バナナが突然食卓から姿を消す日はいつ来てもおかしくない
by Thomas Hawk
世界中で愛されるバナナは、年間80億ドル(約8600億円)規模の産業を支える商品作物の1つであり、毎年世界中で1000億本以上も消費されているといわれています。そんなバナナの品種で最もよく栽培されている「キャベンディッシュ」種がすぐにでも滅んでしまうかもしれないと、科学系メディアのLive Scienceが警鐘を鳴らしています。
Are Bananas Doomed?
キャベンディッシュ種は、おしべとめしべを用いた有性生殖ではなく、苗木から育てる栄養生殖で栽培されます。栄養生殖の場合、成長する個体はすべて同一個体のクローンとなるため、1つの病原菌に対してなすすべなく全個体が滅んでしまうという可能性を秘めています。フランスのBioersity International(国際生物多様性センター)の上級研究職員であるニコラス・ルー氏は「キャベンディッシュ種にとって最も危険な脅威は2種類の病原菌だ」と指摘しています。
by Mike Mozart
キャベンディッシュ種を脅かす病原菌の1つが「フザリウム属菌」と呼ばれるカビの一種です。フザリウム属菌はバナナに限らず、トマトやキュウリ、メロン、イチゴ、カボチャなどに病害をもたらす菌。もともとキャベンディッシュ種は、かつて主流だったグロスミッチェル種が1950年代にフザリウム属菌由来のつる割病で壊滅的な打撃を受けたことをきっかけに開発された品種で、フザリウム属菌に耐性を持つように品種改良されています。そのため、20世紀半ばからグロスミッチェル種にとってかわり、世界で最も食べられるバナナとなりました。
by Scot Nelson
しかし、1990年代に新種のフザリウム属菌による萎凋(いちょう)病が確認されました。この新種の菌は茎に侵入すると植物の水供給を遮断し、最終的に枯死させてしまうとのこと。効果的な対処法は見つかっておらず、土壌中の胞子を駆除するためには土壌まるごと消毒する必要があり、一度農園の土壌が汚染されてしまうと病気のまん延を止めるのは難しいそうです。
新種のフザリウム属菌はオーストラリア、東アフリカ、中国、インド、台湾のバナナ農園でまん延しているとのこと。もし、輸出量世界一のエクアドルにもまん延してしまった場合、キャベンディッシュ種の栽培は事実上終わりを迎えるだろうとルー氏は述べています。
そして、キャベンディッシュ種にとってもう1つの脅威が「Mycosphaerella fijiensis」という真菌です。Mycosphaerella fijiensisに感染すると葉が黒く変色する「黒シガトカ病」を発症し、果実の収穫量が大幅に減ります。空気感染するMycosphaerella fijiensisは気候変動によって拡散スピードが上がっていて、一部の地域では感染リスクが1960年からおよそ50%も上昇しているとのこと。感染しても殺菌剤を噴霧することで対処できるそうですが、近年は殺菌剤に耐性を持つ菌も確認されているとのことで、効果的とはいえないようです。
by Scot Nelson
ルー氏は、栽培品種が1つの種に偏ってしまうことでバナナ栽培が窮地に追い込まれていると指摘。「私たちは、地元の市場で見つかるすべての品種のバナナを栽培するように、バナナのブリーダーを説得しています」とルー氏は述べています。
カーディフ大学の生態学者であるサンダーソン・ベラミー氏は「長期的な変化を生み出すのであれば、バナナの農法を変える必要があると考えています」と主張しています。バナナは大規模農園で単一栽培され、大量の人員で収穫されるのが一般的。しかし、ベラミー氏は「多様な作物と一緒に小規模な農場で栽培するべきです。価格は高くなりますが、農場の豊かな多様性は病原体に対して回復力があり、農薬も少量で済みます」と述べ、「持続不可能な農業システム全体にとって、キャベンディッシュ種に降りかかる惨事からさまざまな教訓が得られると信じています」と語りました。