日本人が、長い電車通勤時間にすることの第1位といえば「居眠り」……ではないでしょうか。でもこの居眠り、外国人の方は驚くようです。特に吊革に掴まりながらの居眠りは、神業らしいのです。「INEMURI」は世界で使われる言葉でもあり、居眠りは日本人独特の文化といっても過言ではない? 今回はそんな「居眠り」のお話です。


「居眠り」は日本人独特の文化!?



通勤中、授業中、会議中……あちこちで見かける「居眠り」。
でも、何かをしながらちょっとだけ眠るこの状態、日本ではおなじみですが、世界の人々はあまりしないようです。
「ながら寝」の器用さは、日本人特有のものでした。

過去の文献を遡ってみると、平安時代から日本人は良く「居眠り」をしています。
たとえばある説話集では、何かと居眠りをしてしまう「正信(しょうしん)」というお坊さんが出てきて、あまりにすぐ眠りこけるので「眠り正信」というあだ名を付けられるシーンが出てきます。
一般人だけでなく、位の高い僧侶なども居眠りをするのが普通だったのですね。

江戸時代になっても、警備のものなどが柱や武器に寄りかかって居眠りをするシーンが頻繁に登場します。
ですが、これは熟睡ではなくあくまで「居眠り」。
何かあればサッと動けるような意識のまま軽く眠るというのは、実は武士ならではの高度な技でもあるのです。

それを表わしている最も有名なものといえば、日光東照宮の「眠り猫」ではないでしょうか。
奥社(おくしゃ)の入口を護る「眠り猫」は、その可愛らしいまどろみ姿とは裏腹に前足をしっかりと踏ん張っています。
これは徳川家康を護るために寝ていると見せかけ、いつでも飛びかかれる姿勢をとっているため。
まさに「居眠り」はただの眠りではなく、「緊急時にはいつでも行動に移せるように体力を温存しておく」行為なのかもしれません。

江戸時代末期になると、人々は今までのように居眠りに寛大ではなくなってきました。
明治に入り、時間厳守や8時間睡眠の推奨などが海外から入り込むと、「居眠り」は怠惰の象徴となり、叱られる対象にもなっていったのです。

電車の中で疲れて眠ってしまっている人は、ほとんどの場合、自分の駅名が呼ばれればちゃんと起きます。
熟睡ではありません。
これはまさに日本の伝統、眠り猫状態。
居眠りは、武士のたしなみと思えば、なんだかその姿も凛々しく見えませんか?

文/岡本清香

TOKYO FM「シンクロのシティ」にて毎日お送りしているコーナー「トウキョウハナコマチ」。江戸から現代まで、東京の土地の歴史にまつわる数々のエピソードをご紹介しています。今回の読み物は「居眠りは、日本人の伝統文化?」として、3月29日に放送しました。

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