走りだけでなく室内の広さなどにも大きく関係してくる

 クルマの駆動方式は今のところFF(フロントエンジン、フロントドライブ)、FR(フロントエンジン、リアドライブ)、4WD、MR(ミッドエンジン、リヤドライブ)、RR(リヤエンジン、リヤドライブ)の5つである。「5つもある」と考えるか、「5つしかない」と思うかは微妙なところだが、それぞれのメリット、デメリットを考えたい。

■FF

●メリット

・エンジン横置き、縦置きともに、かつてのホンダインスパイアなどの例外を除けば、トランスミッションとデファレンシャルが一体(一体になったものはトランスアクスルと呼ばれる)になり、生産性が高く、それに伴い生産コストも低い。

・エンジン横置きのFF車であれば、エンジン、トランスミッション、デファレンシャルがエンジンルーム内にまとまりミッションや後輪に動力を伝えるプロペラシャフトなどがキャビンに入ってくることがないので、小型車でもキャビンとラゲッジスペースを広く取れる。

 ・ノーズの重さや前から引っ張る駆動方式のため直進安定性に優れる。

●デメリット

・太いタイヤを履いている場合などタイヤの切れ角が確保できず、小回りが利かない(Uターンの際に切り返しが必要になるなど)ことがある。

●まとめ

 昔は激しいタックイン(コーナリング中にアクセルを戻すとクルマがインを向く現象、程度や好みによっては有効な特性)が出るなどフィーリングに悪い意味でクセが強いといったことや、クルマは加速の際リヤに荷重が動くので、FF車は強い加速の際にノーズが浮きやすくトラクションが弱いから大パワーに対応できない、といった弱点もあった。

 しかしここ20年ほどは技術やタイヤの飛躍的な進歩により、シビックタイプRのような300馬力以上あるFFが市販されていることからもわかるように、こういった弱点も払拭されている。そのためメリットの多さが際立ち、今では世界中のクルマの駆動方式の主流はFFになっている。

■FR

●メリット

・前輪に駆動力が掛かっていないため、干渉するものがないスムースかつクリアなステアリングフィールが味わえる。

・前輪が操舵、後輪が駆動と役割が分かれているため、後輪をパワーでコントロールできる(要するにパワードリフトだ)など、コントロール幅が広い。またタイヤの負担や消耗も前後輪で差はもちろんあるが、FFよりは前後の差は少ない。

・前輪の位置の自由度が広いため、オーバーハングの短い横から見たときに美しいプロポーションを作りやすい。

●デメリット

・FFとは対照的にトランスミッション、デファレンシャルが別になり、後輪に動力を伝えるプロペラシャフトが必要になるなど、部品点数が多く、生産性も悪いため、生産コストが高い。

・トランスミッション、プロペラシャフトがキャビンに入ってくるため、キャビンは狭い傾向。

●まとめ

 まとめると広さやコストと引き換えに、フィーリングの良さや趣味性の高さを得られるのがFRだ。そのためメルセデス・ベンツやBMW、ジャガーに代表されるプレミアムカー、トヨタ86&スバルBRZやマツダ・ロードスターといった速さよりもクルマのコントロールに代表される運転する楽しさを重視したスポーツカーがFRを採用することが多い。

■4WD

●メリット

・当然ながらトラクションが高いため雪道などの滑りやすい道でも発進しやすく、安全。クルマにもよるが乾燥路を含め直進安定性も高い。

●デメリット

・四輪分のドライブシャフトや前後輪双方のデファレンシャルが必要になり、前後の回転差を吸収するセンターデフに相当するパーツが必要になることも多いので、当然ながらコストが高く、重量も増え、燃費も低下する。

●まとめ

 かつては「4WDは安定性は高いけど、スポーツモデルでも曲がりにくい」という時代もあったが、今ではスバルWRX STIなどを見てもわかるようにそんなことまったくない。デメリットも二輪駆動に対する差額や重量増は少なくなっており、燃費も滑りやすい路面であればロスがない分二輪駆動より有利な面もあるなど、燃費の差も縮まっている。また全体的に4WDはリセールバリュー(処分するときの査定)もいいので、必要性や興味を若干でも感じるなら選んだほうがいい駆動方式ともいえる。

■MR

●メリット

・エンジンを後ろ寄りに置くだけに、リヤ荷重が多いほうが有利な加減速に強い。

・エンジンというクルマで一番の重量物が中央にありフロントが軽いため、シャープな回答性を得られる。

●デメリット

・フロントが軽いため直進安定性を確保しにくい、フロントにちゃんと荷重を掛けないと曲がりにくい。

・リヤが重い分、リヤの流れ方は早くその際のコントロールは難しい傾向。

・キャビンの真後ろにエンジンがあるため静粛性は低く、リヤシートは付けられず2人乗りか、付けられても狭い。ラゲッジスペースも狭い。

●まとめ

 MRは運動性能というメリットのために多くの代償を払う駆動方式で、一般的にメリットは薄い。それだけに運動性能を重視するロータスやフェラーリのようなピュアなスポーツカーやスーパーカー、フォーミュラカーのようなレーシングカーが採用することがほとんどだ。

■RR

●メリット

・ポルシェ911がRRを使う理由の1つが、当初「補助的でもいいからリヤシートを付けたかった」ことであるように、FFほどでないにせよエンジン、トランスミッションといったパワートレーンをまとめられるので、スペース効率に優れる。

・リヤが重いため、MR以上に加減速に強い。

●デメリット

・リヤの重さにより、MR以上にフロントにちゃんと荷重を掛けないと曲がりにくい。リヤが流れた際の挙動はピーキーで、コントロールは難しい傾向。

●まとめ

 デメリットは技術の進歩や4WD化などにより減っているが、メリットが少ないのも率直なところで、現代ではポルシェ911が自らのアイコンやアイデンティティとして、バスがスペース効率に優れるため、スマートやルノートゥインゴが主に可能性の追求の目的で使っているくらいだ。

■結論

 このように駆動方式ごとにメリット、デメリットはあるものの、何度か書いたように技術やタイヤの進歩によりデメリットは薄くなりつつある。それゆえ強いこだわりや4WDの必要性がない限り、クルマを選ぶ際に駆動方式はそれほど気にすることはないと考えていいだろう。