筆者はトランプ大統領がイランとの戦争に踏み切る確率は決して低くないという。それはなぜか(写真は25日の国防総省の式典に臨むトランプ大統領:AP/アフロ)

7月30-31日のFOMC(米公開市場委員会)でのFFレートの0.25%以上の利下げが確定的になった。アメリカの金融市場では薄商いの中でのユーフォリア(陶酔)が続いている。

だが、それとは裏腹に、心配されるイラン情勢は緊張が継続している。上院は7月23日にジョン・ボルトン氏と旧知の仲のマーク・エスパー氏を新防衛長官として承認した。時を同じく大西洋を渡った英国では、ドナルド・トランプ大統領と仲がいいとされる、ボリス・ジョンソン氏が晴れて首相に選ばれた。

なぜアメリカはそこまでイランを追い詰めるのか?

これを受け、こちらの一部の気の早いドナルド・トランプ大統領の支持者は、「これで米英アングロスフィア(英国と言語文化を共有する世界)がイラン等の世界の悪者をやっつける」と息巻いている。だが、当のトランプ大統領本人は、今のところお得意の「のらりくらり」を継続している。

17日はイラン使節団がニューヨークでの国連会議に出席したが、国務省は国連の周りのわずか「数ブロック」だけにとどまることを条件とした滞在ビザしか発行しなかった。その際、トランプ大統領から密命を受けたとされるリバタリアン(自由至上主義者)のランディー・ポール上院議員が、表向きは「個人」として一行を訪ねている。

中東情勢に詳しい「AL Monitor」によれば、モハンマドジャバド・ザリフ外相との間で、イランが核開発をしない条件が議論されたとされる。すばらしい。だが話はそう甘くはない。なぜなら、アメリカは同じタイミングで、16年ぶりとなる米兵のサウジアラビア派遣を発表した。

ここで「なぜアメリカはイランをここまで追い詰めるのか」という話で、あまり日本では言われていないことを捕捉しておきたい。まず、よく話題になるのは1979年のイラン革命で、アメリカは大使館員を人質に取られ、「超大国の面目を潰された」という感情論である。

だが、アメリカはそれに遡ること1953年の政変で、イランの石油権益を英国から取り戻したムハンマド・モサデク首相を、CIAとMI6が共同で追い落とし、その時にペルシャ帝国の誇りをズタズタにした経緯を認めている。バラク・オバマ大統領は2015年の核合意の際、間接的にアメリカの責任を認めたのだ。問題は、旧アメリカ大使館が未だにイランに占領されたままであることだろう。

そしてもう一つが、イスラエル援護説である。もちろん、イスラエルがイランの核開発を容認しないのは当然である。だが、イスラエルは本当に強硬派のボルトン氏が主張する、イランのレジームチェンジ(体制変革)まで望んでいるだろうか。実際、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はシリアを挟んでイランを擁護するロシアやトルコとの関係も重視している。

さらに、今でこそイスラエルはスンニ派のアラブ諸国と、トランプ政権の仲介で表面上は友好的になっているように見える。だが「カショギ事件」を見るまでもなく、アメリカではリベラルと民主党はムハンマド・ビン・サルマン皇太子(MBS)の現サウジ政権を快く思っていない。

ならば、アメリカが民主党政権になった場合、サウジはどう出るのか。イスラエルが安穏とすることはできない。むしろ、1980年のイラン・イラク戦争でイスラエルがイランを武器供給で援護したように、ある程度イランが強く、アラブ諸国と永遠に敵対してくれる方が有利なはずだ。

イスラエルとしては、「イランが核を持たない」「ヒズボラやハマスを援護しない」、などが担保されるかどうか。1980年当時、その策略にまんまと乗ってイランと戦争を始めたサダム・フセインを「アラブの大バカ者」と罵ったのが、あのオサマ・ビンラディンだ。結果、彼がアルカイダを立ち上げるきっかけとなった米軍のサウジ駐留をここにきて16年ぶりに増強するというのは、歓迎すべき話ではない。

サウジにとって、今のイランは「天敵」

そして問題は、仮に奇跡的にイスラエルとイランが妥協できたとしても、サウジはそうはいかないことだ。サウジは、伝統的に国王は親米だが、国民は過激思想を内包する二重構造だ。国民を潤していたオイル収益に陰りが見える今、親米だったパーレビ国王を追い出し、宗教家のホメイニ氏を選ぶ革命を成功させたイランの二の舞は困る。

つまり、サウジにとって今のイランは、「スンニ」「シーア」の宗派対立を超え、王室の体制維持でも、絶対妥協できない天敵である。このサウジと前回のコラム「トランプ大統領の敵は中国でもイランでもない」で紹介したミアシャイマー教授の言うところの、イラクとシリアという低いところに成っている実を中途半端に処理した人々。彼らは結果的にイランの勢力を助長してしまった。

