健大高崎vs藤井学園寒川

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大きいリード、本盗、盗塁数、打者走者のスピードと随所に機動破壊を見せた健大高崎本盗を決める宮本隆寛選手(健大高崎)

 高崎健康福祉大学高崎(以下健大高崎)が持ち味の走塁で藤井学園寒川を翻弄した。私が全力疾走(俊足)の目安にしている打者走者の「一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満、三塁到達11秒未満」をクリアしたのは4人7回。私の目安では3人以上のタイムクリアが及第点で、5人以上はよく走ったとノートに花丸マークをつけている。つまり、4人7回は「さすが健大」と言ってもいい数で、それに対して寒川は3人5回。これも及第点と言っていい走りである。

 健大高崎の走る野球には「機動破壊」の異名がつくものの、「打者走者の走り」という部分に注目すれば昨年より劣る。しかし塁に出れば走者が大きいリードでバッテリーをけん制し、3回には一、三塁の場面で一塁走者がディレードスチールを敢行、二塁送球のスキをついて三塁走者が生還するというシーンを見た。青柳博文監督が「盗塁数だけだ『機動破壊』ではない」と雑誌に語っている通りの足技である。

 毎年のように走塁で魅了する“スピードスター”も存在する。2番の林 賢弥(遊撃手)だ。3回表に送りバントをしたときの一塁到達タイムが3.82秒。私の目安では4.29秒が全力疾走(俊足)の最低ラインで、4秒を切れば超高校級、さらに3.8秒台は俊足のプロレベル。林の3.82秒はそう簡単に出せるレベルのタイムでないことがわかる。

 しかし、6回裏にはさらにタイムを伸ばしてきた。2死ランナーなしの場面でセーフティバントを決め、このときの一塁到達が3.42秒。隣で見ていたスポーツライターの西尾典文さんのストップウォッチを覗くと、そこには「3.45秒」の数字が。「3.4秒台は初めてです」と言うが、私にとっても3.4秒台は初めてだと思う。

 数年前に糸井嘉男(オリックス)がバントを決めたときのタイムが、私が03年以降計測し続けてきた中での最高タイムだが(はっきりした数値を思い出せない)、林のタイムはそれを超えたと思う。 

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 林の課題は、矛盾するようだが足である。4回裏、先頭打者として一塁ゴロを打ち、このときの一塁到達タイムが5.08秒。アウトと思っても全力で走れば相手守備に混乱が生まれ、セーフになる確率が上がる。2番を打つチャンスメーカーならそれをやってほしい。

 健大高崎にはもう1人、ドラフト候補がいる。柘植 世那(捕手)である。この試合で計測した二塁送球の最速は1.97秒。実戦での記録ではないが(盗塁されていない)、超高校級と評価していいタイムである。さらに4回裏には三塁走者の離塁が大きいのを見て、電光石火のけん制球を投じている。惜しくもアウトにできなかったが、このときのタイムが1.45秒。私の中では1.5秒台が強肩の目安。「1.5秒台」とアバウトに言っているのは、1.5秒未満がほとんど見られないからだ。1.45秒はそれほどスーパーな記録と言っていい。

 藤井学園寒川にも触れよう。試合前には健大高崎の圧倒的勝利が予想されていた。10対4はその通りになったと言っていいスコアだが、藤井学園寒川には元気があった。中盤から終盤にかけてはどちらが今攻撃しているのか、すぐにはわからなかった。それほど走りっぷりや好球必打の姿勢が印象的だった。ちなみに、最近私が注目している「見逃し率」は健大高崎の16%に対して、藤井学園寒川は10.1%。この数値は今大会ナンバーワンである。

(文=小関 順二)

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