アメリカ戦の前日会見に臨んだ宮間。チームの連帯感を強調してなでしこジャパンを引っ張ってきた。(C) Getty Images

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 アメリカ女子ワールドカップ。グループCの1勝1敗同士、日本とカナダはセカンドラウンド進出を賭けて、フォックスボローで対峙していた。日本は先制点を奪ったが、そこから3点を失っていた。すでにアディショナルタイムを数分残すのみ。消耗し切ったイレブンの姿を見れば、誰が見ても敗色濃厚だ。
 
 上田栄治監督(現女子副委員長)は、未来への投資という意味合いも込めて、背番号20の選手を呼んだ。2003年9月27日、18歳の新鋭MF・宮間あやは、初めてワールドカップのピッチを踏んだ。当時の指揮官は、述懐する。
 
「将来のことを考えて、才能ある若い選手を出そうと思って、彼女を送り出しました。当時から才能があることは分かっていました。でも、さすがにここまで凄い選手になるとは思いませんでした」(上田栄治・女子副委員長)
 
 そのカナダ戦から12年の時を経て、宮間あやは日本女子代表“なでしこジャパン”のキャプテンとして、当時の対戦国が開催する女子ワールドカップ決勝のピッチへ上がる。
 
 アテネ五輪は落選したが、上田監督の後を受けた大橋浩司監督の下、宮間は本格的に代表へ定着した。様々なポジションで起用されたが、これは適性を探りながら、出場機会を与える狙いがあったのだろう。07年の中国女子ワールドカップには、レギュラーのひとりとして参戦する。
 
 宮間は、初戦のイングランド戦で2ゴールを決めた。どちらも中距離からのFK。とりわけ2本目は1-2でビハインドを負ってのアディショナルタイム最後のプレー。チームを死の底から救い出す一撃には、追いつかれたイングランドの監督さえ、記者会見で「ファンタスティック」と連呼した。
 
「あれはチームのみんなで決めたFK。ファウルをもらってくれた人がいて初めて蹴れるもの。また、あの時はベンチの選手の気持ちが、自分の身体に入り込んでくるのが分かりました。あんな凄いシュートは、自分ひとりで蹴ろうと思って蹴れるものじゃありませんよ」(宮間)
 
 当時から、今にいたるまで、ゴールを奪うたび、宮間はベンチの選手と喜びを分かち合う。サッカーは「止める、蹴る」だけではなく、一人ひとりの選手、スタッフの結びつき、絆が大きいと考えているからだ。宮間がキャプテンを務めるこのチームは、今、驚くべき連帯感で結ばれている。
 今回のカナダ大会は、前回ドイツ大会、ロンドン五輪のメンバーが17名残ったが、チーム内の序列は大きく入れ替わった。4つの世界大会で連続してレギュラーを務めた近賀ゆかり、3年前のロンドン五輪で正GKを務めた福元美穂、そしてワールドカップ6回連続出場の澤穂希らが、サブ組にいる。実績を数え上げれば、サブ組の作業は役不足と思われる面々が、口惜しさを殺して、自分の後輩たちをサポートしている。そんな姿を見て、宮間が奮起しないわけがない。
 
「毎日、なにか大変なことを、毎日、普通の顔をしてやっている。(そんな姿を見ていれば)決勝の舞台に来られて当然だと思いますし、それだけのことをみんながやっていると思います」(宮間)
 
 この日、一時帰国していた安藤梢も合流し、選手23人全員が再び揃った。
 
「下手な選手がいるなら、上手い選手になれるよう助けてあげればいい。私は試合に勝ちたいけれど、ただ強いだけのチームに入ってチャンピオンになりたいとは思わない。『一緒に戦いたい』と思える仲間がいるチームで世界一を目指したい」
 
 以前の取材で、宮間を指導した本田美登里監督(現・長野パルセイロ)から聞いた、宮間の言葉だ。そして明日、「100パーセント信じることができる仲間たち」とともに、宮間は世界一に挑む。
 
 4年前のドイツ大会では、決勝を前に宮間は澤と語り合った。
「表彰台で優勝カップを掲げる姿が、ハッキリとイメージできるね」と。
 
 野暮な質問とは思ったが、今回はどうなのか、尋ねた。
「アメリカが優勝カップを掲げている姿は想像できませんし、自分たちが絶対にあれをとると思っています」
 
取材・文:西森 彰(フリーライター)