ならば、彼らはトランプ大統領の意向に関係なく、最後までイランのレジームチェンジを諦めない可能性が高い。大統領が誰であっても教理が揺るがないボルトン氏。また政治家として、次の次あたりを睨んでいるマイク・ポンペオ氏。彼らは、イラン革命前にアメリカに来た100万人超のイラン系アメリカ人、そして国家としてイスラエルの保全がキリストの復活につながると信じる「ジュデオ・クリスチャンシオニスト」(Judeo-Christian、福音派に多い)を前に、強硬的な態度を続けている。

ならば、このような面々に囲まれているトランプ大統領は、今後どのような態度をとるのだろうか。個人的な願望だが、アメリカの大統領にあるまじき態度と批判されるあのキャラこそが最後の望みではないか。22日の新興メディア「AXIOS」には面白い逸話があった。3月のセントパトリック記念日、友好国アイランドの首相がホワイトハウスを訪問したとき、両国のスタッフ一同が大統領執務室に集まったところで、トランプ大統領はボルトン氏に向かって、「ジョン、君の(侵略予定国)リストにアイルランドは入っているのか」とジョークを飛ばしたという。

もしもトランプ大統領のこの性格が功を奏し、イラン戦争が回避されるなら。個人的にはトランプ大統領は本当にノーベル平和賞がふさわしいと思う。だが長年相場を見てきた立場での心配は、共和党大統領のパターンを、トランプ大統領も踏襲してしまう可能性である。

戦争国家としてのアメリカは「健在」

1992年の再選を前に、パパブッシュは1991年に湾岸戦争に踏み切った。そして2004年の再選を前に、2003年にG・W・ブッシュ氏はイラク戦争を始めた。金融市場だけをみると、どちらのケースでも開戦の号砲とともに株は上がった。

当時G・W・ブッシュ大統領は、共和党のセオドア・ルーズベルト大統領の、「正義と平和のどちらかを選べと言われたら、私は正義を選ぶ」という言葉を座右の銘にしていた。また民主党で穏健進歩主義者のイメージのW・ウイルソン大統領が第1次世界大戦に参加するために掲げたのは「戦争を終わらせるために戦争に参加する」だった。

どちらにしても、アメリカは戦争国家である(少なくとも大負けするまで)。今の株式市場のユーフォリアの一因には、仮にイランとの戦争になっても、株は下がらないだろうとの経験則がある。

ただしパパブッシュは湾岸戦争に勝利したにもかかわらず、再選に失敗した。トランプ大統領がイラン攻撃に消極的な理由は、外部の関係者(FOXチャンネル)が「イランとの戦争は選挙にマイナスになると警告したから」だといわれている。ありがたい。ただしリベラル誌のVOXの記事によれば、大統領がこのレールにとどまるには3つの条件があるという。ヽ価が安定していること△匹鵑閉発を受けてもイランがアメリカ人を殺さないことウラン濃縮を20%までにとどめること。である。

この望みを支えるのは、現在トランプ大統領の支持率が45%と安定していること。先物市場ではトランプ大統領の再選成功率は、民主党のジョー・バイデン氏が名乗り上げた直後は民主党候補(再選失敗の確率)に20ポイントも離されていたが、今は7ポイント差まで縮まった。

ならば、今あえてイラン戦争という「危ない橋」を渡る必要はない。それよりも基本戦略に固執する。そのために中国との妥協を探っているのであり、基本戦略は、経済(株式市場)をケアしながら、移民問題(国境の壁)では強気な態度を継続。そして選挙戦本番では、民主党に対抗し、よりやさしい健康保険制度を掲げることだ。(当初の共和党案は、オバマケアの強制加入を否定した上で、疾病者が後から保険に入れるという、市場原理からは外れた内容だった)

利下げは0.5%の確率が高い

ここで株式市場の状況を解説すると、決算シーズンが始まった今、ガイダンスで下方修正を出す会社の多くは、その理由として米中貿易の不透明に加え「ドル高」をあげている。

トランプ大統領のFEDへの乱暴な利下げ圧力は、このあたりを意識してのことだろう。そこでトランプ大統領に批判的なブルームバーグは、「ジェローム・パウエルFRB議長は、暴君ネロに仕えたストア派哲学者のセネカのようだ」と擁護している。そしてパウエル議長は、利下げを示唆したスピーチに先だち、「われわれも金融政策でミスをすることもある。だがIntegrity(道徳・倫理)とcharacter (人格)でミスをすることはない」と断言した。

