追越車線を走り続けるのは渋滞のもとですが、どの程度のドライバーが認識しているのでしょうか。NEXCO東日本による走行車線の利用を促す実験で、大きな効果が得られ、多くのドライバーも協力意思を示しています。

走行車線の利用促進実験で渋滞長「半減」も

 高速道路における渋滞の要因は様々ですが、そのひとつに、多くのクルマが「追越車線を走り続ける」ことがあります。このため、NEXCO東日本関東支社では2017年以降、特定の区間で「走行車線の利用促進による渋滞対策実験」を行っています。


追越車線にクルマが集中すると、渋滞につながることも。写真はイメージ(画像:写真AC)。

 実験は、道路脇にLED表示器を複数設置し、「渋滞予防のため」「左車線キープ」あるいは「左車線」「ご利用を」などと表示、走行車線の利用を呼び掛けるというものです。2017年度には、関越道下り線の東松山IC〜嵐山小川IC間や、東北道上り線の佐野藤岡IC〜館林IC間などで実施されました。

 NEXCO東日本関東支社の「渋滞予報士」外山敬祐さんによると、追越車線に車両が集中すると車両間隔が詰まり、何かの拍子に1台がブレーキを掛けると、それが後続車両へと伝播、結果として全体の速度が低下し、渋滞の発生が早まってしまうといいます。

高速道路では、渋滞の発生する直前が、そこを通過できる車両の最も多い状態です。ところが、ひとたび渋滞が発生すると、通過できる車両の数は2割ほど低下します。実験の狙いは、『渋滞が起きそうで起きない状態』を少しでも長く持続させ、多くの車両が通過できる時間をより長くすることです」(外山さん)

 2017年11月の東北道上り線 佐野藤岡IC〜館林IC間における実験結果では、第1走行車線、第2走行車線、追越車線の利用率がそれぞれ20%、36%、44%だったのが、実験日には28%、34%、38%と、追越車線の利用率が6ポイント低減した日もあったといいます。渋滞時間は7時間から5.5時間に、最大渋滞長は22kmから10kmにまで減ったそうです。

 外山さんはこの結果について「追越車線に利用が偏っていた状況が改善され、車線が均等に使われたことで、渋滞の発生を遅らせることができたと考えています」とのこと。本来は渋滞に巻き込まれていたかもしれない多くの車両が、渋滞発生前に通過でき、結果的に渋滞時間や最大渋滞長が減少したと分析しているそうです。

初の片側2車線区間で実施

「走行車線の利用促進による渋滞対策実験」は2019年2月現在、3月末までの予定で土休日に、関越道下り線の前橋IC〜渋川伊香保IC間で行われています。これまでの実験区間は全て片側3車線区間でしたが、今回は初めてとなる片側2車線区間での実施です。

「この区間の渋滞は、おもに冬季の休日(午前中)、スキー需要により交通量が高まることで発生します。構造的には、東京方面からの片側3車線が前橋ICで2車線に減少することに加え、ゆるく長い上り坂が隣の駒寄PA先まで7kmも続くため、車両の速度低下が原因となります」(NEXCO東日本関東支社 外山さん)

 ここでも、「追越車線=速く進める」というイメージから、先を急ぐドライバーが少しでも速くという心理で追越車線を選択していると考えられるそうです。その結果、追越車線へ極端に車両が偏り、渋滞発生を早めているといいます。


実験区間(前橋IC〜渋川伊香保IC間)の走行イメージ(画像:NEXCO東日本関東支社)。

「たしかに、道路が空いているときには追越車線を走行するクルマのほうが速度は高いのですが、混雑してくると、車線の違いによる速度差はほとんどなくなってきます。こうした混雑状態でのむやみな車線変更自体が、渋滞発生を早める原因にもなるため、控えていただきたいです」(外山さん)

 これまでの片側3車線区間では、走行車線利用を促す文言を表示するLED表示器を道路の両側に設置していましたが、今回は左の路肩側にのみ設置しているとのこと。外山さんによると、車線の使われ方や車線変更の挙動なども、片側3車線区間とは異なると考えられため、今後の検証で確認していきたいといいます。

理論的にはわかっていても……なぜ実践できない?

 NEXCO東日本関東支社がこれまでに実施した、同社の高速道路を利用するドライバーへのアンケート調査では、「混雑してきたら、追越車線へ移動する」と答えた人が約2割を占めたとのこと。その理由はやはり、「速く走れるから」が多かったそうです。

 一方で、このアンケートに回答したドライバーの実に93%が、走行車線の利用に「協力する意思がある」と答えているといいます。外山さんは「お客さまのご協力が不可欠」としつつ、心情を次のように話します。

「走行車線利用にご協力いただいた方自身には、直接的なメリットがないところに、こうした渋滞対策の難しさがあります。なぜなら、そのメリットを直接受けるのは、ご協力いただいた方の後続車です。本来なら渋滞に巻き込まれていたかもしれないクルマが、先を走る方の走行車線利用により渋滞に巻き込まれずに済んでいるわけで、その恩恵を受けた後続車の方でさえも、メリットを実感しづらいでしょう」(外山さん)

 理論的にはわかっていたとしても、実感がない、経験できないことに協力してもらうのは、非常にハードルが高いと外山さんは話します。「今後も根気強くご理解・ご協力を呼びかけて、ひとりでも多くの方に『渋滞予防運転』を実践していただけることを期待しています」とのことです。

※一部修正しました(3月9日9時20分)。