広瀬すず

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「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。ライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。

第30回 広瀬すず

 NHK連続テレビ小説100作目の『なつぞら』。ヒロインを女優・広瀬すずが演じています。視聴率も好調なようです。

【写真】ミニスカ姿で子どもの運動会に参加する広末、打ち上げでの広瀬すず

 その広瀬すずが、番組の公式ツイッターアカウントが配信した動画がもとで、ちょっとした炎上に巻き込まれたことをご存じでしょうか? 番組内で、広瀬演じるなつが出産し、母となります。動画では、出演者である新生児の赤ちゃんを、夫役の俳優・中川大志がおそるおそる抱っこします。その真剣さ、ぎこちなさがおかしかったのでしょうか、広瀬が指をさして笑っています。この行動に、ネットでは「性格が悪い」とか「人としてどうか」という意見が上がりました。

 広瀬の発言は、前にも物議をかもしたことがあります。

 2015年に『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)に出演した広瀬は、「どうして生まれてからオトナになったときに、照明さんになろうと思ったんだろう」「マイクもすっごい腕が疲れるのに、(音声さんは)なんで自分の人生を女優さんの声を録ることにかけているんだろうと」「きっとオトナになって年齢を重ねるとともに『本当に棒を……声を録るだけでいいの?』って思わないのかな」と発言。共演者であるとんねるずは笑っていましたが、ネットでは「スタッフを軽視している」「人の気持ちがわからない人」と叩かれ、広瀬はツイッターで謝罪したのでした。

 一緒に仕事をしているスタッフを軽く見るとは、ヤバいオンナだとネット民は思っているようですが、私はそうは思いません。

 広瀬のような演者はたとえ主役だろうがちょい役だろうが、作品を通して自分の名前を世間に知らしめるのが仕事です。しかし、照明さんや音声さんは個人名が出ることはないでしょうし、「この映画はオレが担当した」というような自己主張をするような人には、向かない仕事だと思うのです。

 もし、広瀬が制作スタッフを「表に出ることはないのに、地味な仕事をなぜこんなに一生懸命にしているんだろう」と思ったのだとしたら、それは周囲のスタッフたちがそれだけプロフェッショナルな仕事をしていた証拠と言えるのではないでしょうか。

 動画の件も、ちょっと考えすぎだと思います。確かに指をさすという行為は、あまりお行儀がよいとは言えませんが、周囲に対して「中川を見て」という意味の指差しであり、侮辱だと私は思いませんでした。

 私に言わせると、「人の気持ちがわからない人」よりも「人の気持ちがわかる」と言える人のほうが、よっぽどヤバいと思います。他人の気持ちは見えませんし、自分の予測が当たっているかどうかを確かめようがありません。それなのに「人の気持ちがわかる」と言いきってしまうほうが、よっぽど傲慢だと思います。

内面をとやかく言われるのは美少女の宿命

 それでは、なぜ広瀬の性格がネットで物議をかもすかと言えば、これは美少女の宿命だと思うのです。広瀬すずだけでなく歴代のスターも、もてはやされる一方で、内面をとやかく言われることはよくあります。

 例えば、女優・広末涼子。透明感のある美貌で清純派として人気を集めましたが、10代後半から、スキャンダルに見舞われます。モデル・村田充(現在の神田沙也加の夫です)、俳優・伊勢谷友介など、次々に熱愛が発覚。短期間で恋愛を繰り返す彼女に対し、「広末は肉を食べると性欲が増してしまうので、事務所から肉禁止令が出ている」という説が都市伝説的に出回ったことがありました。

 冷静に考えてみれば、広末本人が清純派を名乗ったわけではありませんし、清純派であったとしても恋愛くらいするでしょう。にもかかわらず、彼女が叩かれたのは、私たちが持つ“バイアス”のためではないでしょうか。

 私たちは無意識にバイアスをかけて、世の中や人を見ています。なので、同じ行動や発言をしても、Aさんは怒られるのに、Bさんは何も言われないという現象が起こるのは、このためです。

 例えば、年収1億円の人が「幸せはカネでは買えない」と言ったなら、1億稼ぐ能力に加え、人間的な深みもあると好意的に受け止められるのではないでしょうか。反対に、健康面などに問題がなく、働けるのに仕事をしていない人が「幸せはカネでは買えない」と言ったら、まずは働けよ、口ばかり達者なやつだと思われてしまう。一般的に言われるところの性格というのは、言動ではなく、社会的なポジションから作られることも多いのです。

 女性の場合は、外見も大きなバイアスの要因となります。アメリカのコーネル大学の研究発表によると、陪審制度を取るアメリカでは「被告人が美しい女性の場合、判決に影響する」という研究結果が出ているそうです。「美人は内面もよい」というバイアスがあるから、このような結果になるのだと思います。

 このバイアスのおかげで、広末や広瀬のような美少女はデビュー当初はあがめられますが、その一方で、「美人は性悪に違いない」という正反対のバイアスも存在するのです。

 上述した「被告が美しい女性の場合、判決に影響する」ケースには例外があり、女性が結婚詐欺を働いた場合、非美人が同じ罪を犯したときよりも、陪審員の心象がより悪くなることが明らかになっています。

 美少女だからこそ持ち上げられ、ほころびのようなものを見せれば叩かれる。二人が経験したバッシングは、“美少女税”と言えるのではないでしょうか。

新しい価値観を先んじて持っていた広末

 美少女納税の先輩、広末は2003年、モデル・岡沢高宏と妊娠が先の結婚をします。岡沢がモデルとして本腰を入れているように見えなかったことや、収入格差の点から離婚がささやかれていましたが、実際に離婚。その後、キャンドルアーティストのキャンドル・ジュン氏と2010年に再婚して、3児の母となります。

 なぜ広末はわざわざ経済力のない男性を選ぶのかと話題になりましたが、2017年に『踊る踊る踊る!さんま御殿!!超豪華3時間SP』(日本テレビ系)に出演した広末は、家事をしてくれた現夫に「ありがとう」と言うと、「お礼は言わないで」「特別なことをしたわけじゃないから」と恩に着せることはみじんもないそうです。

 経済力よりも、夫に家事能力や威圧感のなさ、優しさを求める。これは現代の婚活中の女性が求める条件のひとつです。広末のような美少女税を納めるレベルの芸能人は、今ある価値観に沿うのではなく、新しい価値観を作る力を持っているのではないでしょうか。

 人がどう思うかを常に考えて行動するのは、凡人のすること。美少女税を払うクラスの芸能人は、「私の生き方に染まれ」くらいの強さがあることも魅力のひとつだと思うのです。

 広瀬が出演した映画『海街diary』は、第39回日本アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞しました。照明や音声といったスタッフも誇りに思っているでしょう。広瀬自身も新人俳優賞を受賞し、若手女優として順調にステップアップしています。

 性格には肩書や社会的実績のバイアスがかかることを考えると、成長著しい広瀬と、おとなしいけれど話題にもならず、賞も取れない女優とでは、スタッフにとってどちらが「いい人」なのかは、言うまでもないでしょう。

『週刊女性』が今年行ったアンケート企画「嫌いな女性芸能人」で10位にランクインしてしまった広瀬すず。若くして嫌われるのも、大物たる所以(ゆえん)。外野の声は気にせずに、まい進してほしいものです。……って多分気にしてないと思うけど。

プロフィール

仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に答えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」。