後半頭から出場した小松(9番)は、このチャンスを生かして同点ゴールをもたらした。写真:川端暁彦

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 U-23アジア選手権予選(@カンボジア/7月19日〜23日)に臨むU-20代表が、7月11日から14日まで千葉県内で国内合宿を行なった。
 
 今大会に向けて、日本は“3年後”を睨み、東京五輪世代――すなわちU-20代表をエントリー。天皇杯3回戦(12日)でメンバー入りした選手たちも合流し、23名全員が揃って2日目を迎えた14日には、ユニバーシアード日本代表(大学生の日本代表チーム)との練習試合が行なわれた。
 
「前半はまるで寄せ集めのチームみたいになってしまった」
 
 内山篤監督は開口一番、厳しい表情で試合を振り返った。「積み上げてきたことを何もやらずに勝手にやっていて、バランスを崩していた」と語ったように、攻守両面で噛み合わず。ビルドアップはもちろん、守備面でも2トップからの追い方がチグハグで、ユニバ代表が簡単にボールを動かすことを許していた。
 
 仮にこれが公式戦であれば、早々に交代カードを切られていただろう。指揮官は「U-20ワールドカップから1か月が経って、少し勘違いしている選手がいるのかもしれない」とまで言って、表情を曇らせた。
 
 1-2のスコアで迎えた後半は、メンバーを大きく変更。すると、2トップの役割分担が明確化される。大型FWの小松蓮(産業能率大)が前線で張ってDFを引っ張りつつ、中坂勇哉(神戸)が巧みにゾーンの間へ顔を出して「少ないタッチでいなす」(中坂)意識を持つことで機能。守備でも2トップが状況に応じて縦関係を作ることで相手の攻撃を抑制した。
 
「寄せ集め」という言葉は、後半のメンバーにも当てはまった。実際「ほとんどやったことのない選手」(中坂)、「初めてやるメンバーばかり」(小松)と言う声も聞かれたほどだ。だが、そのことでかえってしっかり攻守の約束事を守り、チームワークを重視する意識が働いた面もあったのかもしれない。
 
 内容面では後半のほうが明らかにポジティブで、ゲームは2-2のドローに終わった。後半唯一の得点は、高木彰人(G大阪)の右からのクロスに対して、斜めに入った小松が相手DFの前で触って決めた一発。「シンプルにうれしかった」という小松が振り返ったのには、ちょっとした理由がある。
 小松は今年4月から産業能率大に入学したばかりで、当然ながらU-20ワールドカップにも出場していない。松本U-18からトップチームへの昇格を果たせなかった選手でもあるが、最後のJユースカップでのプレーぶりが関係者の目にとまってリストアップされており、今年5月のトゥーロン国際大会に臨むU-19代表へ大抜擢を受けた。
 
「最初は(代表という場に)緊張していた」と笑って振り返るが、試合をこなしながら日の丸を付けてのプレーを自分の中で消化していったようだ。「少しずつ自信になってきた」とも言う。
 
 トゥーロン国際では全3試合で先発し、183センチの巨体を活かしてターゲットマンとして機能。守備のタスクもしっかりこなしながら、DFを背負ってボールを受け、ヘディングでの競り合いでも強さを見せた。
 
 持ち味であるクロスボールへの迫力ある飛び込みも見せていたが、しかしゴールは遠かった。「チャンスを仕留めきれなかった」(小松)のは明らかで、課題は明確すぎるほどだった。
 
 チーム解散に際しては秋葉忠宏コーチからも「結局、FWは点を取らなければ価値も上がらない」と厳しい言葉も受けた。チームに戻ってからは積極的にシュート練習を積んだだけでなく、普段の練習でも「まずゴールを奪うことを意識するようにしてきた」と課題克服に取り組んだだけでなく、「他のFWがどうやってプレーしているのかをよく観るようになった」とも言う。
 
 この日も、前半に2得点を挙げたユニバ代表の中野誠也(筑波大)が「どうやって裏を取っているんだろうとか、ずっと観ていた」と言う。普段は神奈川県リーグでプレーしている小松にとって、関東大学リーグのスター選手がそろうユニバ代表も眩しい存在なのだと明かしてくれた。
 
「『アイツは点を取るな』と思われたい」
 
 無名の県リーグ所属選手が狙うのは、もちろん3年後の東京五輪。「ひとつずつレベルアップして這いつくばってでも」目指す舞台にたどり着くために、FWとしての価値を示していくほかない。
 
「ゴール以外の仕事が素晴らしい」と評されていた自分に「ゴール」という価値を加えていけるかどうか。その最初の関門となったユニバ代表戦で、小松はちょっとした可能性を示すこととなった。

取材・文:川端暁彦(フリーライター)