結論から言えば、期待外れに終わった、ということになるのだろう。

 今季J1において、ひと際大きな注目を集めているのが、ヴィッセル神戸である。

 言うまでもなく、一昨季のルーカス・ポドルスキに始まり、昨季はアンドレス・イニエスタ、そして今季はダビド・ビジャ(ニューヨーク・シティ→)と、世界的なスター選手が次々に移籍加入したことが、その理由だ。集まる視線は、日本国内からだけにとどまらない。

 しかし、3選手が初めて公式戦で顔をそろえたセレッソ大阪とのJ1開幕戦は、0-1の敗戦。ボールポゼッション率でこそ、セレッソを圧倒したものの、ゴールどころか、決定機と呼べるチャンスもほとんどなかった。

「試合を通じて、とくに前半と後半25分までは、ゴールに近いところ、つまり勝利に近いところでプレーできた。最後(ゴールを)決めるところが唯一足りなかったが、(ペナルティ)エリア内に人数をかけることができたし、エリアの周りでボールを回せた。ゴール前までボールを運べたことは評価できる」

 昨季途中から神戸を率いる、フアン・マヌエル・リージョ監督は敗戦後、そう言って強がったが、その言葉を鵜呑みにはできない。

 神戸にゴールが生まれそうな期待感のピークは、おそらく前半なかば。15分に右サイドからポドルスキが、17分には左サイドからビジャが、いずれもドリブルで中央にカットインして、立て続けにミドルシュートを放ったあたりだっただろう。以後は、攻撃がシュートまで至らないことも多く、むしろ停滞感が強まった。

 キャプテンでもあるポドルスキは、「後半は相手の戦い方に合わせて攻め急いだ。前半はチャンスがあったのだから、後半も前半と同じように攻められればよかったが……」と認めているとおりだ。

 この試合、神戸はやや変則的なフォーメーションで臨んでいる。

 最終ラインは4バックで、中盤はアンカー+インサイドMF2枚の逆三角形と、ここまでは至ってノーマルだが、前線は右のポドルスキ、左のビジャがサイドに大きく開いて構える。そしてイニエスタは中央の、FWよりも下がった位置にポジションを取った。

 数字で表記するなら、4-3-3とも言えるし、中盤がダイヤモンド形の4-4-2とも言える。いずれにしても、明確なCFを中央に置かず、実質的2トップのふたりがサイドにポジションを取ったところがミソだ。リージョ監督がその意図を語る。

「チーム全体として狙っていたのは、ビジャとポドルスキのふたりで、(セレッソのDFラインの)5人を引き付けること。そして、イニエスタは(相手の)CBから離れたところでプレーする。そうすることで、CBは(イニエスタを見張りつつも)両サイドからウラを取られる脅威にさらされることになる」

 つまり、ビジャとポドルスキが両サイドの高い位置にポジションを取ることで、守備時は5-4-1の形になるセレッソのDFラインを押し込む。そのうえで、イニエスタがやや下がった位置でプレーすることにより、相手CBを引っ張り出し、中央にスペースを作り出す。そこへビジャやポドルスキ、あるいは左右サイドバックの初瀬亮(ガンバ大阪→)や西大伍(鹿島アントラーズ)が入っていくことで、セレッソの守備網を破ろうとしたのである。

 たとえば、後半19分に右サイドのポドルスキが、逆サイドからゴール前へ走り込んだビジャへ。後半30分には、左サイドの初瀬が同様の西へ。いずれもクロスを通して、ヘディングシュートにつなげているが、これらが狙いとするひとつの形だったのだろう。

 しかし、結果として神戸の狙いは、セレッソによって封じられた。セレッソのCBは簡単に引っ張り出されることなく、辛抱強く中央を固めた。90分を通して、どこにも穴が開かなかった。神戸に決定機が生まれなかった理由である。

 ポドルスキ、イニエスタ、ビジャの3人は、いずれもワールドカップ優勝経験を持つビッグネーム。とくにイニエスタとビジャは、スペイン代表とバルセロナの両方で黄金期を支え、数々のタイトルを手にする栄誉に浴してきた。3人それぞれの頭文字を取って、”VIPトリオ”とは、なかなかうまくできた呼び名である。

 さすがに全盛期を過ぎたとはいえ、だからこそ、彼らはJリーグ史上屈指と言ってもいいほどの大きな注目を集めている。それがさしたる決定機もなく、ノーゴールに終わったのだから、期待外れと言うしかない。


開幕戦ではセレッソの守備を崩せなかったヴィッセルだが...

 とはいえ、そんなネガティブな評価も、あくまで、この試合の結果に関しては、である。

 Jリーグに限らず、日本サッカー全般の傾向として、戦術的な幅が広いとは言い難い。もちろん例外はあるが、極端に言えば、前線に向かってロングボールを蹴り込むか、ショートパス主体のコンビネーションで無闇に中央突破を図るか、のどちらかだ。

 そんななか、全9試合あったJ1開幕戦のなかでも最注目だったと言っていいこの試合の攻防は、戦術的な見応えがあった。

 ピッチの横幅を目一杯活用し、相手ディフェンスを広げようとした神戸。それに対し、DFラインのスライドと中盤のプレスバックを忠実にこなすことで、ピッチ上に穴を開けまいとしたセレッソ。これまでのJリーグでは、あまりお目にかかれなかった攻防だった。

 従来のJリーグの枠をはるかに飛び越えた補強を進める神戸が、直接的に期待されるのは、ミーハー的感覚を満たしてくれること。要するにスーパープレーを、もっと具体的に言えば、イニエスタが昨季のジュビロ磐田戦で見せたようなスーパーゴールを見せてくれることである。

 今はまだ新シーズンが始まったばかり。これから選手個々のコンディションが上がり、試合をこなすごとにコンビネーションが高まっていけば、自然とそんなプレーが増えていくだろう。

 だが、リージョ監督も含め、世界の戦術的スタンダードを知る選手がまとまって加わったことで、神戸のサッカーはひとつ高いレベルに引き上げられるのではないか。そして、その効果は、結果として対戦相手の戦術レベルを引き上げることにも及ぶのではないか。そんなことを神戸に期待したくなる。

 エンターテインメントとしては、期待外れだった。しかしながら、Jリーグに戦術的刺激を与えるという意味では、期待膨らむVIPトリオのデビュー戦だった。