2018年3月6日撮影。東京都多摩市生田、五反田川沿いの河津桜。6分咲きくらい。(撮影=中西一登)

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3月20日、「マツコの知らない世界」(TBS系)が「桜」をテーマに1時間特別版を放送します。解説者は気象予報士の中西一登さん。中西さんは20年以上にわたり全国の桜を追いかけ、桜のために仕事を5回辞めた筋金入りの「桜ウオッチャー」です。そんな中西さんが「ほかでは見られない濃厚な桜景色」と称賛する日本一の名所があります。その場所とは――。

■桜は毎月、日本のどこかで咲いている

桜ウオッチャーの中西一登です。桜前線を追いかけて旅をしています。

朝は桜名所の近くに停めていた軽ワンボックス車の中で目覚め、朝食はだいたい食パン2枚にジャムを塗ったもの。人影のない早朝5時、周囲がほのかに明るくなる頃には活動開始。重さ約14キロの機材と三脚をかついで、桜名所のあちこちを被写体を求めてさまよい歩く。いい構図が見つかったら何時間も待つことがある(最大24時間)。天気が悪かったり開花が十分でなかったりすれば翌日も翌々日も待つ(最大5日)。

フィルムを使っていた時代は、1日に15本くらい消費したことがある。デジカメだと1日400コマ撮ったりする。夜は夜で桜のライトアップがあったら明かりが消えるまで撮影。人影がなくなる深夜近くまで待つこともしばしば。1日の中で誰かと交わした言葉は、コンビニで「(弁当)あっためてください」と、食堂で「焼き肉定食大盛りで」だけ。今夜もまた、ワンボックス車で眠りにつく……。

長旅の日常は、だいたいこんな感じです。なぜクルマで寝るかというと、桜の見頃には周辺の宿がとれないため。また、事前に宿を予約すると旅程に制約ができてしまい、気まぐれに進む桜前線を追いかけにくくなるので、それも避けたい。そして、なんといっても旅費の節約が最大の理由です。

2006年の長旅の時は、3月下旬からの連続123泊のうち、クルマの中で111泊過ごしました。クルマの中で寝るのは平気です。寝袋ではなく布団を持ち込むのがコツ。自宅の寝室に近い寝心地が得られます(笑)。

私は1995年以来計5回、会社を辞めて九州から北海道まで桜前線を追いかける旅をしてきました。旅と旅との間は、サラリーマン生活をしながら、休日に桜を訪ねるのです。こうして行った桜名所は、日本で1408カ所になりました。ネパール(2回)とアメリカ合衆国にも桜を見に行きました。

信じられないかもしれませんが、桜は毎月日本のどこかで咲いているのです。私は2001年9月以来、連続199カ月にわたって毎月桜の花を見ています。また、最近は「毎週花見」にチャレンジしていて、2016年11月以来70週連続で桜の花を見ています。

■「桜を追いかける旅」1年間の密着取材

TBS系のテレビ番組「マツコの知らない世界」(3月20日放送の「桜の世界」)では、そんな私の旅を1年間にわたって密着取材してもらいました。マツコ・デラックスさんと視聴者の皆さんに、桜の知られざる魅力が少しでも伝わっているとうれしいです。

私は1987年に大学を卒業して以来ごく平凡にサラリーマン生活を送っていましたが、7年半付き合っていたカノジョにふられたことをきっかけに(笑)、30歳で会社を辞めて日本一周の旅に出ることにしました。妻子どころか彼女もいないフリーの間に旅をして、日本を隅々まで見ておきたいと考えたのです。

この時、漫然と旅をするのではなく、何か「テーマ」が欲しいと考えて、九州から北海道まで桜前線を追いかけてみることに決めました。当時は桜に対して特に思い入れはなく、「宴会の題材」「旅のテーマの1つ」くらいの軽い気持ちしかありませんでした。

でも、旅を進めていくうちに、桜がどんどん好きになっていったのです。

桜には、他の花にはない優美さがあると思います。近づいても離れても美しく、デリケートな淡い花色は日本の風情にとても合っていると思います。そして、1年のうち3日ほどしか見事な日はないという儚(はかな)さに、心動かされます。桜が見頃を迎えたと聞くと、サラリーマンをしている今でも、いても立ってもいられず旅に出たくなります。

最初は「お友だち」くらいにしか思っていなかった桜ですが、弘前城址(青森県弘前市)に行ってその思いが決定的に変わりました。桜にすっかり惚れてしまいました。今では、弘前城址は日本一好きな桜名所です。

