東京都が朝の通勤時間帯に、船を通勤手段として活用するための社会実験を行います。川や運河に多くの船着場がありながらも、ほぼ観光でしか利用されていないなか、「船通勤」実現の可能性はあるのでしょうか。

船会社にとっても初めての経験

 東京都が2019年7月24日(水)から8月2日(金)までの平日8日間、「真夏のらくらく舟旅通勤」と題した社会実験を行います。中央区内で、朝の時間帯に乗合の小型船を通勤の手段として運航するというものです。


社会実験に使われる船のひとつ「エスエスNANO1号」。定員40名(画像:東京都)。

 船は日本橋のたもとにある日本橋船着場と、晴海地区にある朝潮運河船着場のあいだをノンストップで、7時30分から9時まで15分間隔にて運航します。所要時間は乗降時間を含めて30分から40分ほど。乗船にはWEBでの事前予約が必要で、立席はありません。なお、実験期間中は無料で利用できます。

 日本橋や朝潮運河に限らず、湾岸地区や、隅田川、荒川といった東京の川沿いには多くの船着場が存在します。これらを結ぶ「水上バス」と呼ばれるものもありますが、おもに観光を目的としたものです。船が今後、通勤を支える交通インフラとして活用されるのか、実験を主導する東京都の交通企画課 交通プロジェクト担当に詳しく話を聞きました。

――東京で「通勤」に使われる船というのは、これまでなかったのでしょうか?

 少なくとも都内の舟運(しゅううん。河川や運河を利用した水運)は、観光を主目的とした移動や、クルーズという形での運航が主体で、通勤に使われるという発想自体はありませんでした。今回は複数の事業者に運航を委託して行いますが、これら事業者にとっても、15分間隔で運航するというのは初めてです。

――なぜ実験を行うのでしょうか?

 都が2016年度から5年の期間を定めて行っている、舟運の活性化に向けた取り組みの一環です。河川などの水質や環境がよくなってきたことを背景に、舟運を含め水辺空間全体の活用方法を検討しており、これまで観光利用を目的とした新航路の実験運航を8路線行い、うち3路線は実運航に移行しています。成果も出てきているなかで、今度は通勤で利用できないかということになりました。

鉄道やバスの混雑緩和につながる? 五輪期間中の運航も視野

――船は電車やバスの代替になり得るのでしょうか?

 鉄道の輸送力は大きすぎて比較になりませんが、大型船ならば、バスと比べられるくらいの輸送力を確保できるかもしれません。所要時間でも、区間によっては鉄道やバスと大きく変わらない時間で結ぶことができます。ただ大型船を運航できるかは川の幅や深さにもより、今回のルートの一部である日本橋川は狭いため、40人乗り程度の小型船が限界です。

――本運航となった場合、運賃はいくらでしょうか?

 現在のところ未定です。実験を通じ、いくらくらいなら利用したいか聞いていきたいと思います。日本橋船着場の最寄り駅は三越前駅、朝潮運河船着場の最寄り駅は勝どき駅ですが、両駅のあいだは地下鉄で269円(ICカード運賃)です。このあたりがひとつの参考にはなるものの、運航を民間に委託した場合は採算性の問題もありますので、検証が必要です。

――都内にある多くの船着場も今後、通勤に活用されるのでしょうか?

 鉄道やバスと比較した所要時間の問題もありますし、船着場が駅から離れているなど、不便な場所にあっては乗ってもらえません。可能性のある場所、区間を探っていきます。


日本橋〜朝潮運河間で実験運航が行われる(画像:東京都)。

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 東京都の小池百合子知事は2019年6月の記者会見において、今回の実験区間ではすでに鉄道やバスが走っているものの、そこへさらに船が加われば、混雑度をさらに下げることができ、加えて東京における水辺の魅力を実感できるとしています。

 交通プロジェクト担当も、各種交通機関の混雑が予想される2020年「東京オリンピック・パラリンピック」期間中、あるいはその後の運航も視野にあると話します。「今回の実験は、舟運の事業者にとっても通勤に利用するという考えがなかったところに、第一歩を踏み出すものです。まずは可能性を探っていきます」とのことです。