チッチ監督(右)の言葉に感涙するネイマール(左)。指揮官の気遣いが、雑音に押し潰されそうになっていた背番号10を救った。(C) Getty Images

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 現地時間11月10日、フランスのリールで、ブラジル代表対日本代表の国際親善試合が行なわれ、カナリア軍団がサムライブルーに3-1と完勝。格の違いを見せつけた。
 
 この一戦において殊勝な出来を披露したのが、左ウイングで先発したブラジルの絶対的エース、ネイマールだ。
 
 10分にビデオアシスタントレフェリー(VAR)でPKのチャンスを手にすると、ゴール右下隅へ冷静に流し込んだ。この一撃で2012年、13年、14年に続き、対日本戦通算8点目。その後も71分にドウグラス・コスタと交代してピッチを退くまで、“日本キラー”は期待に違わぬ実力を存分に示した。
 
 そんなセレソンの10番が、試合後にチッチ監督とともに記者会見に出席、もはやお得意様となった日本戦を振り返った。
 
「今日の勝利は本当に幸せなものだ。僕らは自信に満ち溢れているし、チッチ監督のことも信頼している。この代表戦のためにしっかりと準備をしてきたし、今日はよくやれたと思う」
 
 そう語って自信を漲らせるネイマールは、56分にVAR判定の対象者となる。激しいマッチアップを繰り広げていた酒井宏樹の頭を叩いたとして、イエローカードが提示されてしまったのだ。
 
 ブラジル代表にとっても初のVAR導入ゲーム。ネイマールは「個人的な意見は言わない」としながらも、「VARでゴールもしたけど、警告も受けた。僕にはいろんなことが起きたね」と苦笑いを浮かべた。
 
 この試合はフランスのリールで行なわれたこともあり、現地フランス・メディアの記者らが大挙して押し寄せた。彼らがネイマールに直撃したかったのは、パリ・サンジェルマンにおいて噂される監督やチームメイトとの不和について。会見でも矢継ぎ早にその質問が飛び交った。

 今夏にサッカー史上最高額でパリSGにやってきたネイマールだが、エディンソン・カバーニとのPKキッカーを巡る諍い(いさかい)をきっかけに、チーム内で反感を買っていると言われる。そうした噂についてネイマールは、「僕のパリでの時間は良いものだよ」と突っぱねた。
 
「なにも不満はない。ピッチで勝ち、チームメイトを助けられる選手になるため、やる気も十分だ。カバーニともエメリ監督ともなんの問題もないんだ。でも、いまはすごく嫌な気持ちにもなっている。だって、馬鹿げた話がでっち上げられているんだからね。
 
 僕は誰かを不快にさせようとして、このクラブに来たわけじゃない。PSGを助け、その野望を叶えるために来たんだ」
 
 しかし、それでもパリSG内での振る舞いや周囲との関係性についてしつこく質問が続くと、隣に座っていたチッチ監督が咄嗟に割って入った。
 
 百戦錬磨のブラジル人指揮官はネイマールの肩をポンと叩き、熱弁を振るった。
 
「私はネイマールと約1年半、一緒に戦ってきたが、彼はチームに尽くすとても忠実な選手だ。彼のロッカールームにおける偉大な影響力について、いますぐここで話しても構わないよ。どんな人間も完璧ではないし、少しばかりの過ちは犯すものだろう。ただ、彼は偉大で、素晴らしく広い心の持ち主だ」
 
 この指揮官の熱き言葉と気遣いに、ネイマールは思わず涙を浮かべた。
 
 記者会見でも堅い結束力を窺わせたセレソン(ブラジル代表の呼称)。チームは目下、絶好調だ。2016年6月のチッチ政権発足以降、南米予選で10勝2分けという圧倒的な成績を残し、ダントツの首位通過を果たした。
 
 そんなチームの大黒柱であるネイマールは、「これこそがチーム力であり、結束なんだ。僕らと他チームとの違いさ」と、涙を拭って結果に胸を張った。
 
 日本戦ではこれまでなかなかできなかったテスト起用をふんだんに盛り込み、チームの底上げにも成功した。02年日韓大会以来の世界制覇に向け、セレソンの視界は良好だ。