IMS、渦巻く光「光渦」が自然界にも存在する可能性を理論的に解析
分子科学研究所(IMS)は2月28日、「光渦」と呼ばれる奇妙な光が自然界に広く存在する可能性を理論的に示したことを明らかにした。
同成果は、同研究所の加藤政博教授らによるもの。詳細は米国の科学雑誌「Physical Review Letters」(オンライン版)に掲載された。
光は電磁波の一種であり、通常はその波面は平面や球面とされるが、約25年ほど前に螺旋状の波面を有する「光渦」の存在が理論的に明らかにされていたほか、軌道角運動量を運んでいると考えられており、物体に照射されるとそれをねじるような力(トルク)を与えることが実験的に検証されていた。
現在、光渦はレーザー光などを用いて人工的に合成する手法が確立されており、さまざまな分野で実用化を目指した研究が進められているが、自然現象で生成されることはないと考えられてきた。
約10年前、加速器の中を走る高エネルギーの電子ビームが光渦を放射することが理論的に示され、その後、実験的に確認されたが、研究グループは今回、この背景となる物理過程についての理論的な考察を実施。その結果、この現象の根底に、円軌道を描いて運動する電子の放射する光が螺旋状の波面を持ち軌道角運動量を運ぶ光渦である、という事実を発見したという。
こうした円軌道放射は、自然界のさまざまな場所で重要な役割を果たす現象であり、電磁気学の教科書にも記載されている枯れた物理現象と考えられてきたが、光渦もこうした現象から生み出されることが示されたことから研究グループでは、今回の成果により、軌道角運動量を運ぶこのような光が物質とどのような相互作用をするのか、自然界でどのような役割を果たしているのか、まったく手つかずの新しい研究分野の存在が浮かび上がってきたとコメント。今回の現象を利用することで、新たな光渦発生装置の開発につながる可能性があるとするほか、円軌道を描く電子は、そのエネルギーなどに応じて、電波からガンマ線まであらゆる波長域の光(電磁波)を出すことができるため、あらゆる波長領域の電磁波で光渦を発生させることができる可能性が示されたこととなり、物質科学など、より幅広い領域に対する新たな研究ツールをもたらす可能性があるとしている。
(小林行雄)