著作権法を見直し私的録音録画補償金ではなくフェアユース規定での運用がクリエーターにも消費者にもベスト:旅人目線のデジタルレポ 中山智
旅人ITライターの中山です。以前文化庁の「文化審議会著作権分科会 著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会(さらに)(4回)」を傍聴・取材した記事を書きましたが、その後も小委員会は定期的に開催され、2月1日の第7回で審議経過報告案の修正を承認。平成27年度から続いた審議に「一応」のまとめが成されました。
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「一応」としたのは、結局今回の争点は「クリエーターへの適切な対価還元について」ではなく、補償金対象をスマートフォンやタブレット、パソコン、デジタルコンテンツプレーヤー、外付メモリー、HDDなどへ拡大するかどうかだったこと。そして審議報告としては「対象を拡大して私的録音録画補償金を徴収し権利を保護するべきだが、私的録音・録画を行わない購入者への補償金返還の実効性の確保ができない」として、両論併記の結論は出ずという内容のためです。

▲小委員会の様子

私的複製は認められているはずなのに、なぜ補償金を払わなければならないのか、疑問に思うかもしれませんが、実は著作権法で決められています。

著作権法第30条
(私的使用のための複製)

第30条

著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
一 公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合
二 技術的保護手段の回避(技術的保護手段に用いられている信号の除去又は改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。第120条の2第一号及び第二号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合
三 著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合

2.私的使用を目的として、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器(放送の業務のための特別の性能その他の私的使用に通常供されない特別の性能を有するもの及び録音機能付きの電話機その他の本来の機能に附属する機能として録音又は録画の機能を有するものを除く。)であつて政令で定めるものにより、当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であつて政令で定めるものに録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。

確かに第30条1項では私的使用の複製についてとその範囲が規定されており、認められています。そのかわり「2.」以降では私的使用でもデジタル方式での複製は補償金を支払う必要があると規定されているわけです。

これを読む限り「電話機その他の本来の機能に附属する機能として録音又は録画の機能を有するものを除く」とあるため、まずスマートフォンやパソコンはそもそも除外されてしかるべきとは思います。ただ専用のプレーヤーや録音録画に使うメモリーやHDDなどは補償の対象となっても法律上はおかしくありません。


▲現状では補償金の対象となる機器や記録メディアの販売が減少しており、補償金も右肩下がりで減っている

そこで問題となってくるのが、補償金の返金問題です。現状でも補償金制度はありますが、手続きに手間がかかることと、請求したとしても逆に赤字というケースもありほとんど機能していません。

関連記事:私的録画補償金、初の返還額は8円/ITmedia

CD-RのようにUSBメモリーやHDDを音楽用とパッケージを分けて販売するのも、コストがかかりメーカーの負担が大きくなってしまいます。権利者団体としては法改正をしてスマートフォンやパソコンなども対象にしたいようですが、消費者団体側は補償金の返金システムが有名無実となっていることから、反対しているわけです。

さらに「クリエーターへの適切な対価還元について」という点でも問題があります。デジタル機器や録音録画媒体に補償金を課すだけでは、どのアーティストの著作物がどれだけ使われたが正確に反映できません。各団体が統計などを元に著作権者に分配していますが、実数とは必ずしも一致しないので不公平感があります。しかも現状のシステムで補償金を徴収しても、いくつかの団体を経由しそのたびに手数料がかかるため、実際に権利者の手に渡るのは徴収した補償金の約半分となるケースもあります。

こういった問題は私的録音録画補償金精度がスタートした当初から存在しており、今なお解消できないポイントとなっています。これが何年も両論併記で結論が出ずという審議報告が続いている要因です。

ここまで長い間議論をして結論が出ないのは、そもそも著作権法30条1項が著作権者にも消費者にもメーカーにも合っていないからだと筆者は考えます。現在の私的録画録音を制限し、かつデジタル機器や媒体から補償金を徴収する制度はフランスやドイツ、イタリアといった欧州地域で運用されいます。

ただしこれがグローバルスタンダートというわけではなく、アメリカやイギリス、そして中国のように私的複製補償金制度が事実上縮小していたり、そもそも存在しない国も数多くあります。