ここでの「ミス」とは、昨年12月の利上げのことである。よって30-31日のFOMCでは、その調整としての0.25%の利下げは確定的。もしWSの銀行を株主に抱えるNY連銀のジョン・ウイリアムズ総裁の主張「弾丸が限られているなら先制攻撃の方が有効」という議論が通れば、0.5%の利下げもありうる。個人的にはその確率は5割以上あるとみている。

いずれにしても、株式市場のマネジメントでトランプ大統領を見て感心するのは、大統領はAIが先導する今の市場の特徴をよく理解していること。挑発的に悪材料をツイートして株の下落を誘うが、頃合いを見て妥協している。流動性がありあまっている今の市場では、事前の高値を超えたショートカバーになる。このあたりはさすがカジノ経営者。参加者を殺さず、儲けさせ過ぎず、休ませませない。 

一方で民主党の戦略は、今のところ足並みがそろっていない。ナンシー・ペロシ下院議長がジレンマに陥っているのは、予備選で進歩主義者の挑戦を受けるベテラン議員が大統領の弾劾を諦めない一方で、逆に4人の若手女性議員に代表される進歩主義者は、極端な社会主義政策を掲げていることだ。そのどちらもまだ効果が出ていない。

その証拠にアレクサンドリア・オカシオ・コルテス(AOC)下院議員の「国境を開放しろ」との寛容すぎる移民政策は逆効果だった。直近の調査では、彼女の支持率は地元NYの選挙区で21%へ急落。不支持は40%を超えた。

また、ミネソタ州の選出でイスラエル強硬派へ敵対的な態度をとるソマリア出身のイルハン・オマル下院議員の支持率はなんと9%まで下落。不支持は50%まで拡大した。このチャンスをトランプ大統領が逃すはずがない。リベラル系高級紙のATLANTICは、アメリカ人の80%が「ポリティカルコレクトネス」(差別や偏見などに基づく社会制度・言語表現は是正すべきとする政治的な考え方)に反感を感じているとを嘆いたが、トランプ大統領の女性議員に対する「国に帰れ」の発言は、実はこのあたりのアメリカ人の心理を計算してのことだ。 

では、このままイラン問題はなんとかなるのか。残念ながら、個人的な予感はノーだ。特に、株が下がり、経済が悪化してくるとその確率は高まる。 では起きてしまった場合、どんなことが起きるか。2003年のイラク戦争で上がったものは株だけでない。商品相場を網羅したCRB指数は、2008年のリーマンショックまでの4年間で3倍になった。

もしサウジとイランの両方の石油施設が攻撃されたら

今、世界の中央銀行はインフレ目標に届かないという理由で緩和策を続けている。原油は余っているが、サウジとイランの両方の石油施設が攻撃されても、原油価格は大人しくしているだろうか。そしてイランが攻撃を受けた場合、イランはマルウェア「スタックスネット」で自国の核施設が攻撃を受けてから、自分で世界有数のサイバー攻撃部隊を整えた。

いずれにしても、何らかの理由で生活物資が値上がりするインフレが起これば、現在世界で進行中の中央銀行による緩和策は、ガソリンを積んだ消防車のようなものだ。中央銀行は今の緩和策は継続できないだろう。そんなことになれば、トランプ大統領の再選は窮地になる。その前に、リーマンショック以来、中央銀行のサポートの中で続いていた市場のユーフォリアは終わる。

キリスト教と英語をコアにしたアングロスフィアは、彼らがファシズムを倒し、共産主義から世界を守ってきたという自負がある。衰えたとはいえ、国土の小さい英国はアメリカ以上に覇権主義時代の名残があり、英国の地政学者ハルフォード・マッキンダーのハートランド理論では、イランの国土は最後の聖域の一つ。今日EUからの合意なき離脱のインタビューに答えたボリス・ジョンソン氏は、「英国は臆病になっている。今はCAN DO精神が必要だ」と言っていた。そして、そのハートランドとほぼ重なっているのが中国の一帯一路である。

今、この地域の思惑を整理すると、.ぅ薀鵑話羚颪妨玉を輸出中国はロシアにインフラを輸出ロシアは中国に天然ガスを輸出。そして北朝鮮はイランに武器を輸出する可能性がある。これらの経済活動を、ドルを使わず中国元やそれを担保する金で決済すれば、金は上がりドルの支配は揺らぐ。そうなればトランプ大統領個人の去就など関係なく、「アメリカ特別主義」(アメリカは世界平和に貢献できる唯一の特別な国であり、だからこそ積極的に世界の問題に関わり、世界を平和に統治しなければならないという覇権主義)の信者たちも動くだろう。