「「言葉を書く」ロボットを米研究チームが開発、その驚きのペンさばき(動画あり)」の写真・リンク付きの記事はこちら

ヒトがほかの動物に対して保ちたい優位性のひとつが、その複雑な言語である。ヒト以外の生物であっても、互いに“話す”ことはあるかもしれない。だが、人間の言語は文法に基づく極めて複雑な書き言葉も含め、さまざまな要素を備えている。

もちろん、ヒトはロボットに対しても優位に立てるだろう。ロボットには感情がなく、小説を書くこともできない。少なくとも現時点では──。

このほどブラウン大学の研究チームが、言語学的に困難な課題をいとも簡単にこなすロボットを開発した。このロボットは日本語を手書きする訓練を受けたにもかかわらず、初めて見る言語で書かれた言葉まで書き写すことができる。ヒンディー語、ギリシャ語、英語といったロボットにとって“未知”の言葉を、手書きの手本を見るだけで書き写していくのだ。

しかも、英語は楷書体と筆記体で書くこともできる。そしてなんと、ラフスケッチで描かれた「モナリザ」まで模写してみせた。

VIDEO BY ATSUNOBU KOTANI

手書きは二足歩行と同じように人間がもつ単純な能力に思えるが、実際はとても複雑である。文字を書くには、書き始める位置、書く線の長さと向き、そして書き終える位置を把握していなければならない。場合によっては文字の途中でペンを離したあとで、再び書き始める位置を理解しておく必要がある。アルファベットの大文字の「A」などがそうだ。

このため、子どもに書き方を教えるには、単に手本を見せてそのままにしてはいけない。それぞれの文字の書き方を説明する必要がある。

「そこからは、文字を書くために必要な書き方や筆順といった小さなアルゴリズムが見えてきます」と、ブラウン大学でロボット工学を研究するステファニー・テレックスは言う。テレックスは同じ大学に在籍する小谷篤信と共同で、このシステムを開発した。「わたしたちのアルゴリズムは、こうして書くことを学習しているところなのです」

「未知の言語」も書き写す

ブラウン大学の学習システムは、ふたつのモデルに分かれている。このうち「ローカル」モデルはペンの動きを担当しており、正しい方向にペンを向けたり、どのようにペンを動かして書き終えるのかを判断したりする。「グローバル」モデルは、文字を構成する次の線にペン先を移動させる担当だ。

研究者たちはロボットを訓練するために、日本語のコーパス(自然言語の解析用に文章を構造化したデータの集合)を学習させたうえで、文字を構成する線の扱いについての情報を与えた。「これらの情報を基にロボットは画像のピクセルを捉え、ペンをどこに動かして線を書き始めるのか、書きながら次にどこに移動するのかを推測することができます」と、テレックスは説明する。

次に研究者たちは、あえてロボットを混乱させてみることにした。ホワイトボードにヒンディー語、タミル語、イディッシュ語で「こんにちは」と書いたのである。しかも、3つとも筆跡は異なる。

すると驚いたことに、ロボットには日本語を書く訓練しか受けていないにもかかわらず、すべてマシンヴィジョンで認識し、自力で書き写して見せたのだ。さらに、楷書体の英語に加えて筆記体を見せたところ、どちらもうまく書き写すことができた。

子どもの筆跡も何のその

続いて研究室には、幼稚園児たちがやってきた。さすがに園児が書いた文字を書き写すことは無理だろう──と思いきや、ロボットは楽にこなしてみせた。「6歳児が書いた多少うねうねした文字を書き写すのを見て、驚くばかりでした。それを見たことも学習したこともないのですから」とテレックスは言う。

とはいえ、小谷がホワイトボードに描いたモナリザのラフなスケッチを描き写すのは、さすがに無理ではないだろうか? ところが、このロボットはそう簡単には混乱しないのだという。「ロボットがモナリザを模写したのは8月のことです。研究室のホワイトボードには、まだ残っていますよ」と、テレックスは言う。

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ただし、誰にでも弱点はある。研究者たちは左から右へと書き進む日本語の文章でロボットを訓練したので、同じような書き方をする英語にも応用することができた。ところが、右から左へと書く言語では、うまくいかないのだ。

それでも今回のデモンストレーションは、人間の手(いまではロボットもだ)によって生み出された多種多様な言語や書体に相互につながりがあることを示せた点で、注目すべきものだったと言えるだろう。またこれは同時に、ヒトと機械とをつなぐ新しいコミュニケーション手段を切り拓くステップでもある。

いますぐとはいかないが、いつかはヒト型ロボットがメッセージをプリントアウトして吐き出すのではなく、手書きのメモを渡してくれる日が訪れるだろう。