▲各国の補償金制度についてのまとめ

特にアメリカでは複製に関して、アメリカの著作権法107条で「フェアユース」という考えが規定されています。基本的には下記の4つの要素を含んでいれば著作物の無断利用が可能です。

1.利用の目的と性格

2.著作権のある著作物の性質

3.著作物全体との関係における利用された部分の量及び重要性

4.著作物の潜在的利用又は価値に対する利用の及ぼす影響

アメリカでは特に4番目の「著作物の潜在的利用又は価値に対する利用の及ぼす影響」が重要視されており、著作権者が不利益を被ったかどうかがフェアユースかどうかの大きなポイントとされています。

日本でも何度かフェアユース規定について議論はなされていますが、権利者団体の反対もあり実現していないが現状です。しかし日本のコンテンツ市場を考えるとフェアユース規定があったほうが、現在グレーとされるものがいろいろとクリアーになっていくと思います。今回の私的録音録画もフェアユースの規定に沿って運用していれば、補償金は基本的に必要ありません。

そのほか二次創作系の同人誌やガレージキット、コスプレなどもフェアユース規定に沿って運用することで、活動しやすくなるポイントも多くなると思います。

もちろん著作権者にとって、フェアユースを容認できる範囲が違ってくるため、訴訟などが増えるという懸念もあります。ですが権利者団体が一律に運用範囲を決めるのではなく、著作権者自身が自分の作品について権利の範囲を考えて対応するほうが自然だと筆者は考えます。

たとえば現状ではクリエーターが「結婚式用に作った曲なので結婚式場では自由に流してもいいし、式出席者に配付するビデオにも無料で使ってもらってオーケー」と言っても、権利者団体に登録している場合はそうはなりません。

逆に現状でもディズニーのキャラクターのように、勝手に使用すると大変なことになる著作権者もいるというのは周知のことです。フェアユースが浸透すればこのように権利者によって使いやすい、使いにくいというのがキッチリわかってくると思います。そこも含めてクリエーターの個性になるのではないかと。

コンテンツ市場をみてみると、新しい作品を次々に生み出しているのはアメリカ、そして中国が追っています。日本もアニメなど世界を相手にできるコンテンツが重要視されていますが、それならばフェアユース規定でクリエーターが自由に活動しやすいシステムにするべきなのでは思います。

筆者の取材によると、今回も両論併記という結果に権利者団体は業を煮やし、補償金対象機器の拡大を狙って自民党に泣きつき、党内で議論が行われたようです。残念ながら非公開の会議のため内容まではわかりませんが、権利者団体はとにかく「補償金を取る」そのことだけを目指しているようです。

私的録音録画補償金を受け取る権利団体のひとつ、JASRACは3月27日に「2019年3月分配期・2018年度通期の分配実績」を発表しました。内訳をみると私的録音補償金の分配額はついに1千万円を割り込み、908万3128円と前年比の82.1%となっています。さらに貸しレコードの貸与については12億7307万1037円と額は大きいですが、前年比54.6%と大幅に減少。つまりレンタル店でCDを借りて、音楽用CD-Rにコピーしているようなユーザーはどんどん減っているわけです。


▲権利者団体のひとつJASRACの2018年度分配実績/JASRAC

それでも分配実績は約1126億円と史上2番目の金額。これはサブスクリプションサービスや動画配信サービスが対象のインタラクティブ配信で前年比131%となる160億9430万4518円が大きく寄与しています。


▲YouTube Musicなどサブスクリプションサービスが普及しており、クリエイターへの分配金は増加している

これだけインタラクティブ配信が成長しているのだから、そこで使われるスマートフォンやパソコンから補償金を取って成長を鈍化させるのではなく、もっと多くの人に使ってもらって使用料を増やす方が健全ではないでしょうか? さらにサブスクリプションサービスなどは、どのクリエーターの作品がどれくらい使用されたかがデータとして把握しやすく、より正確な分配も行えます。

両論併記という結果のため、今後も同じ議論が続く可能性がありますが、そろそろ根本的に著作権法を見なおし、権利者団体ではなくクリエーター、そして消費者とメーカーやサービス業者が納得のいく運用の実現を期待したいところです。