訪日観光客で賑わう百貨店の化粧品売り場(編集部撮影)

絶好調だった化粧品の販売に、不穏な足音が近づいている。

1月末から各化粧品メーカーの決算が発表されている。コーセーは2019年3月期第3四半期(2018年4〜12月)の売上高が2478億円(前年同期比10.9%増)、ファンケルも2019年3月期第3四半期(2018年4〜12月)の売上高が933億円(同14.4%増)と、好調な結果だった。

ところが1月に入ってから、訪日客需要が急失速したというのだ。「第3四半期の時点でも中国人の買い控え影響は若干あったが、1月に入って一気に(買い控えが)出てきた」(コーセー)。「直営店の週別売上高(平均)を見ると、1月から弱くなってきている」(ファンケル)。

免税売上高も前年割れに

化粧品の失速は、その販売に頼る百貨店の売上高に如実に影響を与えている。最大手の三越伊勢丹ホールディングスは1月の全店売上高が前年同月比3.0%減、大丸松坂屋を展開するJ.フロント リテイリングが同2.3%減、高島屋は同2.6%減とそろって減少に転じた。


近鉄百貨店は1月に入って免税売上高が急減した(編集部撮影)

百貨店の免税売上高において、化粧品販売は大きなウエイトを占める。1月の免税売上高を見ると、三越伊勢丹が前年同月比6.6%減、J.フロントが1%減に対し、郄島屋は15.1%減と大きく落ち込んだ。関西でも、近鉄百貨店が「3割ほど落ちた」(近鉄百貨店)という。

化粧品の訪日客向け販売が失速した理由は、元安基調の為替影響、米中貿易摩擦を背景とする中国の景況感の悪化が考えられる。そして、特に1月1日に中国で施行された中華人民共和国電子商務法(通称:EC法)の影響が大きいと見られる。

包括的に電子商取引を取り締まる法律は、中国でも初めてのこと。EC法では、小売店で商品を大量購入しECで転売するソーシャルバイヤーは「電子商務経営者」とみなされ、営業許可証の取得のほか、納税義務も課されることになった。個人バイヤーも例外ではなく、納税対象となる。

ソーシャルバイヤーが好んで購入しているのが、中国で人気の高い日本製の化粧品やベビー用品。彼らは百貨店などに足を運んで商品を”爆買い”し、それを転売することで利益を得ている。1月のEC法施行以降、こういったソーシャルバイヤーによる大量買いが冷え込んだようだ。


中国人に人気の高いコーセーの「雪肌精」(編集部撮影)

百貨店の1月の免税売上高において、J.フロントが1%減程度だったのに、郄島屋が15.1%減、近鉄百貨店がおよそ30%減と結果に差が出たのはなぜか。

J.フロントの免税売上高の平均単価およそ5万円に対し、百貨店協会全体の平均単価は約6.5万円。「この1万円以上の差は、ソーシャルバイヤーが多いかどうかの表われ」と、ある百貨店関係者は分析する。ほかの小売業界関係者も、「個人旅行客による購入が多いのか、それともソーシャルバイヤーによる大量購入が多いのか、その顧客属性によって1月の売上高の落ち込み幅が違ったのではないか」と指摘する。

昨年秋に取り締まり厳格化

訪日客需要に対してEC法施行の影響が大きかったとはいえ、実は昨年の秋からすでに予兆は出ていた。中国の首都・北京に次いで多くの旅客数を誇る上海浦東国際空港では、国慶節を前にした9月末ごろから手荷物検査が厳格化されていた。

現地報道によると、9月下旬に浦東空港の第2ターミナルでは長蛇の列ができていたという。中国では出国審査前で5000元(約8万2000円)以内、出国審査後も8000元(約13万円)以内であれば免税になる。それ以上の場合は税関で申請し、納税する義務を負う。国慶節前に、浦東空港の税関は列に並ぶすべての人のスーツケースを空けて入念にチェックし、あるフライトでは100人以上が審査に引っかかったようだ。こういった中国税関による取り締まりの厳格化が、日本の免税売上高にじわじわ響いてきたというわけだ。

化粧品メーカーと百貨店各社は今後の動向、特に訪日観光客が多く押し寄せる、2月4日からの春節期間の販売動向を慎重に分析する構えだ。

ただ、「事態は根深いものがある。数カ月で免税売上高の勢いが戻ってくるとは考えていない」(別の百貨店関係者)。中国税関の取り締まり強化や中国景気減速による消費者の購買意欲減退など、販売不振が長引く懸念は数多い。