイスをコントロールするための機器。Androidベースで開発されています


デニー・ドンCEO:「現在は各国の大手企業と協力して、スマートフォンでIoT機器を管理するアプリの開発に力を入れています。一般生活の中で、スマートホームやIoT機器のよさを感じてもらうためにも、ユーザー体験の強化が大切です」

○積水ハウスが始めた新しいスマートホーム

日本の住宅メーカー大手、積水ハウスも動きを見せました。2019年のCESにおいて、人生100年時代を踏まえた「プラットフォームハウス構想」を提唱した積水ハウス。「わが家を世界一幸せな場所にする」というコンセプトのもと、生活習慣やライフスタイルをさまざまなセンサーで取得する仕組みを開発しています。

2019年に続き、2年目のCES出展となった積水ハウス


積水ハウスの仲井嘉浩代表取締役社長は、積水ハウスが2020年に60周年を迎えること、同時に第3フェーズとして新生・積水ハウスがスタートする年だと位置づけています。

1960年から1990年までの30年間、積水ハウスは住宅の耐火性や耐震性といった安心安全を高め、住む人の生命や財産を守ることに力を入れてきました。そして、1990年から2020までの30年間は、断熱性やゼロエネルギー住宅、お年寄りから子どもまでに優しいユニバーサルデザイン、快適性を追求してきました。そしてこれからの30年で目指すのは、「人生100年時代の幸せ」(仲井氏)とします。

積水ハウスが重視したR&Dの歴史。30年ごとに変わっています


この幸せを実現するのが「プラットフォームハウス」です。積水ハウスでは、幸せを「健康」「つながり」「学び」の3つに分類。住宅から取得した、住環境データやライフスタイルデータと組み合わせることで、3つの幸せにつながるサービスを用意していくとしています。

最も力を入れているのが「健康」への対応。「健康は、急性疾患対応・経時変化・予防の3つに分けられます。急性疾患対応としては、自宅で発生した脳卒中や心疾患などの早期発見、緊急対応できる仕組みを考えています。経時変化としては、高血圧や無呼吸症候群などを対象に生体モニタリングして、病気の予兆の早期発見をサポートします。そして、睡眠や食事のデータをベースに健康に関するアドバイスを行います」(仲井氏)

例えば、日本では年間29万人が脳卒中を患っており、そのうち79%が自宅で発症しているそうです。現在、脳卒中には発症から4.5時間以内に使える治療薬があり、投薬によって後遺症が発生しにくくなります。この治療薬を使うためにも、早期発見が重要なのです。

脳卒中のほか、心疾患や事故(転倒など)も加えると、家庭内での死亡者数は年間7万人を超えるとのこと。命を取り留めたとしても、介護の問題が発生することも多いのです。少し話がそれますが、日本では就業者の5人に1人(約1,300万人)が隠れ介護をしているといわれており、それらが現役世代の介護離職にもつながっているそうです。

「在宅時急性疾患早期対応ネットワークHED-Net」について説明する積水ハウスの仲井社長


日本が速いペースで超高齢化社会を迎えるからこそ、世界的な課題でもある健康や介護を解決する必要があると仲井社長は語ります。そこで今回、新たに発表されたのがプラットフォームハウス構想の第1弾「在宅時急性疾患早期対応ネットワークHED-Net」です。

概要ですが、住む人のバイタルデータを非接触で取得し、異常を検知すると緊急通報センターが本人に確認。連絡が取れない場合は救急隊に出動を要請して、遠隔操作で玄関のロックを解除、救急隊を家に招き入れるという仕組みです。

積水ハウスでは、住宅を購入した50戸を対象として、「HED-Net」を実住宅に設置するパイロットプロジェクトをスタートします。積水ハウス プラットフォームハウス推進部長の石井正義氏は、「プライバシーの観点やストレスフリーのために、カメラやウェアラブル端末などは一切使用せず、今まで通りの生活をしてもらうことにこだわりました」と話します。

天井などに設置する非接触型のセンサー。室内の動きを細かく検知します


「HED-Net」では、天井などに取り付けたセンサーが心拍や呼吸など、非常に細かな動きを取得できるそうです。とはいえ、人によって寝る姿勢はさまざまですし、寝るときは布団をかぶっていますよね。室内には複数の人がいたり、人間以外にもペットやモノの動きがあったりします。

より精密なデータを取得するために積水ハウスは、非接触型センサーで取得したデータを独自のアルゴリズムで分析することで、心拍数や呼吸数を抽出。合わせて、住まいの暮らしに合わせた状況判断を行い、異常を判断するとしています。

キモとなるアルゴリズムは、慶應義塾大学 理工学部の大槻知明教授と協業して開発を続けているそうです。「どれくらいの身体異常で緊急連絡を行うかという、判断基準を作ることも大きなテーマと考えて取り組んでいます」(石井氏)

「2020年に生活者参加型パイロットプロジェクトを開始」(積水ハウスの石井氏)


積水ハウスが2019年に発表した「プラットフォームハウス構想」は、ラボや実験棟でのさまざまな実証実験を経て、2020年6年からは実住宅での生活者参加型パイロットプロジェクトへと向かいます。非接触型センサーなどにかかる費用の約100万円相当と、月額の利用料金は、積水ハウスが負担します。

体調の経時変化や病気の予防だけでなく、「つながり」「学び」のサービスも随時発表していくといいます


今回発表された「HED-Net」は、急性疾患対応のためのプラットフォーム。積水ハウスでは今後、「体調の経時変化」や「予防」に向けたサービスの開発も進め、完成しだい住宅にインストールしていく考えです。病気を「わが家」がいち早く見つけて対応してくれる――新しいスマートホームが生まれようとしています。