■通常4つ咲きの染井吉野から7つの花が咲く

弘前城址には現在、染井吉野(ソメイヨシノ)を中心として約2600本の桜があります。

弘前の桜が素晴らしい理由、それは日本一とも言われる桜の手入れの良さにあります。弘前市の名産と言えばリンゴで、その出荷量は日本一です。桜はリンゴと同じバラ科の樹木。リンゴの栽培技術を桜に応用したことで、この素晴らしい桜たちが育っているのです。

「染井吉野寿命60年説」というフレーズが使われることがあるように、一般に染井吉野は短命といわれますが、弘前城址では130歳を超える染井吉野がとても元気に花を付けています。全国トップレベルの長寿です。手入れの良さを象徴していると思います。

もう1つ、手入れの良さを示す証拠があります。通常、染井吉野の1つの花の芽(花芽)からは4本の茎(花柄)が出て4つの花が咲くイメージがあると思います。図鑑にはそういったイラストが載っていることがありますよね。でも、弘前には「7つ咲き」の染井吉野があるのです。1つの花芽から7つもの花が咲くのです。桜の元気さ、そして手入れの良さを物語っていると思います。「7つ咲き」は弘前市民の自慢になっているそうです。

つまり、花の芽の数が同じだとしても弘前城址では花数が多くなる、したがって花のボリュームが違うということになります。そのため、他の名所よりも濃厚な桜景色を楽しむことができるのです。

水面に浮かぶ花びらが、何枚かくっついた様子を「花いかだ」と呼びます。花吹雪の時期には、弘前城址のお濠(ほり)の水面をピンクのじゅうたんが覆います。まるで歩けそうなくらい濃厚な花いかだが出現するのです。これも花のボリュームの違いを示していると思います。

桜の舞台となる城あとには、朱塗りの木橋や豪快な石垣、お濠、そして古い天守閣など、江戸時代からの城の風情がよく残っていて、それが桜とすてきなハーモニーをかもしだします。

屋台がずらっと並び、昔ながらの盛大な桜祭りも行われます。読者の皆さんにも、一度は行っていただきたいと思っています。

■旅を終えてもいいと思える「究極の桜」はどこに?

東京では、新宿御苑(新宿区内藤町)がお勧めです。ここでも染井吉野の7つ咲きを見つけたことがあります。手入れがよい証拠で、だからこそ苑内で見事な桜を見られるのだと思います。65種類約1000本の桜があります。染井吉野の他、一葉(いちよう)を代表とする八重桜もたくさん植えられています。染井吉野のお花見を逃した方でも八重の花見を楽しめます。お酒や遊び道具・カラオケの持ち込みはできません。また、日中のみの開園で夜桜は楽しめませんのでご注意ください。有料です。

東京一の枝垂(しだれ)桜は六義園(文京区本駒込)の正門近くの枝垂れだと思います。樹齢約70年ながら、幅約20メートル、高さ約15メートルの巨樹に育ち、その形は特に見事です。3月21日(祝)からはライトアップの予定で、その頃には見頃になりそうです。ただし見頃は染井吉野よりも数日早いのでお気をつけください。有料です。

私は究極の桜を探しています。その桜を見たら、もう別の桜を見なくてもいい、と思えるような素晴らしい桜を、です。

それは一本桜なのか、並木なのか。染井吉野なのか、枝垂桜なのか。一人で見る桜なのか、誰かと見る桜なのか。全く予想がつきません。もう旅を終えてもいいと言い切れる素晴らしい桜なんて、もしかしたら一生出合えないのかも知れません。

その究極の桜を探して、私はずっとずっと旅を続けるのだと思います。

今年は例年より早く、高知を皮切りに東京をはじめ各地で桜(染井吉野)の開花が始まりました。皆さんにもぜひ、思い思いのすてきなお花見を楽しんでいただきたいと思います。

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中西 一登(なかにし・かずと)
桜ウオッチャー、気象予報士
1964年愛媛県出身。「マツコの知らない世界」などテレビ番組出演経験あり(春だけ)。桜関連のネット検索は1年中毎日欠かさない。現在は不動産会社社員(東京・田町)。ホームページ「モバイラー中ちゃんの気まぐれ桜旅」やTwitter、Instagramで桜の情報を発信中。

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(桜ウオッチャー、気象予報士 中西 一登)