《ネットゲーム交際殺人》元ホストの容疑者、彼女とお金への異常な「執着」
「11月15日の夜9時少し前でした。外で男の人の大きな怒鳴り声がしたのね。なんて言っているのかは聞き取れなかったんだけど、そのすぐ後に女の人の悲鳴がしたのよ。声のほうに行くと階段の1階と2階の間の踊り場に女の人が倒れていて、お腹のところに包丁が刺さっているのが見えたんですよ。金属だから、キラッと光っていて……」
事件現場の商業ビルに入っている飲食店の女性従業員は、今もその光景が頭から離れないという。
「彼女を傷つけて俺も死ぬ」
周辺の店の店員がすぐに集まり、たまたま飲食店を利用していた救命士による心臓マッサージが始まったが……。
「女性は意識がない状態で、血が周辺にブワーッと広がっていましたよ。“タオル! タオルを持ってきて”って声が聞こえて、うちの店もほかの店もタオルを持ってきて、20枚、30枚があっという間に真っ赤になって……」
冒頭の女性がケータイで119番通報したという。
男に刺されたのは石澤結月さん(享年20)。新潟市内の病院に搬送されたが、約3時間後に死亡が確認された。このビルの2階のキャバクラに今年の7月ごろから勤務していたという。
刺した男は逃走したが、3日後の18日、同市内のコンビニ付近にいるところを駆けつけた警察官に身柄を確保された。殺人容疑で逮捕されたのは住所、職業不詳の齋藤涼介容疑者(25)。事件前「彼女を傷つけて俺も死ぬ」と母親に漏らしていたため、心配した母親が実家近くの埼玉県警上尾署に相談していたが、事件を防ぐことはできなかった。
「2人は『人狼殺』というオンラインゲームを通じて出会い、1年ほど前から7〜8か月間、交際していました」(共通の知人)
『人狼殺』というのは、数名のプレーヤーがゲーム上で村人か人狼(村人を装った狼)かを見抜くゲームのオンライン版のひとつ。互いに正体がわからない中で討論し推理。村人(多数)は人狼をすべて退治できれば勝利。人狼(少数)は村人と人数を同数にできれば勝利となるのが流れ。
2人ともプレースタイルには定評があり、いくつもの大会に出るなど、その界隈では人気のユーザーだった。
人狼殺はボイス機能を利用し、生声で会話しながらゲームができるのも魅力なのだが、
「齋藤は直接会うとおとなしいんですが、ネット内の討論中には急に口調が強くなったり、怒鳴りつけることもあった。石澤さんは明るくて、年齢は若くても気遣いができる、社会性のある子でした」
と前出の知人はその人柄を偲び、悔しそうに話した。
こじれの原因はお金
オフ会で顔を合わせ交際がスタートしたが、齋藤容疑者が石澤さんの交友関係に嫉妬したことなどから、次第に関係がぎくしゃくし始めた。
「彼女がパパ活をやっているんじゃないかと疑い出し、ケンカも増え、齊藤は不満を爆発させてSNS上に彼女とのLINEやプライベート情報をさらしたんです」(同・知人)
《今夜 人狼殺Twitterに爆弾を投下して消えます。僕には許す気がないです》《援助交際並びに交際の証拠》……そんな言葉と一緒に恋人のプライバシーをさらしていたが、
「齋藤は女グセが悪く、石澤さんと付き合っているときも、ほかの女性に声をかけていたそうです」(同・知人)
そんな事件をきっかけに、別れを切り出したのは齋藤容疑者だった。ところが石澤さんに仲のいい男性ができると、齋藤容疑者は嫉妬し……の繰り返しで、さらにこじれていったという。その最大の原因は金。前出・知人が明かす。
「石澤さんは“お金のことを言われている”と悩んでいました。男は“あんなにお金を使ったのに何もしてくれない”“返せ”などとしつこく迫ってきたそうです。デート代や旅行代など総額で100万円ほど。最終的に男は“お金だけでも返してほしい”と言っていたようです」
別れた恋人に、交際期間中の出費の返済を迫るという金への執念。
実はその一端は以前から垣間見えていた。齋藤容疑者はかつて東京・歌舞伎町でホストクラブに勤務していた。当時の彼を知る友人は、
「彼は成功願望が強かったんです。何かでお金儲けをして大物になりたい、とよく言っていました。“年金(保険)を納めても返ってこない”とか“ホストは女の子をだましてお金をもらうけど、そこまでしてほしくない”と言っていた。そして援助交際も毛嫌いしていました」
同じ店で働いたことがあるという元同僚ホストは、
「お客さんに言ったことが受け入れてもらえない、思ったとおりの返答がないと突然、態度を変えることがあった。お客さんに“なんで来ないんだよ”“こんなにしゃべってやっているのに”と理不尽にキレることもあって正直ヤバイやつだと思ってました」
突然、何をするかわからない不安定さ。周囲から煙たがられ数か月で辞めたという。
「ホストを辞めた後は義父が経営する会社で社畜状態だったそうです。小さいころ実の父親を亡くし、母親は再婚したそうですが、義理の父親との関係はあまりよくなかった。自殺願望もあり、精神的にも不安定だった」(前出・友人)
ジュノンボーイに応募
ホスト時代は、若手ホスト数名でYouTube番組にも出演し「イケメンですよね」と褒められると、まんざらでもない表情を見せていた齋藤容疑者。「目標はあります。なければホストをやっている意味がない」と言い切っていたが、具体的に目標が何かを明かすことはなかった。
別のホストクラブで一緒だったという元先輩ホストは、
「あまり目立つタイプではなかった。気になったのは、人の言うことに対して反対のことを返してくるんです。天の邪鬼というか……」
石澤さんに別れを切り出しておきながら、石澤さんがほかの男性と仲よくなると嫉妬する、彼女が復縁を望むと突き放す、という癖は、ホスト時代から見透かされていたのだ。過去には別の女性をストーカーし、警察に「警告」されたこともあったとの報道もある。
ホストになる前には、弊社発行の月刊誌『JUNON』が主催するコンテスト「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」に応募していた。イケメンには自信があったのだろうが、ファイナリストに進むことはなかった。
事件前は人材派遣会社に登録し、神奈川県藤沢市のワンルームアパートに住んでいたとみられる。しかし、犯行現場の新潟へは、連れ戻された実家の埼玉県上尾市から向かった。約2時間の道のりでも冷静さを取り戻すことなく、上尾市で購入した包丁で元恋人の胸を突き刺した。
石澤さんは親しい友人に、将来の夢をこんなふうに明かしていたことがある。
「理容関係です。(ヘア)スタイリストとして働きたいと言っていました。気がきいて、いつも明るくてすごくいい子でした。それがこんな形で亡くなるなんて……」
娘を奪われた石澤さんの遺族は「娘を返してほしいと言いたいです」と悲しみのコメント。送検時にあくびをしていた容疑者に遺族の悔しい思いが届いたかは疑わしい。